クロスオーバー! フレッシュプリキュア!クロス†フューチャー 砂漠編・チャプター4

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フレッシュプリキュア!クロス†フューチャー 砂漠編・チャプター4

フレッシュプリキュア!クロス†フューチャー ~時の砂漠のプリキュア~
チャプター4『影の帰る場所(前編)』




 私が生まれて初めて目にしたのは、地平線まで続く荒野だった。
 くすんだ茶褐色の空の下、渇ききった大地に白骨のような岩が累々と横たわっている。黒衣の亡者がのたうつ姿に見えるのは、ねじれた枝を方々に伸ばしながら朽ち果てた樹木だ。
 私の真上では二つの天体が重なり合って静止していた。黒い円の縁をなぞるように、白い炎の輪がかすかにゆらめいている。
 視線を落とすと、私の目の前に女の子が立っていた。私は、それがもう一人の私であると知っていた。
 女の子は一瞬驚いた表情を浮かべたあと、眉を吊り上げて私を睨んだ。
「その姿は何のつもりだ」
 ――つもりも何もない。私は、この姿でたった今、生まれてきたのだから。
「私はあなたの影」
 私は、私が知る真理を彼女の問いへの答えとした。しかしそれは、彼女にとっては好ましくないものであったらしい。
「くだらん。失せろ」
 顔目がけて飛んできた拳を紙一重でかわし、続く回し蹴りを左腕で防いだ。私にとって、初めての“痛み”だった。
 私は体の動くままに彼女との戦いを演じた。そうすることが自分の役目であると知っていたからだ。 そして、彼女の“心”の裏側を――私を生み出した影の部分を、言葉にしていった。
「私は恐れている。目を背け、覆い隠したいと思っている。自分自身の弱さを」
 彼女の表情が変わった。認めたくない内面を目の前に晒された動揺と怒りが充満する。
「そのために数え切れない敵を屠り、たった一人の大切な人を死に到らしめた。――私はもう、戻れない」
「黙れ! どけ! お前に構っている暇などない!」
 彼女の攻撃は激しさを増し、それに影響されるように私の内側からも抑えきれない衝動が湧き上がっていた。突きつけられる暴力と痛みが呼び覚ますもの。彼女から流れ込む暗い炎のような感情が自分の中に蓄積し、燃え盛るのを止めることができなかった。
「消えろ!」
 彼女が吼えながら打ち込んできた拳は簡単に私の右掌に収まり、押すことも引くこともできなくなった。
 凍りつく彼女を私は見下ろした。
「お前が消えろ」
 自分でも信じられない言葉を私は口にしていた。同時に、黒い炎を纏った私の拳が彼女の胸部へと打ち込まれ、その体を荒野の彼方まで吹き飛ばした。
 人形のように地面を跳ねた彼女は、二度と立ち上がってくることはなかった。
 頭上では物言わぬ白い炎の輪がゆらめいている。
 私はこのとき、“憎しみ”と“恐怖”を知った。
 彼女と入れ替わるように、私は彼女の元いた世界へと飛ばされた。
 そこは光の宮殿だった。影の居場所ではなかった。
 私は逃げた。
 闇から闇へ。
 より深い闇へ――。



