クロスオーバー! フレッシュプリキュア!クロス†フューチャー 砂漠編・チャプター3

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フレッシュプリキュア!クロス†フューチャー 砂漠編・チャプター3

砂漠の王
フレッシュプリキュア!クロス†フューチャー ~時の砂漠のプリキュア~
チャプター3『砂漠の王』




「私も混ぜろ」
 紫色の肌と髪。金色の瞳。裸同然の格好。
 コズエの前に突如現れたその女性は、風貌の異様さを差し引いても只者ではなかった。全身から立ちのぼるオーラが周囲の空間を侵食していくのが目に見えるようだ。コズエを包囲したスナイダーたちの間にも動揺と緊張が走っているのがわかった。
「手負いの弱者を囲んで痛ぶるとは、いい趣味をしている。私も同じようにもてなしてもらおう」
 言われずとも、とばかりにスナイダーたちはコズエから離れ、女性の四方を取り囲む。
「おいそこのちびっちゃいの、お前はとりあえずそこで休んでいろ」
 女性の言葉が自分を指しているのだと、コズエは最初気付かなかった。
「多少の心得はあるようだが、そんな体では殺されるだけだ」
 勝手なうえに意味不明な言い分ではあったが、コズエは素直に従うことにした。
 この女性は砂漠の使徒の仲間ではないらしい。今の内に敵か味方かを見極め、次の手を考えるべきだ。
 それに、彼女の声には自然と人を従わせる説得力、風格といったものが備わっていたのである。
「私は暗黒淵 王」
「ヤミワダ、オー……?」
「王と呼んで敬え」

