クロスオーバー! フレッシュプリキュア!クロス†フューチャー 砂漠編・チャプター2

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フレッシュプリキュア!クロス†フューチャー 砂漠編・チャプター2

フレッシュプリキュア!クロス†フューチャー ~時の砂漠のプリキュア~
チャプター2 『蜃気楼の海』


見渡す限りどこまでも連なった赤い砂丘。
紫色の空には、月とも太陽ともつかない天体が三つ浮かび、どれも悪夢的に白く光っている。
この砂漠には風が吹かない。生命の息吹を欠いた、動くものの一切ない世界。
その中を、少女がただひとり、ゆっくりと砂山を越えてくる。
薄緑に燐光を放つワンピースのほかは何も身に付けていない。素足で砂を踏みながら、覚束ない歩みを進める。
前も後ろも、全ての方角が鏡で囲まれたように、まったく同じ景色が横たわっている。無数に連なった赤い砂山の群れ、群れ、群れ。唯一異なっているのは、彼女の足元から背後へどこまでも伸びる、小さな足跡の連なりだけだ。
(私は……どうしてここにいるの……?)
砂に足をとられ、両膝と両手をついてうずくまった時、少女の虚ろな瞳に、ある光景が浮かび上がった。

嵐の森。闇の中の鉄仮面。白い巨体。ぎらりと光る刃。断末魔。

少女は砂の上に横たわり、「ああ」とかすれた声を漏らした。
自分は敗北し、友達を殺されたのだ。
その敵は捕えた彼女からデータを採取したのち、この砂漠にゴミのように捨て去った。

お前は用済みだ。逃げるがいい。研究の合間に、狩りを楽しむのもよい。

敵の放った言葉通り、彼女はひたすら逃げ続けた。
足跡を地道に消しながら逃亡すれば、あるいは多少の時間を稼げたかもしれない。しかし、憔悴しきった彼女にはそんなことを思いつくべくもなかった。
復讐をしようという感情すら沸いてはこず、ただ絶望感と、恐怖感に追い立てられ、足を動かし続けた。
ここは何処なのか。少なくとも地球上ではない。
三つの天体から降り注ぐ光は、無機質で冷たく、しかし身体の内側からジリジリと焼き焦がすような、邪悪なものだった。体力はすり減り、意識は朦朧とする。
光る衣が消滅し、代わりに学生服を着た少女が砂の上に横たわっていた。彼女に残った最後のプリキュアの力が、いま尽きたのである。変身アイテムは今や、恐るべき砂漠の使徒の手中にあった。

助けて……誰か……助けて。

喉の奥から絞り出そうとした声は、もはや声にならなかった。
彼女のこぼした涙は、赤い砂の中に一瞬で吸い込まれ、跡形もなく消えていった。

***

机に向かってペンを走らせるイフの背後で、王が床に寝転がっている。ここはイフの自室だ。
退屈そうに寝返りをうつ王は、次第にスピードを上げながら部屋の端から端を往復し、しかも擬音まで口に出して唱え始めた。
「ごろごろ、ごろごろ、ごろごろ……」
耐えかねたイフが、机から後ろに身を乗り出してたしなめる。
「おーちゃん、静かにしてよー……」
「暇なのだ。イフ、海へ連れていけ」
「私も行きたいよー。でも、用事が済むまでは宿題やって待ちなさいって、キサナが」
本来なら夏休み初日の今日、イフ・王・キサナの三人は海へと出かけるはずだった。
だが、早朝になってキサナに急用ができたのである。
すぐに済む用事とは言っていたが、王はすでに我慢の限界にあるようだった。
「うーみ、うーみ」
「はあうう……キサナ、早く帰ってきて~……」
イフががっくりと机に突っ伏してしまうと、王は諦めたように静かになった。そして、窓の外に目をやった。
青い空に白い雲が燦然と輝く。
遠い海鳴り。誰かの呼ぶ声。
――波に、乗り遅れるな。

「んう……あれ? おーちゃん?」
数分後。イフが起き上がると、部屋の中に王の姿はなかった。
廊下に出てみるも、家の中に人の気配はまったく感じられない。
王の部屋を覗いた時、床に一枚の紙が落ちているのにイフは気付いた。
渦潮を象形する古代文字のごとく変貌した、その日本語を解読するのは、数学の宿題よりも困難で時間を要した。