 そよ風が草と土の匂いを運んでくる。枝葉の揺れる音が耳をくすぐり、体をあずけている白い絨毯からは香水のような甘く爽やかな香りがした。
「いつまでそこにいるつもりだ」
「いつまでだっていいじゃないの」
 シトラと初めて出会った場所。休日にはここで時を過ごすことがコズエの楽しみになっていた。
 彼の背に寝そべって梢を見上げていると、昔のことを思い出す。セピア色の記憶の中の、温かくて大きな背中を。
「……ねえ、シトラ」
「なんだ?」
「プリキュアの力で、戦争をなくすことってできないかな」
「できない」
 シトラはきっぱりと答えた。
「人間同士の争いにプリキュアの力を持ち込めば、我々は危険視され、砂漠の使徒と戦うことすらできなくなるだろう」
「でも、人間のこころの花を一番枯らせているのは……人間だよ」
 コズエはシトラの毛並みをぎゅっと握り、その中に顔をうずめながら呟いた。
 彼女の父親のことは、シトラも知っていた。
「人間が二人いれば、考え方も、利害も、信じるものも違ってくる。人間の世界がある限り、必ずどこかで諍いが起こる」
 今までたくさんのこころの花を見てきたが、その全てが違う色、違う形をしていたことを、コズエは思い出した。
「しかしそれは、人間同士の言葉と意志によって解決すべきことだ。我々はそれに干渉しない。ただ、人間の言葉や意志を、それを生み出す心を、守るために戦う」
 巨木の幹のように真っ直ぐで迷いのないシトラの信念に、コズエは目の前がぱっと晴れたような気がした。森の色彩がより鮮やかに飛び込んでくる。
「……それに、心を癒してくれる、この緑もね」
「もちろんだ」
 木漏れ日が二人をそっと撫でるように揺れていた。
「そういえば、私のこころの花って何なの? シトラには見えるんでしょ、教えてよ」
「ああ、見えるとも。コズエの心の花は――」

 日食を天に頂く荒野を模した大広間。
 禍々しいオーラを放つ黒い戦士の前に、立ち向かった少女の一人は倒れ伏し、一人は乾いた土くれと化し、最後の一人も力なく両膝を突いていた。
「あらゆる生命を枯死させるデザートビーム。実験結果は良好だ。暗黒淵王に効くのであれば、申し分あるまい」
 ――しかし、
「む?」
 黒い仮面の奥にある瞳が、ほんのわずかに驚きの色を帯びた。
「まだ、枯れていないのか」
 サボールの視界――コズエの胸の奥に咲いた赤い花は、その姿を凛と留めている。
「悪いわね。こんな状況、私だって絶望したいけど……こいつはまだまだやる気でいるのよね」
 コズエは微笑を浮かべながら両手で膝を掴み、ゆっくりと立ち上がった。
「――≪困難に打ち勝つ≫。山茶花の花言葉よ」
「なら、その花ごと土に還してやろう」
 サボールがコズエに向けて再びデザートビームの発射態勢に入ろうとした時、二人の合間を遮るように小爆発が起こり、たちまち周囲に白煙が立ち込めた。
 そして煙が晴れた時、そこにコズエの姿はなかった。近くに倒れていたはずのキュアマスカーの姿も。
 軽く周囲を見回すと、サボールはハオーシルエットを解除した。鎧は青白い光となって散らばり、胸のデザートミラージュへと吸い込まれていった。
「……まあいい。どこへ行こうが、何をしようが、もう航時機のカウントダウンは止められんのだからな」