 静止した死の砂漠に、吹くはずのない風が今やびゅうびゅうと渦を巻く。
 王は悠然と腕を組んで仁王立ちし、四人のスナイダーはその周囲で攻撃の機会をじっとうかがう。
 コズエは固唾を呑んで見守った。砂漠の使徒の上級戦闘兵スナイダーが群れを成せば、プリキュアですらまともに戦うのは危うい相手なのだ。
 ひときわ強い風が王の髪を巻き上げた。それが合図となった。
 正面のスナイダーが彼女に襲いかかり、同時に他の三人も死角を狙って仕掛けていく。
 次の瞬間の惨劇を予見し、コズエは身を固くした。
 王は身体をわずかに傾けて正面からの抜き手を回避。すかさず逆に傾けて背後からのチョップを回避。さらに、その場でジャンプして左右から挟み込む回し蹴りを回避。すべて腕を組んだままで、である。
 スナイダー全員の視界から一瞬、王の姿が消えた。
 何かが砕けるような鈍い音が響く。スナイダーのうち一人の首をしなやかな紫色の脚が挟み込むと、一気にへし折っていた。
 着地した王の頭上、裂けたスナイダーの首筋から砂が一直線に噴出する。白い砂は一見水のようで、さながら死のスプリンクラーであった。赤い砂漠の上に、白い砂が縄目状に撒き散らされていく。90度横になった首を肩に乗せたスナイダーは、がくりと膝をついて倒れ伏した。
 砂の飛沫をその身に浴びながら、王は唇の端から野獣のように鋭い歯を覗かせ、凶暴な笑みを作った。
「せめて血の海でひと泳ぎといきたかったが、それも叶わぬようだな」
 背後からもう一人のスナイダーが飛びかかる。王は振り向きざま、右手の中指と人差し指を立て、仮面の目元に開いたスリットへと滑り込ませる。両目を潰されたスナイダーは、血の代わりに砂を滴らせながらのけぞった。
 その隙に王は腰を落とし、相手の懐へと踏み込んでいく。密接距離からの掌打がスナイダーの胴を捉えた。黒いボディスーツの下、身体を構成する砂の表面にくまなく波紋が広がっていく。弾かれるように吹き飛んだスナイダーは遥か後方の砂山に突っ込み、爆散した。
 残る二人のスナイダーは王を遠巻きにした状態で硬直していた。想定外の戦闘能力を持つ敵の出現に、彼らは次の一手を決めかねていた。それは、悩むだけの知性が与えられていることの裏返しでもある。
「どうした、来ないのか。なら、こちらから――」
 二人のスナイダーが同時に砂を蹴った。
 プリキュアにすら傷を負わせる威力を持った拳が、前後から王に迫る。彼女は身を翻し、互い違いに打ち込まれる拳を回避しつつ、両手で二人のスナイダーの腕を一本ずつ掴み取った。そして己の胸の前で、腕と腕とを勢いよく交差させた。
 王に引き寄せられるまま、スナイダー同士の仮面が正面衝突する。自らの攻撃の勢いも上乗せされた、その衝撃は想像を絶する。両者は仮面を大きくへこませながらたたらを踏んだ。
 間髪入れずに繰り出された王の拳がスナイダーのうち一人の胸をぶち抜く。おびただしい砂を吐き出し、その場で爆発。
 王はその勢いに乗って背面方向に飛び、空中で一回転してもう一人の頭上に踵を振り下ろす。仮面ごと頭部が胴体へめり込み、着地した王の前で、最後のスナイダーの体が内側から裂け、爆裂して砂を撒き散らす。
「さて……」
 全身に被った砂を払い落しながら、王が溜め息をつく。その時である。
 バウウウウウウウウッ!
 前輪を振り上げたウィリー状態のデザートバイクが王に向けて突進してくる。ハンドルを握っているのはコズエだ。
「でえええええええええええええええい!!」
 回転するタイヤが標的を捉える。
 王の背後から忍び寄っていた、壊れかけのスナイダーの上半身へと、コズエはバイクを突っ込ませた。王の攻撃によってちぎれかけていた首が、タイヤに弾かれてすっ飛んでいく。コズエはアクセルを全開に回し、そのままスナイダーの全身を文字通り粉砕して駆け抜けた。
 そして砂を巻き上げながらターンを決めると、マシンを止めて王と向かい合った。見様見真似のぶっつけ本番とは思えない、天性の勘による見事な操車術だった。
「あんたが敵か味方かはわからない。でも、これで借りは返したわ」
「殊勝なことだ」
 王は心底嬉しそうに笑った。
「お前、名前は?」
「……桐原コズエ」
 消耗し切った体にも関わらず、エンジン音に負けない確かな声でコズエは答えた。
「コズエか。いいだろう、私の家来に加えてやる」
「……」
 コズエはしばし考えたが、この怪人に逆らうのは賢明ではないと判断した。
 何者だろうが、敵でないのなら力を合わせなければならない。この砂漠から、生きて出るために――。
「家来でも手下でも何でもいいけど、とりあえず教えてよ。あなたは一体――」
 言いかけた時だった。
 倒されたスナイダーたちの仮面――砂の上に投げ出されたそれらの両目のスリットから光線が放たれ、空中で像を結んだ。紫色の空に、不気味な鉄仮面の人物の姿が大きく映し出される。
 コズエの全身に怖気が走り、硬直する。その様子を横目に見て、王が呟いた。
「こいつが、お前の敵か」
「プロフェッサー・サボール。砂漠の使徒の、大幹部よ」
 コズエはやっとの思いでそれだけ口にした。
「俺の次元に易々と入り込んだばかりか、スナイダー部隊をもたった1分で全滅させるとは。お前はプリキュアなのか? それとも――」
「私は王だ。暗黒淵 王。プリキュアの王であり、魔人の王であり、あまねく世界の頂点に立つ王」
「面白い。実に面白いサンプルだ」
「王よ、俺の招待を受ける気はないか。偉業には目撃者が必要なのだ。お前はそれにふさわしい」
「いいだろう。私もこの世界の主の顔を直接拝みたかったところだ。願ったり叶ったりだな」
「俺のラボまでの道筋は全てそのマシンにインプットされている。では、楽しみに待っているぞ」
「首を洗うのを忘れるな」
 空に溶けるように消えていく虚像。
 呆然とそれを見上げるコズエの眼前に、ずいと立ちはだかる長身のシルエット。
「行くぞ」
「お、王……」
「臆したか?」
 己を見下ろす金色の瞳を、コズエは精一杯睨み返した。
「ば、ばぁろう! こちとら江戸っ子でぃ! 砂漠の使徒が怖くてプリキュアが務まるかい!!」
 思わず腕まくりしながら啖呵を切る。その様子を見て王はふっと微笑んだ。
「やはりそうか。お前が私を呼んだのだな」
「え?」
「一週間前、私は夢を見るようになった。緑のプリキュアが敗北する夢。そして、声を聞くようになった。何者かが呼ぶ声を。それに導かれて今、お前に出会った」
「……!!」
 コズエは一瞬驚愕に目を見開き、やがてゆっくりと頭を整理しながら言葉をつむぎ始めた。
「確かに、私とあんたが出会ったことは偶然とは思えない。あんたが見たように私はサボールに負け、力もパートナーも失ってこの砂漠に閉じ込められた。……でも、どうして私の状況があんたに伝わったのか」
 ハンドルの上に頬杖をつき、王の顔をしげしげと眺める。
「“こころの大樹”が生んだプリキュア……じゃあないわよね」
「運命の波とは理由なくやってくるものだ。乗るかそるかは己次第よ」
 コズエは少し考え込んだあと、デザートバイクのエンジンを勢いよく吹かした。
「とっとと乗りなよ」
 王がふっと微笑む。
「生意気な家来もいたものだな」