『海え いく 王』

イフはすぐさまキサナに連絡しようとしたが、その前にふと思いつき、クローゼットの中を確認した。
そこにあるのは冬用の制服と、イフが王に譲った古着、そして、何もかかっていないハンガーが数本。
夏休み前、何かと全裸で水に入りたがる王をキサナと二人で懸命に説得し、選ばせた水着がなくなっていた。イフはほんの少しだけ安心した。

***

ラビリンス・トワイライト共和国の中枢にそびえる超高層管制タワー、“ラブサンシャイン”。その頂点付近に位置するクイーン・トワイライト15世の執務室に、キサナは招かれていた。
楕円形のクリスタルテーブルを挟み、彼女はクイーンと向かい合ってソファーに座る。
銀の髪と深紅の瞳。クイーンの生まれ持った外見的特質は、それ自体がトワイライト王家の証である。
「急に呼びつけてしまったが、さすがに迅速な仕事ぶり、感謝するよキサナくん」
部屋の真ん中のテーブルにうず高く積まれたのは、首都ドーナティアの名菓ドーナツ。かつて国の幹部が別世界から製法を持ち帰ったものである。
「あちらの時間ではまだ早朝だったな。すまなかった。これはせめてもの、ワタシからのもてなしだ」
「って毎回出てくるじゃないですか、これ」
15世が生クリームで次々とデコレートを施し、キサナがそれを食べる。傍から見れば微笑ましい少女のままごとのようだが、二人がする会話の内容は見た目からかけ離れている。
「ハッキングがあったことは疑いようがありませんね。ただ、その手口や経路までは……」

本日の未明、ドーナティア・ラボのコンピュータがハッキングを受けていたことが判明した。一週間前の管理データに、ごく些細ではあるが不正なアクセスの証拠が発見されたのだ。
「難しいかね。君の力で犯人の痕跡を辿ることができるかと思ったのだが」
「お役に立てず申し訳ありません」
キサナは艶やかな黒髪に覆われた頭をぺこりと下げた。
「犯人の正体も目的もまったく不明だ。我が国の重要施設に、ここまで完璧なハッキングを行うとは! 実に見事な手並みだよ! 素晴しいッ!! ……ま、盗まれたデータの内容からすると、大事になるとは思えないのだがね」
異様なテンションの雄叫びから一転、なぜか残念そうな表情を浮かべながら15世が机に備えつけられたディスプレイを指で叩くと、背後のスクリーン上に複数のウインドウが開いた。
設計図らしき物とともに、『問題点』『不可能』『中止』『凍結』といったネガティヴな文字が画面に踊る。
「“時間遡行機”。完成すれば文字通り、歴史を揺るがすプロジェクトになる……はずだったが、あまりにも問題点が多く、初歩の段階で打ち棄てられたものだからね」
15世は腕を組み、溜め息を漏らす。彼女にとっては苦い記憶を呼び起こすもののようだ。
「フォルダに押し込めたまま忘れていた0点の答案データを、誰かに掘り起こされたような気分だ。いい気はしないね」
「やはり気になります。メビウスをして逆探知が不可能だったこともですが、ハッキングを受けたのがその一箇所だけなら、相手は既に目的を達したということになるのでは?」
「ウム、犯人の次なる行動に備えてセキュリティを強化、スピリットポリスも市内の電脳空間を絶えず巡回しているが……こちらから打てる手は限られている。今は趨勢を見守るのみだね」
小さな身体をソファーに沈め、若き女王はフウと息を吐いた。
「わざわざ呼びつけておいて申し訳ないのだが、とりあえず用事は終わりだ。今のキミは重要なアドバイザーだが、役人ではない。イフくんと王くんが待っているのだろう?」
「しかし……」
その時、イフからの着信をキサナは感じ取った。
わざわざ跳次元通信をよこすということは、何か不測の事態が発生したに違いない。
仰向けにしたキサナの左手首がほどけ、電脳体が剥き出しになる。仕掛け絵本のごとく空中に展開したホロディスプレイに、イフの半泣き顔とふにゃけた音声波形が並んで表示された。