 ピラミッドの片隅にある、ゴミ捨て場とおぼしき空間。ジャンクの山に二人の少女が身を隠していた。
「あー痛……ったく酷い目にあったわ」
 赤みがかった金髪の少女は、腰のあたりを押さえながら気だるげに呻いている。
 コズエは恐る恐る彼女に話しかけた。
「あんた……どなた?」
「は? どなただっていいでしょ」
「いや、よくないんだけど」
 少女は鉄クズに背をもたれながら苦しそうに身をよじらせた。
「あーはいはい……この状況じゃ仕方ないわね。私は、キュアマスカーよ」
 コズエがその言葉の意味を理解するのに数秒を要した。
「キュアマス、えっ!? だって……ウソぉ」
 目の前の少女と、あのマスカーとでは、あまりに雰囲気が違いすぎたからだ。
「あのキャラのこと? 正体隠すためにやってるのよ……疲れるんだから」
 未来のプリキュアというのは本当によくわからない人々だとコズエは思った。
「他言したら地獄見るわよ」
「し、しないわ。それより、今の状況を――」
「どうしたものかしらね」
 マスカーのジャミング煙玉でひとまず撤退できたものの、問題は何も解決していない。それどころか、タイムリミットは刻々と迫ってきている。
「私がまともに戦えるくらいまで回復するには時間が必要。その間に手を考えましょう。……サボールは確かに強いけど、ハオーシルエットは試験兵器の寄せ集めよ。弱点がないはずはないわ」
「弱点……ねぇ」
「暗黒淵王があの光線にやられた時、あなたは一番近くで見ていた。何か覚えていることはない?」
「そうは言っても……」
 コズエは懸命にあの瞬間のことを思い出そうとした。しかし、どうしても王の最期を回想することを心が拒絶してしまうのだった。
 少女――マスカーは両目をつぶり、じっとしている。やはりダメージは深刻なようだ。
 静寂が二人の上にのしかかる。コズエは座ったまま両膝を抱えた。
「私のせいでこうなった。私はシトラのことを――サボールに殺された妖精のことを考えるあまり、状況がまったく見えていなかった。ついには、自分を心配してくれていた王のことまでも、憎んでしまった」
 遅すぎる後悔だとわかっていても、言葉にせずにはいられなかった。
「私は、同じ過ちを二度も繰り返してしまったのよ」
 血の滲むほど唇を噛み締める。コズエの瞳には涙が浮かんでいた。
「あの。シリアスに凹んでるところ申し訳ないけど、あいつ多分死んでないわよ」
 マスカーは目を閉じたまま、こともなげに言った。
「ええぇ!?」
 一気に涙が引っ込み、コズエは思わず素っ頓狂な声を上げていた。慌てて両手で口をふさぎ、周囲を見回す。
「あのくらいじゃ、死なない」
 マスカーの口調が心底残念そうなのが気になったが、王が生きているのなら本当に嬉しいとコズエは思った。
「まあ、どちらにしてもサボールを倒せなきゃみんな終わりよ」
「そうなのよね……」
 希望が見えたのもつかの間、二人は再び黙り込んでしまった。
 額から吹き出た汗が頬を伝う。
「それにしても蒸し暑いったらないわ。あいつみたいに水着着てくればよかった」
 サボールの攻撃を受けたせいか、この環境のせいか、マスカーの制服のサーモアジャスター(体感温度調節機)が機能していないのだった。
 彼女はリボンを解き、胸元を大きく広げて空気を送り込み始めた。
「未来の女の子って、みんな解放的なのね……」
 なんとなく目のやり場に困っていると――その時、コズエはふとあることを思い出した。王がデザートビームを受けた瞬間に見たものを。
「勝てるかも……しれない」
 コズエの呟きをマスカーは聞き逃さなかった。
「かも、じゃ困るわよ」
「勝つわ。きっと勝ってみせる」
 思いつきは確信に変わりつつあるようだった。
「頼むわよ。サボールはあんたにとって妖精の仇なんでしょ? だったら――」
「確かに、仇だけど」
 マスカーの言葉を遮り、コズエは言った。その胸中には、王が彼女に宛てた言葉が蘇っていた。

 ――お前は目の前のことに振り回されすぎる。真実を見据える目がなければ、お前は自分の心に負けたままだ。

「私はもう、仇と思わないことにする」
 マスカーは怪訝そうな顔をして隣を見つめた。コズエは、ふっと微笑んで頷いた。



 闇の中をたゆたう。
 体は喪われ、意識は小さな匣の中にある。
 冷たく温かい水のゆりかごで、私はずいぶんと永い間、微睡んでいたようだ。
 頭上には光。ゆらめく水面から青い光が差し込んでいる。
 その中に浮かび上がる人影があった。私は彼女を知っている。――いや――知らないはずなのに、それが誰かわかるような気がする。
「あみ」
 そう呼んだ声は私のものだろうか。ゆっくりと降りてくる彼女の姿は、深海の生き物のように透き通り、儚い燐光をまとっている。
 ――おーちゃん。
 彼女の声。呼ばれたのは私なのか。
 王。
 そうだ。私は、王だ。深淵なる闇の王。
 だが、何かおかしい。私は違和感を覚える。
 私が深淵の王ならば、この安寧の時は何だ。戦いこそが私の全てだったはずなのに。
 いつの間にか、彼女の顔がすぐ目の前にあった。輝く両手が、そっと私を掬い上げる。
 温かな光の中にいるうち、私は自分の内側が何かで満たされていくのを感じた。
 深淵の王であるこの私を――どれだけ戦っても、どれだけ奪っても、虚無の世界にいた私を――満たしていく、これは何だ。
 これは、お前が私に託したものなのか。
 彼女は応えた。赤い小さな唇が動き、三つの音を刻んだ。
 ――こ、こ、ろ。