「どこまで行っても砂の海だな、ここは」
 赤い砂漠をひた走る一台のデザートバイク。
 ハンドルを握っているのはコズエだ。といっても、今は操縦しているわけではない。サボールの居場所まで一直線に自動走行しているのだ。タンデムシートでは王が当然のようにふんぞりかえっている。
「それにしても、お前の敵――砂漠の使徒だったか? まるで聞き覚えがないな」
「私だって、あんたみたいな毒々しいプリキュアは見たことも聞いたこともないわよ。魔人、って、一体何なの?」
「魔人とは、いわば闇の眷族。地獄の鬼神。戦いと破壊のための力を身に宿した、誇り高き一族のことだ」
 得意げに語る王に対し、コズエは眉間に皺を寄せて不信感を露にする。
「……どう聞いても悪役よね、それは」
「善も悪もない。私は私、唯一で絶対の王だからな」
「不安だわ。すッごく不安」
「何を言うか。私がついているのだ、大船に乗ったつもりでいるがいい」
 王はかんらかんらと笑いながらコズエの背中を叩いた。その様子と反比例するように、コズエの表情はさらに重くなる。
 噛み合わない会話を続けるうち、前方の景色に変化が現れた。赤い砂山の合間から、黒い建造物が頭をのぞかせた。
 漆黒のピラミッド。段の合間の溝が青白く明滅し、何らかのエネルギーが絶えず流動しているのがわかる。まるで巨大な生き物のようだ。
 デザートバイクが自動的にスピードを落とし、ピラミッドのふもとで停止した。目の前には二人を招くかのように大きな入り口が開いている。
「私に何かあっても、サボールを倒すことを優先して。自分の身は、自分でなんとかするから」
「よい心がけだ」
 言葉とは裏腹に、コズエの心にはまだ強い恐怖が残っていた。この奥にあのサボールが待っていることを思うと、体の震えを抑えるのに精一杯だった。
 コズエは現在、変身不能の状態にある。ココロスプレンダーはサボールに奪われ、何よりプリキュアの種を生成するパートナー妖精を永久に失った。
 しかしそれでも、彼女は戦うつもりだった。あの嵐の森で、自分の目の前で無残に殺されたシトラの姿は瞼に焼きついている。
 ――変身できなくても、私はプリキュアだ。砂漠の使徒がココロスプレンダーを悪用しようというのなら、命に代えても阻止してみせる。そして、絶対にシトラの仇を討つ――。
 王よりも早くバイクから飛び降りると、コズエは先陣を切って魔宮へと踏み込んでいった。

 その様子を高みから見つめる目があった。
 ピラミッドの頂点に位置する空間。暗闇の中で一人の人物が玉座に腰掛け、中空に投影される映像を眺めている。
 スクリーンの明かりに照らし出され、長い髪と流麗な横顔の輪郭がかすかに浮かび上がって見えた。
「戯れに野に放った兎が、ライオンを連れて戻ってくるとはな。願ってもないことだ」
 恍惚とした声で呟くと、その人物は手にしたグラスを唇にあてがい、ゆっくりと傾けた。器を満たしているのは、血のように赤い砂だ。
「暗黒淵 王と、確かにそう言ったな。ラビリンスの記録にあった究極のイレギュラー存在。お前の生きたデータを加えてこそ、俺の研究は真の完成に到達する」
 玉座の背景には、巨大な天球が浮かんでいた。半透明の球体の内部には、青く輝く星雲のようなものがゆっくりと回転している。
「では、これよりテスト開始だ」
 玉座の主が立ち上がるとともにコズエたちの映像は暗転し、仮面を被った人物の姿が代わりに映し出された。
「研究記録720102。終了」
 そう呟くと、プロフェッサー・サボールは身を翻し、暗闇の奥へと消えていった。スクリーンには、徐々に見えなくなる彼の背中だけが映し出されていた。