<おーちゃんがぁ、ひとりで海に行っちゃったみたいでぇ……>

一瞬、キサナの緊張が解けかけたが、すぐにその表情が引き締まる。
王の海に対する執着。それはおそらく、一度死んだ彼女が海から再生したことと関係しているのだろう。
しかし、ここ最近の彼女の様子は明らかにおかしかった。遥か遠くに何かを見、聞き、放心していることが多くなった。
一週間前のハッキング。盗まれた時間遡行機のデータ。時間を遡った経験と、超自然的な感覚とを併せ持つ王は、時空にまつわる何らかの事件を無意識に察知していたのではないだろうか?
それはキサナの電子スペックに頼った推論ではなく、彼女の歴戦の勇士としての勘であった。
キサナは無言で15世に視線を送り、同じ結論に至った彼女と頷き合った。

***

イフが暗号じみた置き手紙を解読し終えた頃、王はすでに海へと向かう列車の中にいた。
青い山に分け入り、トンネルをくぐり、鉄橋を越えていく。王にとっては初めて見るものばかりだ。他の乗客も王の容姿にぎょっとするが、本人はそうした視線をまったく意に介さない。
リニアシステムで駆動する車体は、音も振動もほとんどなく、風のように景色の中を滑っていく。
座席に備えつけられたディスプレイを操作すると、区間ごとの観光名所や名産品が表示されるようになっている。が、王はそれには興味を示さず、ただ窓の外を眺め続けていた。
海鳴りが近づいてくる……。
その頭上わずか数メートル、列車の屋根に片膝をつき、張りつくように息をひそめる仮面のプリキュアがいたことを、乗客の誰も知らない。

途中で旧型の車両へ二回乗り換え、ようやく海沿いの町に到着する。古びた田舎駅を出ると、すでに潮の香りがした。
色褪せた看板の並ぶ商店街を抜け、遺跡のような石造りの塀の合間を歩き、白く乾いた坂道を上っていくと、陽光を受けて苛烈なまでに輝く海原が目に飛び込んでくる。
王の目的地は小さな入り江だった。もちろん、イフとキサナが予定していた観光地とはまったく違う。テレビやデジタル雑誌などで見たわけではなく、彼女にだけ聞こえた海鳴りと呼び声によって導かれた場所だった。
真夏の晴天だが、海辺に人影はない。ごつごつした岩の上を歩きながら、王は靴を脱いだ。海洋生物を思わせる紫色の肌が、日差しを受けてさらに鮮やかさを増す。
入り江の正面には門のような形の苔むした大岩がそびえ、穴の向こうに水平線が見えた。岩のアーチの真下に入ると日差しが遮られ、風が絶えず吹き抜けてとても涼しい。
薄紫色の長髪をはためかせながら、王は沖の方をじっと見つめた。その表情は満ち足りているようでもあり、寂しさを堪えているようでもあった。
「やはり、海はいいな」
口から漏れた呟きを潮風がいずこかへ運び去っていく。
王は制服を脱ぎ捨てて白いビキニ姿になり、波打ち際へ歩を進めた。岩に砕けた飛沫が爪先にかかる。……その時だった。

海が、空が、大地が。彼女を取り巻く世界の全てがぐにゃりと歪んだ。

景色の境界が滲み、ぼやけ、ゆらゆらと踊り始める。蜃気楼のように。
「ようやく、か」
王は微笑み、そして、変転の中へと大きく一歩を踏み出した。
待っていた。この波を。

***

異次元の無限砂漠。
行き倒れた少女の体表を、生き物のようにうごめく赤い砂が侵食する。
砂漠に喰われようとしているその時、彼女の辛うじて開いた目には、過去の情景が蜃気楼のごとく浮かび上がっていた。
――少女の名は桐原コズエ。またの名をキュアウッド。
彼女が妖精シトラと出会ったのは一年前のことである。
その頃の彼女は、毎晩のように不思議な夢を見ていた。白い巨大な獣。それにまたがって戦場を駆ける女戦士。
ある日突然、その夢は現実となって彼女の前に現れることとなる。