 青い光のゆらめきを背に、サボールは玉座に体をあずけている。
 ガラス球に閉じ込められた星雲のように見えるのは、砂状回路の配列を無限に変化させることで驚異的な処理能力を実現したデザート・コンピューター、“スナフィンクス”である。
「大人しくさえしていれば数刻は生き永らえたものを」
 サボールの呟きの直後――正面の扉が開き、革靴の音を響かせながら、昭和初期の学生服を着たおかっぱの少女が入ってきた。
 彼女の視線がサボールの背後、スナフィンクスの基部を捉える。球体の真下に半透明の棺のようなものが接続されていた。その内側に納められているのは、崩れかけた王の体だ。
「王に、何をするつもりなの」
「こいつを構成する暗黒物質にはまだエネルギー源として利用価値がある。サンプルとしてもな」
 コズエは王の言葉を胸の中で反芻し、怒りに猛る心を制した。
「お前にもまだ実験台としての価値はある。せいぜい見せてみろ、プリキュアの最後の悪あがきを」
 両者の間には絶対的な力の差がある。しかし、コズエはサボールを正面から指差して言った。
「悪あがきはあんたよ、サボール」
「なに?」
「あんたはデューンって奴のことを恐れてる。おおかた、下克上に失敗して命からがら実験中の機械に乗り込んだんでしょ。何が全次元の王よ。自分の時代から逃げ出した腰抜けじゃない」
「……さすが、死にに来た者の言うことは違う」
 サボールがゆらりと玉座から立ち上がる。が、コズエは臆さなかった。
「できるもんなら殺してみなさいよ。王をやったみたいにね」
「いいだろう。――デザートミラージュ作動!」
 胸の装置から放出された光が全身を覆う鎧となり、サボールの姿がさらに巨大で恐ろしいものに変わる。立ちのぼるシャドウパワーが空間を歪ませた。
「鏡の玉座よ、プリキュアに死を」
 コズエはデザートミラージュに映る自分と向かい合った。
 先程は、この鏡に心を囚われてしまった。まるで、自分自身の絶望を、抗いようのない弱さを、目の前に突きつけられたような思いがしたからだ。
 しかし、今そこにあるのは、単なる鏡像だ。それ以上でも、それ以下でもない。
 ――何を恐れることがある。
「てやんでぃ」
 呟きながら、コズエは親指で鼻をこすった。
「デザートビーム照射!!」
 白と黒のノイズが鏡面から溢れ出す。死の光が放たれようとするその瞬間、コズエは服の下に隠し持っていた物を前方へかざした。
「なに……!?」
 サボールが驚愕に目を見開く。
 発射されたビームは、コズエの手前で止まっていた。
 いや、そうではない。何かが凄まじい勢いでビームを吸収しているのだ。
「やっぱりそうだったわね」
 コズエの手の中にあったのは、キュアマスカーの“ディメンジョンハット”だった。



「さて、せめて時間くらいは稼いでくれるといいんだけど――」
 一方その頃、マスカーはピラミッド最深部に位置する航時機の心臓部へと接近しつつあった。
 闇の中で脈動する巨大な砂時計。タキオン加速器の構造自体は恐ろしく単純なものだったが、それゆえ破壊は困難である。
 さらに、動作中の加速器周辺にはタキオン力場がランダムに発生しており、不用意に近づけばその作用でいずこかの時空へと吹き飛ばされる危険性があった。
 加速器と相対すること自体は容易だったものの、マスカーにとっては手の打ち様のない状況である。
「あーあ、こっちも一筋縄ではいかないわけね……」
 手裏剣では力不足。ハットは貸し出し中。切り札のジェネシックレコードも、歴史と完全に断絶されたこの空間では意味を成さない。
 万策尽きたマスカーは、その場で呼吸を整え、座禅を組み始めた。
 厳しい忍者修行によって学んだのは戦う術だけではない。精神を研ぎ澄ませば、何か良い案が浮かぶかもしれない。
 しかし、彼女のダメージは想像以上に深刻なものだった。身体は速やかな休息を必要としている。
 やがて、暗闇の中、すやすやという寝息が聞こえ始めた……。