 ピラミッドの内部はまるで宇宙基地のように機械的で無機質な通路が延々と続いていた。天井から床まで、無数の文字や図形がびっしりと書き込まれている。何らかの計算式や設計図のようだ。
「見てるだけで頭が痛くなりそう」
「サボールというのは相当な暇人のようだな」
 やがて視界が開け、ドーム状の広間に突き当たった。中央には奥へと昇っていく大階段。その中腹に、巨大な黒と白の塊が鎮座していた。
 一方は翼を生やした巨大な竜。もう一方は、四足の白い獣だった。
「ようやく出迎えか。精々もてなしてもらおう……ん?」
 戦闘態勢をとりかけて、王は前方にいるコズエの異変に気付いた。
「おい、何をぼんやりしている」
「……シ……ト」
 コズエは両目に涙を溜め、魂を奪われたような表情で階段を見上げている。視線の先には白い獣が立っていた。
 獣は彼女に応えるかのようにウオンと吼えた。
「ちっ」
 王は舌打ちし、コズエの背中を容赦なく突き飛ばした。4、5メートルほど前方へ転がったコズエは、跳ね上がるように身を起こし、振り返りながら怒鳴った。
「てンめぇ、何しやがん――」
 彼女の叫びを掻き消すように、降り注いだ白い巨体が砂煙を噴き上げた。先程までコズエが立っていた場所に、鋭い爪痕が深々と刻まれていた。
「シトラ……?」
 コズエは呆然とパートナーの名前を呟いた。龍の頭を持つ猛虎は、低く唸りながら目の前の獲物を見下ろす。
「シトラ、どうしたの!? 私がわからない!?」
 突然の再会、そして裏切り。困惑し、悲痛に叫ぶコズエを、王は冷徹に見つめた。
「無駄だ、そいつはお前を殺すことしか考えていない」
「あんたに何がわかるのよ!! 私たちは……私たちは」
 その言葉を遮るように、二人の頭上にさっと黒い影が差した。両翼を広げた竜がこちらへ降下してくる。開いた大口の奥底から、燃えさかる業火を吐き出しながら。
「竜(ドラゴン)――いや、火竜(サラマンダー)か――」
 呟きながら身を翻そうとして、王は足を止めた。自分ならかわすことは簡単だ。しかし、錯乱しきったコズエはそうもいくまい。
「世話の焼ける家来だ」
 王の掌から噴き出した液体が、一瞬にして長柄の斧を形作った。
 ――“バルディバッシュ”。
 大振りの刃がついたその武器を、王は片手でくるくると回転させた。プロペラ状になったバルディバッシュを盾に、“サラマンダー”の炎を真正面から受け止める。王の長い髪の毛先がジリジリと嫌な音を立てた。
「ち……焼けるのはこっちも同じだな」
 王の全身を包むかに見えた“サラマンダー”の炎は、バルディバッシュの作り出す暗黒物質の渦に巻き込まれ、闇色の鬼火へと変換されていった。こうなれば、もはや王に従属する力でしかない。
 正面の敵の動きを警戒しつつも、王はコズエの様子を横目で伺った。
 シトラが横薙ぎにした爪の一撃を、コズエは後方宙返りでかわしたところだった。しかし、その心は目に見えて動揺しており、体が覚え込んだ戦闘スキルによって奇跡的に致命傷を避けているだけに過ぎない。現に、彼女の脇腹にはうっすらと血が滲んでいた。動けなくなるのも時間の問題だ。
 ガオオオオオオオン!!
 炎が効かないと知ると、“サラマンダー”は天に向かってひと鳴きした後、その巨体を武器に突進してきた。しかし、王は動じない。
「ボトムテンプテーション!」
 王の腰部から八本のエネルギー触腕が孔雀の羽根のように伸び、“サラマンダー”の全身に乱打を見舞った。そして一気に胴体を絡めとると、ピラミッドの壁面に思い切り叩きつけた。瓦礫と爆煙が巨体を呑み込む。
 再びコズエに視線を移すと、倒れ込んだ彼女にシトラが覆い被さり、今まさにトドメを加えようとしているところだった。意識が朦朧としているのか、コズエの目は虚ろになり、「シトラ……シトラ」と呟くばかりで動こうともしない。
 鬼火をまとったバルディバッシュを携えたまま王はひらりと跳躍し、シトラの真上へとその刃を振り下ろした。
 グオオオオオオオオオオッ!!
 獣の断末魔がピラミッド内部に木霊し、コズエを目覚めさせた。
 胴体を寸断されたシトラは、おびただしい量の砂を血のように噴き出しながら倒れ、動かなくなった。やがてその全身が鬼火に焼き尽くされて消滅し、あとにはうず高い砂山だけが残った。
 コズエにとってそれはまるで、あの悪夢の一夜の再現だった。
「残るは一匹だな」
 背後で瓦礫から這い出そうとしていた“サラマンダー”に向かって、王はバルディバッシュを投擲した。回転しながら飛来した刃の切っ先で胸を貫かれながらも、“サラマンダー”は再び王に向かって炎を噴きつけた。しかし、その行動は既に読まれたものだった。
「遅い」
 王は全身を瞬時に液状化させると、複数の塊に分散して炎を回避した。暗黒物質で構成された彼女の体は変幻自在なのだ。さらに、空中に散らばった己の体を硬化・尖鋭化させ、槍の雨となって降り注いだ。
 体中を貫かれた“サラマンダー”は地面に縫いつけられ、ピクピクと痙攣した。槍たちは再び液状化し、砂漠に水が染み込むように火竜の体内へと侵入していく。
 次の瞬間、黒い巨体が倍の大きさに膨れ上がったかと思うと、風船のように内側から避けて爆裂した。大量の砂が飛び散る中、一糸纏わぬ姿の王が悠然とその中心に立っていた。
 拾い集めた水着を手ぬぐいのように肩にかけ、
「シャワーは、……ないだろうな」
 ため息混じりにぼやいた。