ズズン……ズン。

地響きと悲鳴が家の中まで伝わってきた。
靴を履いて表へ飛び出すと、青空に黒々とした煙が立ちのぼっているのが見える。
(空襲!? そんな!)
この町は爆撃の対象となるような人口密集地でもなければ、軍事基地や大きな工場などもないはず。
いや、そもそも、戦争は終わったのではなかったのか。数多くの命と引き換えに。
上空に敵機らしきものは見えない。コズエは危険を承知で、黒煙の方角を目指した。亡き父のことを思い出しながら。

父は彼女が幼い頃に戦場へ行き、帰らなかった。コズエは大工を営む祖父と、病気がちな母に育てられた。
その祖父と母は今日、ちょうど町の中心部へ買い物に出かけていたのだ。
コズエの気持ちははやる。
前から走ってくる人々は、すれ違いざまに「逃げろ」「危ない」「怪物だ」などと、口々に叫びながら後方へ遠ざかっていく。
怪物? 何のことだ?
コズエは疑問に思いながら角を曲がり、そして、その正体を見た。

怪物だ。
巨大な怪物が家々を殴りつけ、粉砕している。人語のようなものを叫んでいるようだが、聞き取れない。
その姿はなぜか、幼馴染の木一郎が作ったこけしに似ていた。お世辞にも出来がいいとは言えず、それでもこけし職人の息子かと、同級生たちから笑われた代物だ。
一体これはなんだ――怪物の足元に目をやった時、コズエはさらに戦慄した。
そこには瓦礫に脚を挟まれた母と、助け起こそうとする祖父の姿があった。
「じっちゃん! かっちゃん!」
「コズエーッ! 逃げろーッ!!」
祖父の叫び声に刺激されたのか、怪物がそちらへ頭を向ける。
このままでは駄目だ! コズエは咄嗟に小さな石を拾い、怪物に向かって投げつけた。
コツン。
かすかな音だったが、石は確かに怪物の頭に命中した。その顔がぐるりと、コズエの方を向いたからだ。全身に怖気が走る。だが、コズエは勇気を奮い立たせた。
「こんっ、バケモンがーっ!!」
二個目、三個目の石を拾っては投げつける。怪物は叫びながら、コズエの方へと歩き始めた。
よし! コズエは身を翻し、町の中央から離れるように怪物を誘導していった。祖父と母親が自分の名を呼ぶ、悲鳴じみた声を背中で聞きながら。

町の外れには鬱蒼とした森がある。これ以上、家も人も傷つけさせるわけにはいかない。コズエは恐怖と戦いながら、森へ続く小道を走った。背後から地響きが追いかけてくる。
焦りがそうさせたのか、小さな窪みに足を突っ込み、コズエは転倒した。起き上がろうとした時にはすでに、巨大な影が頭上に覆い被さっていた。
コズエの悲鳴! だがそれは、直後に響いた獣の咆哮によってかき消された。
木々の合間から現れた白い影が怪物に飛びかかり、頭を打ち払う。
倒れた怪物の上をひらりと飛び越え、白い獣は気を失ったコズエを口に咥えた。そして彼女を自分の背に乗せると、森の奥へと姿を消した。
その様子を少し離れた杉の木の天辺から見つめる、鉄仮面の人物がいた。
「やはり……現れたな」

気がつくと、コズエは大樹の根元に横たわっていた。森の中で大樹のそばだけは他の木がなく、円形の草原になっている。この場所には見覚えがあった。
目の前には白い大きな獣が狛犬のように座っている。だが、不思議と恐怖は感じなかった。その姿にも見覚えがあったからだ。
「気がついたか。勇気のある娘だ」
獣は人の言葉で喋った。こちらははっきりと聞き取れた。
「あんたは……夢に出てきた……」
「夢? 夢と言ったか」
大地から響くようなその声に、わずかな驚きの色が混じった。
「それは先代のプリキュアの夢だ。するとお前が、そうなのだな」
「え……?」
「私の名はシトラ。妖精だ。こころの大樹に選ばれた伝説の戦士を。その資格と使命を受け継ぐ、新たな世代のプリキュアを。……お前を、迎えに来た」
龍と虎をかけ合わせたような姿をした妖精は、ゴオン、と厳粛に吠えた。
「今この国には、戦のために心の花を枯らした人間がまだ大勢いる。彼らを狙って、空の果てから侵略者がやってきている。奴らの名は、砂漠の使徒」
叫び声に振り返ると、先程の怪物が木々を掻き分け、ゆっくりとこちらへ近づいてくるのが見えた。
「じゃあ、あの怪物が……?」
「あれはデザトリアン。砂漠の使徒が人間の心の花を利用して造り出した兵器だ」
「人間? それって、まさか……」
シトラが口に咥えたものを見せる。水晶玉のようなものの中で、小さな人影が胎児のように丸まっていた。その顔には見覚えがある。
怪物がまた叫んだ。今度ははっきりと聞き取れた。