「ぬう……うう」
 ハオーシルエットの巨体が揺らぎ、ついに片膝を突いた。
 エネルギーの流出は止まらず、ディメンジョンハットによって凄まじい速度で吸い上げられていく。
「なんてことはなかったわね。王の水着のことを思い出して、気付いたのよ」
 あの時、デザートビームを受けた王の体はボロボロの泥のようになっていたが、身に着けていた水着には何の変化もなかった。
「あらゆる生命を枯らすその光線、確かに凄い発明だけど、生命体以外には効き目がなかったようね」
 別次元に通じるとされるディメンジョンハットといえども、ハット自体が破壊されればエネルギーの吸収は不可能である。
 単純な破壊光線ではなく生命を枯らす研究に固執したサボールの失策だった。
「ぐおおおおおおおおお!!」
 サボールが吼えるとともに、その胸部で爆発が起こった。光線が途絶え、エネルギーの流出も同時に止まった。
 煙の中から現れたデザートミラージュは、鏡面に大きなヒビが走っていた。ビームを強制停止させるために、サボールが自爆させたのだろう。
「やってくれたな、小娘。礼に、今度は素手でお前をくびり殺してやるとしよう」
 主武装こそ使用不能になったものの、サボール本体に損傷はほとんどない。人間の少女ひとりを殺めるには十分過ぎるほどの戦闘能力が残されている。
 しかし、コズエは一歩も退かなかった。
「私はもう恐れない。憎まない。自分の心を乗り越えてこそプリキュア。そうでしょ、シトラ!」
 コズエの声に応えるように、デザートミラージュの亀裂から一条の光が伸びた。
「う!?」
 サボールが慄く。鏡面の内側から溢れ出たパワーは光の球となって一直線に飛翔し、コズエの右手に宿った。
 彼女の変身アイテム、ココロスプレンダーである。
「プリキュアの種が失われた今、そんなものを手にしてどうするつもりだ」
 サボールはコズエを指差して嘲笑した。しかしそこには、自分の計算が次々と覆りつつあることへの焦りが如実に表れていた。
 それを悟ってか、コズエはどこか不敵な笑みを浮かべて言った。
「こうするに決まってるでしょう」
 コズエがディメンジョンハットを頭上に放り投げる。天井近くで静止したハットの内部から、膨大なエネルギーが一気に放出された。
 光輝く霧のようなものが周囲を包むと、室内が一瞬にしてエメラルド色の苔に覆われ、蔓が這い、樹木が繁る森と化した。
「馬鹿な、これは、プリキュアの力……?」
 それだけではない。草木から放たれた無数の光が渦を巻き、コズエの左手に集結していく。それらはやがて、緑色のプリキュアの種を作り出した。
「何故だ……これだけの力が何処から!?」
「あんたんとこからよ」
 コズエは割れたデザートミラージュを指差した。
「マスカーに教わったわ。あの帽子には、エネルギー変換装置、とかいうものが内臓されてるのよ。あんたはプリキュアのパワーを反転してシャドウパワーを作った。……なら、もう一度反転してあげればいいだけのことよね」
「そのために、俺にデザートビームを撃たせたというのか」
「やっぱりマスカーじゃなくて私が来て正解だったよね。あんた、絶対ナメてかかってくると思ったからさ」
 彼女の返答にサボールは言葉を失い、怒りに拳を震わせた。
『よくやったな、コズエ』
 ココロスプレンダーとプリキュアの種を手にした時、コズエには懐かしい声が聞こえていた。
「……本当にごめんなさい。私の心が弱かったせいで」
『いいのだ。誰もが心に弱さを持つ。問題は、それを自分自身で乗り越えられるかどうかだ』
 その声は、遠くから響いてくるようでも、自分の胸の中から発せられているようでもあった。
『それに、たとえ肉体が滅んでも、魂は“こころの大樹”を通してお前に語りかけることができる。樹木の力をつかさどるキュアウッドは、“こころの大樹”と最も強い繋がりのあるプリキュアなのだ』
「もしかして、王を呼んでくれたのも?」
『この時代にも私の声を聞けるプリキュアがいてくれて助かった』
「とんでもないプリキュアだったけどね」
 コズエはどこか嬉しそうな苦笑いを浮かべた。
『辛い試練になってしまったが、よくぞ乗り越えた』
「へっちゃらよ。私は、偉大な妖精シトラのパートナーなんだから」
 白い獣の幻がコズエにそっと寄り添っていた。
 懐かしい匂いと温もりが心を落ち着けてくれる。
『そのプリキュアの種は、私からの最後の贈り物だ。戦え、キュアウッド』
「うん。――行ってくる!」
 コズエはスプレンダーにプリキュアの種を投入し、高らかに叫んだ。