 砂の海にへたり込んでいたコズエは、隣に立った王を見上げた。コズエの両目からは涙が溢れ、結んだ唇が震えていた。
「……どうしてよ」
 絞り出すような声だった。
「どうして、シトラを殺したのよ」
「なら、お前が殺されたかったか?」
 突き放したような王の口調に、コズエは床を叩いて立ち上がり、怒号を浴びせた。
「パートナーを殺されるよりはマシよ!!」
「……あれはお前の妖精ではない。ただの人形だった」
 王は床からすくい上げた砂をコズエに示した。
「心を持たない、砂漠の使徒が作った操り人形だ。お前にそれがわからなかったのか?」
「……わかっていたわよ……でも、それでも」
 コズエは砂を握り締めて叫んだ。
「シトラは私のパートナーだった……いえ、大切な友達だったのよ!!」
 しかし、彼女の怒りとは対照的に、王の声は深海のように暗く冷え冷えとしたものに変わっていった。
「――“トモダチ”とは、そんなくだらないものか」
 王はどこか悲しげな表情で言った。
 その時、階段の遥か上から、嘲るような声が響いてきた。
「不完全なデータに基づく再現体とはいえ、変身もせずに“男爵”を一蹴するとはな。究極のイレギュラーというのも大袈裟ではないらしい」
「ふん。元ネタが何かは知らんが、砂袋ごときに私が負けるか」
「お前が……シトラの偽物を作ったのか」
 コズエは燃えるような目で頭上を睨んだ。恐怖を吹き飛ばすほどの、熾烈な怒りが彼女の中でうねりを上げていた。
「偽物だと? 大昔に砂漠の使徒を追放され、力の結晶の一部とわずかなDNAデータしか残されていなかった“男爵”と違って、あの妖精の再現は完全だったよ。力も、姿も、戦闘アルゴリズムも」
 声は自らの研究成果を誇るように喋り続け、そして、
「まあ所詮は妖精、結果は情けない死に様を上塗りしただけだったがな」
 憎しみを煽り立てるような嘲笑が木霊した。
「サボールううううううううううッ!!」
 王の手がさっと伸び、猛然と走り出そうとしたコズエの肩を掴んだ。
「離しやがれっ!!あいつだけは私が――!!」
「奴とは私が戦う。そんなに仇が討ちたいのなら、隙を突いて自分の力を取り戻す算段でもしていろ」
 王の提案は正しかった。しかし、それでコズエの心が鎮まるわけではない。掴みかかろうとしたコズエの手を、王は易々と振りほどいた。
「言っておくが、私には心がない」
「え……」
 王は自分の裸の胸を指して言った。
「あの人形どもと同じようにな。だから、遠慮は要らん。殺したくば殺すがいい。その前に、私がお前を殺すがな」
「……やっぱりあんたは、プリキュアなんかじゃない」
 言い合いをするうちにコズエはいくらか冷静さを取り戻したようだったが、その心には王に対する怒りと軽蔑が深々と刻まれていた。
「そうだな。私はプリキュアである前に、魔人だ」
 王もまた、氷のような視線でコズエを見下ろした。
「さあ、上がってくるがいい。プリキュアどもよ」
 二人の諍いを愉しむかのようなサボールの声が鳴り響く。
「とっておきの研究結果を教えてやろう。……暗黒淵 王、お前は死ぬ。この俺の手によってな」