ドーシテジッチャンヤトッチャンミタイニコケシガツクレネンダーッ! 
オラァーナニヲヤッテモダメナンダーッ!

間違いなくそれは、水晶玉に閉じ込められた哀れな木一郎の心の声だった。
思えばこの森、この大樹の下で、幼いコズエと木一郎はよく遊んだものだった。あの頃は二人の父親も生きていた。肩車をしてもらい、それでも手の届かない、遥か彼方の梢を見上げていた。
「デザトリアンを倒し、心の花を奪われた人間を救うには、プリキュアの力でハートキャッチするしかない」
「……私にしか、救えない?」
妖精は頷いた。
「300年以上前から砂漠の使徒とプリキュアの戦いは繰り返されてきた。私は先代のプリキュアたちとともに数度奴らを撃退したが、今度は恐るべき力を持った大幹部が指揮をとって、再びこの星へ攻め込んできた。今、戦えるのはお前しかいない」
「砂漠の使徒。デザトリアン。それと、私が戦う。夢に出てきたあの戦士みたいになって……あなたと一緒に」
「そうだ。力を貸してくれるか、コズエ」
怖くなかったわけではない。しかし、頑固だが人情味にあふれた祖父のもとで育ち、か弱い母を守るようにして生きてきたコズエは、気の強さでは男の子にも負けたことがなかった。
大切な人を守る。父もそのために命を懸けたに違いないのだ。
目の前にいる白い妖精の声は、耳の奥に微かに沁みついた父のそれに似ている気がした。
そして、何より――。
「木一郎、あんたのこけしはちょいとばかり独創的なんだよ。今すぐ思い通りに作れなくったっていいじゃないか。……あんたの明日は、私が守るから」
デザトリアンに向かって呟いた後、コズエはあらためて妖精の方へ向き直った。
「シトラって言ったよね。やるわ。よろしく」
「ありがとう。では、これを受け取ってくれ」
シトラのたてがみの中から光に包まれた物体が飛び、コズエの右手に乗る。霧吹きに似た形状。
シトラの首元のブローチから放たれた光が、コズエの左手の上で形を成す。メダルに似た形状。
「この力は……!」
手にしているだけで何かが体中に漲っていくのがわかる。
コズエのおかっぱが腰より長いロングヘアに変化し、黒髪が柔らかな土を思わせるブラウンに染まった。
「すごい!」
「左にある“プリキュアの種”を、右の“ココロスプレンダー”に投入し、<プリキュア・オープンマイハート>と唱えるのだ」
デザトリアンは森を抜け、草原へと足を踏み入れてきた。もう猶予はない。

「プリキュア! オープンマイハート!」

コズエは叫びながら、プリキュアの種をココロスプレンダーのエナジータンク部分に打ちつける。拍子木のような音が響いたのち、ガラスのような球体を種が透過した。水中にプリエキスが溶け出し、球体が鮮やかな緑色に発光する。
コズエの指がトリガーを引き、自分の体にエナジーを次々と吹きつけていった。ライトグリーンの霧状光がギュッと凝縮し、装衣を生成する。瑞々しい生命の息吹を纏った、新たなるプリキュアの誕生だ!
「そして、あとひとつ」
「何?」
敵は目の前だ。コズエは身構えながら、シトラの言葉に耳を傾ける。
「名前を決めるのだ」
「名前……」
「プリキュアとして戦う時の名前、選ばれし戦士の名、お前自身が決めるのだ」
風が吹き抜け、ザワッという音がコズエの頭上から響いた。
天を仰げば、大樹の枝葉のひとつひとつが、彼女の勇姿に喝采を送っている。それだけではない。足元の草花も、周囲を取り巻く木々も。全ての緑がコズエを支え、激励するエナジーに満ち溢れている。これは決して、孤独な戦いではないのだ。
揺らめく木漏れ日を全身に浴びながら、コズエ――新たなるプリキュアは、襲いくるデザトリアンに向けて大きく見得を切った。