「プリキュア! オープンマイハート!!」

 緑色の光のカーテンをくぐり抜け、復活した戦士が華麗に舞う。

「心を癒す深緑の森! キュアウッド!!」

 宙を滑るような飛び膝蹴りがサボールの胸部を抉った。ヒビの入っていたデザートミラージュの鏡面がさらに大きく割れていく。
「ぐわっ!」
 サボールは上半身を大きくのけぞらせて苦悶した。
 エネルギーを吸い上げられたことによる消耗はやはり大きく、ウッドの奇襲に対する反応がほんの一瞬だけ遅れたのだ。
 さらにウッドはデザートミラージュ自体を足場にし、ヒールで鏡面を踏み抜いた。左右から挟み込むサボールの拳をかわし、後方宙返りをうって地面に降り立つ。
「おのれ……!」
 もはや鏡の玉座も半ば鉄クズに変わっていた。怒り狂うサボールの真正面から、ウッドは再び果敢に攻め込んでいく。
「ウッドガーダー!」
 ウッドの両肩から木の葉のような光が無数に舞い上がり、彼女を取り巻く盾を成した。
「無意味と忘れたか? シャドウフォルテウェイブ!!」
 サボールの右掌から放たれた影の波動が易々とその盾を突き抜ける。が、視界を遮られた一瞬のうちにウッドの姿は消えていた。
「なにっ……」
 サボールの背面から腹部に向かって衝撃が走り抜けた。後方に回り込んだウッドの肘鉄が、鎧をものともせず深々と突き刺さっている。
 すぐさま振り向いて反撃を試みるが、またしても光の葉吹雪に目をくらまされてしまう。ウッドはサボールの死角から猛攻を加え続けた。
 本来ならば視覚に頼らずとも仮面に内蔵されたレーダーが敵の位置を即座に割り出すのだが、ウッドガーダーはその仮面にまで貼りつき、機能を阻害していた。
「小賢しい真似をおおっ!」
 耐えかねたサボールは全身のトゲにシャドウパワーを充填し、先端から稲妻状に放射した。全方位攻撃でウッドを捉えようというのだ。
 しかし、サボールの周囲に浮遊したウッドガーダーは結合して多角形のドームを形成し、攻撃を内側に跳ね返した。エネルギーを分散したために、かえって反射を許してしまったのである。
 自らの稲妻に打たれ、たまらず後方へよろめいたサボールの背面から四肢を、ウッドガーダーの群れが覆い被さるように貼りついて拘束した。シャドウパワーを全身放射すれば脱出は容易だが、デザートミラージュが健在であればともかく、攻撃直後のために充填が間に合わない。
 動きを封じられたサボールの目の前で、緑の光が渦を巻いてトンネルを形成した。ガーダーが作った道を、ウッドが猛然と駆けてくる。その右手に無数の光を吸収しながら。
「ウッド――」
 “こころの大樹”が生み出したプリキュアの中でも比類なき怪力を誇るウッドの、破城槌のごとき拳撃がサボールの胸へとぶち込まれた。

「スマァアアアアアアアアアアアアアッシュ!!」

 緑の閃光が炸裂し、デザートミラージュの残骸が根こそぎ吹き飛んだ。ベキベキと鎧を剥がしながらウッドは右手を引き抜き、周囲のウッドガーダーを集めて再チャージを開始する。
 悶絶するサボールの胴体へ、