 ピラミッドの上層部には庭園とも言うべき空間があった。荒野のようなひび割れた地面に、青白い燐光を放つサボテンがいくつも立ち並ぶ。天井のスクリーンには重なり合う月と太陽が映し出され、白い炎の輪がゆらめいている。静寂の中にひとり立つ鉄仮面の人物。
「そろそろ出てきたらどうだ」
 手元のデバイスで下層部の様子を把握しながら、サボールは呟いた。
 その言葉に応じて足元の影が倍ほどに伸び、その表面からせり上がるようにして仮面の少女が現れた。
「こそ泥が。俺の研究について少しは掴めたか? 未来のプリキュアというのは品のない奴ばかりだな」
 少女は両手をオーバーに広げ、乾いた笑い声を響かせた。
「オゥ、ソーリィ。バーット、悪党相手にマナーは必要ナッシング、デスネー」
 おどけた口調と顔の上半分を覆う仮面、それらを通してなお滲み出す殺気がビリビリと空気を震わせるようだった。
「プロフェッサー・サボール。ユーはやはり、別の時代からやって来マシタネ」
「そういうお前は一体どこの時代から来た? 固有タキオンのベクトルは未来方向を示しているようだが」
 サボールはデバイスの画面に映し出された波形パターンを突きつけながら言った。
「……チッ」
 少女が舌打ちした時、ちょうど階段を上りきった王とコズエが庭園に入ってきた。
「サボールと――あの子は一体?」
「ああ。あれはな――」
 王が答えるよりも早く仮面の少女は跳躍し、二人の傍らに降り立った。親指で王を指し示しながらペラペラとコズエに喋りかける。
「ハイ、クラシックガール。ソッチのパープル・モンスターはソー・デンジャラス。ランチにされてしまいマスヨー」
「私は桐原コズエ。キュアウッドよ。今はサボールのせいで変身できないけど……。あなたもプリキュア?」
「ザッツ・ライト! マイ・ネーム・イズ、キュアマスカー♪ あなたのハート、キャッチしマスカー?」
 マスカーはくどいほどの笑顔と媚び声にダブルピースまで付けて応えた。コズエの顔がげっそりと青ざめる。
「……ちょっとついていけないわね」
「相変わらずやかましい奴だ。どこにでも湧いて出るな。また私に喧嘩を売りに来たのか?」
 王も呆れた顔をしたが、マスカーはすぐに声のトーンを改めて言った。
「今日ばかりはユーに構っている場合ではありマセン。砂漠の使徒を倒さなければ、ミーたちの未来は消滅(バニッシュ)しマス」
「ほう?」
「どういうこと? サボールが何をしようとしているのか、あんたは知ってるの?」
 コズエが問いかけると、マスカーはウィンクとともに頷いた。
「ヒントはコノ砂漠の砂デス」
「砂?」
「イエース。コノ砂漠の砂の正体は不活性タキオン粒子デス。おそらくは、不完全な航時機(タイム・ボート)の動作によって多量に放出されてしまったモノデショウ。サボールが、過去からコノ時代へやって来た際にネ」
「過去から……って」
 仮面越しの視線が、コズエのそれと正面から交わった。真実を語るために。
「キュアウッド、ユーは100年以上の時を跳び越え、過去から来たのデス。サボールとともに」
「そんな、ことが……」
 時代柄、いわゆるSF作品の類にすら触れる機会のなかったコズエにとっては、時間移動など想像もつかないことだった。
「プロフェッサー・サボール。ユーの目的はズバリ、航時機の完成デス。ソシテ、ゆくゆくは歴史を――」
 拍手の音がマスカーの言葉を遮った。今まで黙り続けていたサボールが、ぱちぱちと手を叩いている。
「ハハハ、見事な推理だ。その続きは俺の口から説明をくれてやろう」
 白衣を翻し、芝居がかった動作を交えながらサボールは語り始めた。
「お前の言うとおり、俺は過去からやって来た。時間移動実験は成功したのだ。だが、未来へ進むだけでは完全な航時機とは呼べない。俺の目指す物は、未来へ進むだけでなく、過去のどんな時間へも自在に遡ることができるマシンだ」
 彼の研究発表を劇的に演出するかのように、周囲のサボテンが光を強める。
「ラビリンスのコンピュータをハッキングしたのも、時間移動実験のデータを収集するためデスネ」