「心を癒す深緑の森! キュアウッド!!」

蜃気楼が消える。
体を蝕む赤い砂を振り払い、コズエは身を起こした。こんなところで寝ている場合じゃない。
虚ろな瞳が光を取り戻す。一瞬の幻の中から、彼女は確かな希望を掬い取った。
「私は……プリキュアだ」
しかしその時、獰猛な猟犬の牙は彼女のすぐそこまで迫っていたのだ。
バウウウウウウウウウン。
静寂を破るエンジン音とともに、血しぶきのごとく砂を蹴立てて何かがこちらへやってくる。
砂山を越えて現れたのは、白いカウルを被ったデザートバイク。その数は、四機。
操縦しているのは砂漠の使徒の配下、上級戦闘兵スナイダーである。

***

デザートバイクを手足のように操り、四体のスナイダーは次々と砂山を越えてコズエに迫った。
彼らの頭部は白いヘルメット状の仮面にすっぽりと覆われ、ライディングに適した形状のグローブとブーツも同じ白。首には黄土色のマフラー、腰には砂漠の使徒のエンブレムをあしらったベルト。忍者のような黒い装束の上からでも、サンド・マッスル(人工筋砂)の隆々とした盛り上がりが見てとれる。

スナイダーたちはあっという間にコズエに追いつくと、彼女を中心にして円を描くように各々のマシンを走らせた。
一機ずつが輪を外れてコズエに襲いかかり、また輪の中へと戻っていく。彼女と交錯するたび、カウルの側面から水平に飛び出した刃が衣服を切り裂いた。
仮面を被った猟犬たちは、なかなか致命傷を与えようとしない。下級兵スナッキーに比べて、彼らはより高度な知能と、残忍さをもたされている。獲物を追い込み、なぶることに歓びを感じているのだ。
しかし、コズエも先程までとは違う。絶望に曇っていた瞳は、すでに戦士としての輝きを取り戻した。
無惨に裂けたブラウスから素肌を晒しているものの、その動きは徐々に機敏になり、刃は彼女にかすりもしなくなった。
思うような快感が得られないことを知ると、スナイダーたちは頷き合い、一斉にバイクからジャンプ、コズエを囲む四方に砂煙を立てて着地した。遊びは終わりということである。

「ヤアアアアアアア!!」
腕を組んで仁王立ちする正面のスナイダーに向かって、コズエは叫びながら組みついた。
一体どこにそんな力が残っていたのか、倍近い体格差をものともせず、祖父直伝の柔道技――払い腰が炸裂する!
が、投げられたスナイダーは空中でコズエの手を振りほどき、逆に首を掴んで砂の上に組み伏せた。
グローブがコズエの喉に食い込む。スナイダーの怪力にかかれば、彼女の首の骨は数秒で粉砕されるだろう。だが、それでもコズエは諦めていなかった。
「てやんでェ……!」
拳を握り締め、スナイダーの顔面を叩く。効くはずもない。無表情な仮面がせせら笑ったように見えた。グローブに力がこもる。コズエの口からカハッと息が漏れる。
彼女の意識がブラックアウトしようとした時だった。
悪夢の砂漠に、吹くはずのない風が吹いた。

「おい、お前たち」

女性が立っていた。いつの間にか、コズエたちのすぐ後方に。
それも、一見して普通の人間ではなかった。紫色の肌を裸同然に晒し、おまけに長身で、呆れるほどスタイルがよい。いよいよ幻覚と幻聴が併発したか、とコズエは思った。だが、スナイダーたちも明らかにその闖入者の存在を知覚し、警戒していた。
「私も混ぜろ」
幻覚でも蜃気楼でもない女性は、白く鋭い歯を覗かせてニヤリと笑った。


<チャプター2→チャプター3につづく>


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テーマ : プリキュア
ジャンル : アニメ・コミック

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更新お疲れ様です!