「スマァアアアアアアアアアアアアアッシュ!!」

 鎧の全身に緑色の光のヒビが走っていく。
 ウッドはさらにサボールを拘束していた分のガーダーまでも全て吸収し、拳を引き絞る。
 サボールは二連撃のダメージでもはや動けない。
 そして容赦ない三撃目が、

「スマァアアアアアアアアアアアアアッシュ!!」

 サボールの鎧が木っ端微塵に砕け、空中で花火のように散らばった。
 地面を抉りながら吹き飛ばされたサボールは、壁にへばりつくように激突。壁面全体に蜘蛛の巣状のヒビが入り、一拍遅れて爆散した。
「これで終わりよ、サボール」
 ウッドが右掌を地面に向けてかざすと、光の波紋が幾重にも結集し、その中心から棒状の物体が突き出した。
「芽吹け大樹のパワー! アックスタンバリン!」
 柄を掴み、緑色に輝く斧を大地から引き抜くと、ウッドはサボール目がけて疾走した。
「……終わりだと?」
 瓦礫の中から起き上がったサボールは右腕に残った鎧の一部に力を集中した。三本のトゲが発光し、ウッドが振り下ろしたアックスと真っ向から噛み合った。
「舐めるなよ、小娘」
「――っ!?」
 トゲに密着した部分から刃が砂に変わり、やがてアックス全体が崩れ落ちた。触れた物を砂に変える、恐るべき魔力がそこには宿っていた。
「お前は決して俺には勝てない。憎め、絶望するがいい」
「……その言葉、そのまま返しちゃっていいかしら?」
 ウッドは両掌を地面にかざして微笑んだ。
 光の波紋が左右に集まり、土煙とともに二振りのアックスが出現する。
「ま、待て」
「待てるかばっきゃろう!」
 ウッドは両手に携えた斧で波状攻撃を仕掛けた。トゲの根元を狙い、砂状化を避けながら次々とへし折っていく。苦し紛れにサボールが指先から発射した針を、アックスを交差させて防御する。その隙を狙ってサボールは地面を転がり、ウッドから距離をとった。
「サボールファイナル!!」
 サボールの仮面が熱と閃光を放つ。ウッドはアックスをかざして視覚へのダメージを防いだが、さらに仮面の表面に並んだトゲが全て発射され、弾丸のように彼女目がけて飛来した。
「ウッドスタンプ!!」
 ウッドの額に飾られた切り株状の円盤が輝き、丸太のような極太のレーザーがほとばしる。サボールの熱閃光を切り裂くように前進し、射出されたトゲを全て消し去り、胸部に炸裂した。アーマーに年輪状の焼け痕が刻み込まれ、爆発する。
「俺が……この俺が、こんな」
 爆煙を突き抜けて現れたウッドが、呻くサボールの頭をアックスの側面で打ちのめした。
 光の粒子が散り、リン、と場違いに澄んだ音色が響く。
 サボールの体で数回アックスタンバリンを奏でると、ウッドは最後に両手を掲げ、アックス同士をぶつけて打ち鳴らした。
「森よさざめけ!」
 そして頭上へとジャンプし、限界まで体を反らせてアックスを振りかぶると、眼下のサボール目がけて二つの刃をX字に叩きつけた。