「ああ、俺の頭脳にかかれば簡単な仕事だったよ。それに、偶発的に生まれたこの空間は不活性タキオンの影響で外界から隔絶され、研究には最適だった。時を越えたことのある者でなければ、攻め込むどころか入り口を見つけることすらできないのだからな」
「時間を越える機械を作って、それでどうしようっていうのよ」
 コズエの言葉にサボールは両腕を広げて答えた。
「いいか? 世界とは因果律のリレーだ。どんな大木でも、元はほんの小さな種子に過ぎない。消し去るのは造作もないことなのだ。はじまりの時まで遡り、その種を踏み潰してしまえばいいのだからな」
 仮面の下の瞳が、憎しみと歓びに燃える。コズエはその言葉の意味を理解して背筋を凍らせた。
「“こころの大樹”のない世界。プリキュアの存在しない世界。全て思うがままだ。どんな世界でも、俺の好きなように作り出せる」
 狂気の夢を語りながらもサボールの声は冷静で冷徹な響きを保ち、それが妄言でないことを示していた。
「すでに時間遡行のプロセスは始まっている。もうじき全ての時間が、世界が、俺の手に収まることになる。砂漠の王デューンをも超え、全次元の王サボールとなって永久に君臨するのだ」
「全次元の王だと? そんな寝言はまず、目の前の私を倒してから言うことだな」
 言うが早いか、王はバルディバッシュを振り回しながらサボールに飛びかかった。
 火花が炸裂し、わずかに遅れて金属音と衝撃波が辺りを駆け巡る。コズエは咄嗟に身を伏せてしのいだ。
 サボールは仮面のトゲを槍に変化させ、二又に分かれた部分でバルディバッシュの刃を受け止めていた。互いの得物越しに、至近距離で睨み合う両者。
「俺がお前を倒すだと? 勘違いをしているようだな」
 サボールの目がメスのように鋭く光った。
「お前たちはただのサンプルだ。ここは戦場ではなく実験場だ。寝言を言っているのがどちらか、お前でも理解できる手段で教えてやろう」
 メラメラと燃え立つ両者の殺気を撫でるように、緑色のつむじ風が駆け抜ける。マスカーである。
「オッケ~イ。アツく、ハゲしく、いきマスカー!」
 回り込んだマスカーが、サボールの背に向けて衝撃集中手裏剣を放った。1枚から2枚、2枚から4枚、4枚から8枚に変化する、分身投法である。
 しかしサボールは、飛来する手裏剣の群れを見もせず、左手の指先から放つ針のマシンガンで全て撃ち落とした。それだけではなく、返礼とばかりに周囲の発光サボテン群がマスカー目がけて一斉に針を射出する。
「くッ……」
 マスカーは仮面の下で歯噛みしつつ、回避に専念するしかなかった。
 一方、噛み合ったまま微動だにしない斧と槍。王とサボールの力比べは、両者一歩も譲らない膠着状態となっていた。
 痺れを切らした王は体を液状化し、サボールを取り巻く全方位に分散して一斉攻撃を仕掛けようとした。だが、
「サボールフラッシュ!」
 サボールの鉄仮面が目も眩む閃光を放った。
 マスカーは咄嗟に仮面の遮光機能を作動させ、同時にディメンジョンハットから取り出したミラージュマントをコズエに被せて防御した。
 至近距離で光熱に晒された王は、すんでのところで再結合して質量を増し、蒸発をまぬがれた。全身から白煙を立ちのぼらせ、たまらず片膝を突く。
「お前の戦闘パターンは二度も見せてもらったのだ。次に何をするのかなど、手にとるようにわかる」
「……思い上がるなよ、ハリセンボン」
 サボールは身を屈め、苦悶する王を覗き込んだ。上目遣いに睨む王と、互いの視線が激しくぶつかり合う。
「思い上がっているのはどちらだ。変身もせずに俺を倒せるつもりか。――それとも、しないのではなく、“できない”のか?」
「同じことだ。お前は倒されるのだからな」
「よし、わかった。ウォーミングアップはもう十分だろう」
 サボールは自身の左胸にあしらった黄色いドライフラワーを無造作にむしり取った。儚く舞い散る花びらを吹き飛ばすように、胸のアーマーがバクンと左右に開く。その中心にあるものを見て、コズエは愕然とした。
「それは……!!」
 アーマーの内部に組み込まれていたのは、コズエの変身アイテム――ココロスプレンダーだった。