気になっていたキュアウッドのその後や出自が明かされ、王ちゃんの動きが新たなドラマを生みそうな展開にわくわくしました!

未来でありながら自然を感じる描写に、僭越ながらアスハイの未来感とリンクしている感じがあって嬉しく思いました。

トワライト様サイドでも不穏な動きが・・・ラビリンスを出し抜くものすごい存在とは一体・・・!?

ウッドが夢によってプリキュアとして選ばれていたなどの設定をはじめとして、ハートキャッチのオマージュが散りばめられていて、本家の歴史と相まって楽しめる手法はやはり流石だなと、勉強になりました。


今回も更新お疲れ様でした!次回も楽しみにしております!!

No title

イフちゃんをせっついたり文字書きがまだ不慣れな王ちゃんが可愛いですw

管制タワーの名前やウエスターさんの意思が息づいてる首都名や名菓にはニヤニヤしてましたw動いてる15世は堪んないです(*´Д`)
どうせ起きるなら大事を望んでそうな15世は少々困りものですがキサにゃん慣れてるのか動じませんねww見た目は子供、頭脳は大人を地でいく二人が面白いwメビウスを掻い潜ってデータ浚っていったのはマスカーさんなのか他の誰かなのか・・・気になります(`・ω・´)

マスカーさん気配殺して昼間から大胆な尾行を・・・w
周囲の視線を意に介さない王ちゃんは天然か大物か・・・・・それ以上に王ちゃんを海から呼ぶのは誰なのかが気になるところ(`・ω・´)

ウッドさん折れそうでやっぱり折れないのが流石プリキュアと言うかタフですね。そこへ乱入する王ちゃん。砂漠に学生服のコズエさんもミスマッチだけどよくよく思い返せばビキニ姿の王ちゃんはそれ以上だと気付きましたwwでもイフちゃん達が水着買わせてなかったらもっとあれな状態で乱入してたのか・・・ww

Re: 更新お疲れ様です!

>我さん

二つの物語が合流し、ここからが本番となります!
ハッキングの犯人についても次回から見えてくると思います。

自然の描写はアスハイも意識しましたが、現実で夏が近いので、こういう所に行きたいなーと思いながら書きましたw

無印フレクロの時ほどではないですが、今回もハトプリ本編を見直して設定をさらいました。
プリキュアの中でも特に妄想しがいのある作品なので楽しいですね。

コメントありがとうございました! 次回もお楽しみに!!

Re: No title

>空魔神さん

キサナみたいなロリっ子ならともかく、長身紫肌で幼児じみた言動……ギャップ萌えの範疇に収まるでしょうか?w

フレプリ要素が薄くなりがちなので、細かい部分で地続き感を出しています。
キサナはメビウスと並んで15世の性格について最もよく知っている人物じゃないでしょうか。
ハッキングの真相は早ければ次回には判明しそうな感じです。

忍者といえばああいう乗り方をするものだというイメージがww
天然であり大物って感じですかね。今の王ちゃんは。
呼び声の源もいずれ明らかになりますが、今のところは「王の超感覚が何かに引き寄せられた」くらいに思っていただければ。

ウッドは戦争を経験しているし、彼女が折れずに戦ってそれでも敵わないという時に助けが来た方がいいかなと思いました。
さすがに全裸はやめときましたが、砂漠に水着で大暴れというのは絵面が狂ってて面白いなとw

コメントありがとうございました! 次回もお楽しみに!!

No title

初めまして。
こちらの方もリンクに加えてください。

岩崎つばささん
http://www.netlaputa.ne.jp/~suppoco/

KKKさん
http://blogs.yahoo.co.jp/kazuo10202003

あざらしさん
http://www1.odn.ne.jp/arapon/
http://www.pixiv.net/member.php?id=290214
http://twitter.com/azakuru

No title

No title

No title

Re: No title

>名無しさん

申し訳ありませんが、ある程度の交流のある方しかリンクは貼らせていただいておりませんので、そうしたコメントの連投はおひかえください。
プロフィール

ヤネ

Author:ヤネ
フレクロF、今度はイニシャルWW編です。

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