「プリキュア! グリーンフォルテスラッシュ!!」

 サボールを貫通した斬撃が部屋の床と天井までも寸断する。
 血とも、紅葉とも見える光がはらはらと舞い散る中、ウッドは静かに残心した。



 サボールを倒したウッドは、王のもとへと駆け寄った。
 棺をこじ開け、痛ましい姿で眠る彼女と対面する。
「全ての命の源、“こころの大樹”よ、どうか私に力を貸して」
 ウッドは祈りを込めてココロスプレンダーを握り、王の体に命の水を吹きかけた。
 光り輝くシャワーを浴びて、ひび割れた体が徐々に潤っていく。折れ砕けていた手足までもが元通りに繋がり始めた。
 “こころの大樹”の力を借りたとはいえ、王でなければこうはいかなかっただろう。その生命力にウッドは驚嘆し、そして心の底から安堵した。
 やがて紫色の肌がすっかり元通りになると、王はかすかに呼吸をし始めた。
 その時、背後でした物音にウッドは振り返った。
「あんた、まだ……!」
「がはっ」
 満身創痍のサボールが玉座にすがりつきながら息をしていた。
「こんなところで、終わるか……終わるものか」
 割れた仮面が剥がれ落ち、ウッドの足元まで転がってきた。
「!? その姿は――」
蒼き月の影
 仮面を失ったサボールの姿は、目を疑うほどに大きく変化していた。背丈は縮み、全身の輪郭が細まり、丸みを帯びたものになっている。サラサラと零れる銀色の髪が、幻想的なほどの美しさを感じさせた。
 恐るべき砂漠の使徒の大幹部と入れ替わりに現れたのは、どう見ても人間の――それも、コズエとそう歳の変わらない少女だった。
 サファイア色の瞳が忌々しげにウッドを睨む。憎しみに震える表情すら、ウッドは目を奪われずにはいられなかった。
「女、だったの……?」
 そう呟くのがやっとだった。
「仮面……俺の仮面……」
 サボールは呻きながら仮面に向かって手を伸ばした。
「サボール、あんた一体――」
「お、俺は……私は……うう」
 二つに割れた仮面の両目から光が伸び、空中に像を結ぶ。
 そこに映し出されたのは、サボール――いや、ウッドの目の前にいるのと同じ少女の姿だった。彼女の手には、まさに今映像を投影しているのと同じ鉄仮面が乗せられている。

『私はこれから砂漠の使徒となる。この仮面には知能と戦闘力、そして憎しみを倍増させるシステムを組み込んだ。これを被れば私はもう私でなくなる。いや、もともと私には名前も居場所もなかったのだ。私はこの仮面をつけて初めて私となる、と言ったほうが正しいかもしれない』

「やめろ……私の記憶を呼び起こすな……!」
 少女は両手で頭を抱え、もがき苦しんでいた。ウッドはどうすべきか判断がつかず、彼女と映像とを交互に見つめるしかなかった。

『私には名前がない。しかし、私を生み出した者の名を借りるのならば――キュアブルームーンミラージュ、となろう』

「キュアブルームーン……!?」
 サボールを生み出したのは、プリキュアだというのか。ウッドは愕然としながら、映像の続きを見守った。


<チャプター4→チャプター5につづく>


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テーマ : プリキュア
ジャンル : アニメ・コミック

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非公開コメント

更新お疲れ様です!

いやぁ~波乱の展開でしたねぇ・・・前回のお話で王ちゃんが大変ショッキングなお姿になったときはどうなるかと思いましたが、今回は変身不能状態から見事なキュアウッドへの復活は、熱い涙が・・・(つд⊂)

こころの大樹をめぐる争い、時空を超えた画策とは恐れいります。ホントにハラハラする展開で面白いです。

キュアマスカーの仮面に隠れたキャラクター性はくせになる魅力が秘められてるなぁと、非常に好きです(*´∀`*)

サボールとの死闘にどのような決着がつくのか、非常に楽しみです!

コメントありがとうございます!

>我さん

王のピンチを演出するにはあれでも足りないかな?と思ってましたね。ちょっとやそっとでは死なないキャラなので……w
やってることはゆりさんの再現ではあるんですが、ウッドの復活劇は本人や周囲の性格のおかげでだいぶ違ったノリになったのではないでしょうか。

ハトプリは数十年ごとに各世代のプリキュアがいる設定なので、原作と違う時代のオリキュアなりオリ敵を出したら面白いのではないかと。そこからサボールの計画はああいったものになりました。

マスカーのいびつなキャラを気に入っていただけたなら嬉しいですw フレクロFの軸になっているのは実は彼女の物語なので、そのあたり少しずつ明らかにしていきたいですね。
コメントありがとうございました!次回もお楽しみに!
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Author:ヤネ
フレクロF、今度はイニシャルWW編です。

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