「見せてやろう、俺の研究成果を」
 ドライフラワーの中に収められていたもの――“こころの種”に似た青黒いチップが、サボールの手によってココロスプレンダーへとセットされた。
 スプレンダーを取り巻くアーマーがさらなる展開と変形を繰り返し、鏡張りの玉座のようなものを形作った。
「デザートミラージュ作動!」
 玉座から幾条もの光が放たれると、それを浴びたサボテンたちが光に同化してサボールのもとへと結集していく。全身に融合した光は、やがて禍々しい鎧の形を成した。
 地面がめくれ上がり、空気が鳴動する。光を内側から引き裂くようにして現れたのは、漆黒の仮面と鎧に身を包んだサボールだった。全身が青白い陽炎のような闘気でゆらめいている。

「サボール・ハオーシルエット!!」

 サボールの叫びとともに、凄まじい波動が空間を伝播した。コズエは自身の“こころの花が”悲鳴を上げるのを感じた。
「なんて強力なダークパワーなの……!」
「違うな。これはシャドウパワー。プリキュアの力を反転して作り出した、いわば影の力だ」
 ギリリと音を立てながらサボールは両拳を握り締めた。鎧が筋肉のように盛り上がり、体格が二回りも大きくなったように見える。
 王とサボールが正面から対峙し、マスカーとコズエはやや後方から二人の動向をうかがう形となった。さしもの王といえどハオーシルエットの前には慎重にならざるを得ないのか、バルディバッシュを握ったまま動こうとしない。
「来ないならこちらから行かせてもらおう」
 サボールが自ら打って出ようとした時、
「それには及ばん」
 王がニヤリと笑った。
 サボールの足元が裂け、地中から闇色の液体が噴出する。
 先ほど液状化した際、王は自分の分体をひとつだけ地中に潜ませていたのだ。
「オゥ! ドトン!」
 マスカーが嬌声を上げる。
 暗黒物質はサボールの背面から覆い被さるようにして四肢を拘束した。
「そのハリボテがお前の棺桶だ」
 王が獣のような前傾姿勢で地面を蹴る。その腰からエネルギー触腕の群れが展開し、煙の尾を引くミサイルのごとき軌道を描いてサボールに殺到すると、全身に突き立った。
 さらにトドメとばかり、一気に肉薄した王は、渾身の力を込めてバルディバッシュを振り下ろした。
 が、
「非力だな」
 瞠目したのは王の方だった。サボールは仁王立ちを保ったまま彼女を見下ろしている。
 胸部アーマーを貫くはずだったバルディバッシュの刃が、ギーンと振動したかと思うと、先端から粉々に砕けた。
 サボールに接触した分体やエネルギー触腕もまた、シャドウパワーに巻かれて燃え尽きていた。
 鎧には傷ひとつない。
「王、逃げろッ!」
 コズエが悲痛な叫びを上げたが、その時にはもうサボールの鉄拳が王の胴体へと叩き込まれていた。
 液状化も間に合わず、広大な空間をほとんど水平に飛ばされた王は、大の字になって壁に打ちつけられた。暗黒物質が血飛沫のように弾け散り、壁一面に貼りついた。
「次はお前の番だ」
 サボールは振り向き、マスカーを見据えて言った。
「その言葉、そっくり返すわ」
 マスカーの声色が一変した。
 彼女の仮面がバシャリと口元まで閉じたのを合図に、両者の姿が掻き消え、目にも留まらぬ高速戦闘が開始された。
 サボールの拳が幾度となくマスカーを捉えるが、粉砕されたのは丸太、地蔵、狸の置き物――ことごとく身代わりである。
 サボールがついに彼女の姿を見失った時、頭上の黒い空がペロンとめくれ、光学迷彩モードになったミラージュマントの下から本物のマスカーが顔を出した。
「ヨロイは硬くても、それを纏うユーの内側はどうデスカ?」
 マスカーがディメンジョンハットを逆さにすると、内側から溢れ出た煙幕が一瞬で周囲を包み込み、その向こうから緑色の髪を振り乱した巨人が姿を現した。
 相手の恐怖心を反映する幻影殺法“プリキュア・ファントムスタンピード”である。
 作り出された“砂漠の王”の幻はサボールを一瞬だけ怯ませたが、すぐさまその全身にシャドウパワーが漲る。
「今の俺には、デューンなど恐るるに足らん!」
 サボールは右の掌に集めたパワーを一気に解き放った。
「シャドウフォルテウェイブ!!」
 青い火柱のような波動は、幻影を貫き、マスカーを直撃した。大爆発が巻き起こり、コズエは衝撃波に殴られて吹き飛んだ。
 やがて、煙の中から落ちてきたものが地面とぶつかって鈍い音を立てた。ズタズタに傷ついたマスカーだった。
 装衣は黒く焦げつき、仮面には縦に大きなヒビが走っている。しかし、その細い指先はまだ、かすかに動いていた。
「殺しはせん。お前は航時機の研究に役立つサンプルだからな」
 朦朧とする頭を押さえながら起き上がったコズエは、サボールが手加減をしていたのだと知った。
「サボール……!」
 コズエは悔しさを噛み締めながら呻いた。今の彼女には立ち向かうどころか、ハオーシルエットの放つシャドウオーラに耐えて意識を保っているだけで精一杯だった。
「お前のおかげだ、キュアウッド」
 さらに追い討ちをかけるように、サボールの言葉が針となってコズエの心を刺した。
「お前の弱さのおかげで、俺は望む全てを手にすることができた。礼に、新兵器の実験台第一号の栄誉をくれてやろう」
 サボールの胸アーマーが再び展開し、鏡の玉座“デザートミラージュ”がその中央にコズエの姿を映す。
「――鏡の玉座よ、プリキュアに死を」
 コズエは身動きすらできず、絶望に歪んだ自身の顔と対面した。サボールの詠唱に応え、凄まじい量のシャドウパワーが“デザートミラージュ”に集まっていく。

「デザートビーム照射!!」

 白と黒のノイズが混じり合う砂嵐状の光線が鏡面からほとばしった。
 コズエは、死んだ父とシトラの影を、迫り来る光の中に見た気がした。
 ――いや――、
「あ……あ」
 幻ではなかった。コズエの目の前に立つ影が、死をもたらす光の奔流を受け止めていた。
 翻った長い髪がコズエの頬を撫でる。
「王……!」
 それは王だった。バルディバッシュを生成するだけの力が残っていないのか、前方に向けた右掌だけで光線を防いでいる。その手から腕、そして肩へ、紫色の肌が乾いた泥のようにひび割れた白色へと変わっていく。
「王!!」
「情けない声を出すな」
 全身が枯死しつつあるにもかかわらず、王の声はまったく変わらぬ威風を漂わせていた。
「お前は目の前のことに振り回されすぎる。真実を見据える目がなければ、お前は自分の心に負けたままだ」
 コズエは王の左手を掴もうとした。しかし、泥の塊と化した腕はヒジのあたりで折れ、地面に落ちて粉々になった。コズエは、できることなら目に映るものの全てを嘘だと思い込みたかった。
「あの妖精は……シトラといったか」
 王が背を向けたまま、ぽつりと呟いた。
「え……」
 コズエは、光の中に溶けていく彼女の影をもう一度、見た。
「すまなかった」
 それが最後の言葉だった。
 光線を全て受けきると、王は支えを失ったマネキンのように倒れ込んだ。白茶けた体のあちこちが砕け、ボロボロと崩れ落ちる。まるで乾いた地面の一部になってしまったかのようだった。
 声を出す力もなく、コズエは両膝を突いて王だったものを見下ろした。

 ドクン。

 まるで彼女の絶望に呼応するかのように、ピラミッドの最深部で何かが脈動した。
 暗闇の中で巨大な砂時計がゆっくりと一回転し、器を満たした青い星屑のような光がサラサラと流れ落ち始めた。その正体は重タキオン粒子の加速システム、すなわち航時機の中枢である。
いよいよ時間跳躍のカウントダウンが始まったのだ。
 人知れぬ時の砂漠で今、世界の命運が尽き果てようとしている――。


<チャプター3→チャプター4につづく>


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