クロスオーバー! フレッシュプリキュア!クロス†フューチャー WW編・チャプター②

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フレッシュプリキュア!クロス†フューチャー WW編・チャプター②

追憶の十三夜

フレッシュプリキュア!クロス†フューチャー ~イニシャルWW編~

チャプター2『追憶の十三夜』




『今日も帰ってこないみたいね、BB』
 エグゼクティヴ級魔人たちのアジト。
 北斗七星に腰を下ろしたダークルンAAがぽつりと呟いたのをきっかけに、連戦連敗で沈みがちな空気がさらに重さを増した。
『今頃あの小娘のペットになってたりしてな! シュプププププ……』
 場を明るくしようと飛び出したRRの軽口も、今度ばかりは逆効果だった。
 誰も、その言葉をジョークとして笑い飛ばすことなどできなかったのである。当のRRでさえも――。
『……わりぃ』
「悪いのはあのモジャモジャグマでちよ! 帰ってきたらおしおきでち! 三日三晩サクリフォースぬきでち!」
 プラネタリウムドームの一角を占拠した巨大な天蓋付きベッドの上で、VVがバタバタと両手足を振り回した。プリキュアに敗北したばかりの彼女も相当なフラストレーションを抱えており、いつ爆発してもおかしくない状況だ。
『みんな、聞いてくれ』
 EEがテレパシーを使って全員に語りかけた。未だ聴力が回復していないVVを気遣ってのことである(ダークルンは基本的にテレパシーで会話する)。
『俺は明日、キュアブレイブに決闘を申し込む』
 VVたちが一斉に息を呑んだ。己をN2魔人の指導者と位置づけ、プリキュアとの戦いに固執することを避け続けてきた――そのEEの言葉だからだ。
「どっどどどっ、どうしたでちか急に!?」
『おいおい待ってくれよ。あとちょっとで俺様たちの体も出来上がるっていうのによ!』
『VVまでもが敗れたのだ。これ以上プリキュアとの戦いを長引かせて、無為に同胞とサクリフォースを失うわけにはいかない。……それに、キュアブレイブとはいずれ一対一で決着をつけなければならないと考えていた』
 EEとブレイブは過去に数度交戦しているが、勝敗がついたことはない。
「あいつは――キュアロードオブダークネスはどうするでちか? ブレイブに加勢してきたら?」
『邪魔をしてくるのなら容赦なく倒す。今はそれだけだ』
「そう……でちか」
 一瞬、不安げに瞳を震わせたVVだったが、すぐに悪戯っぽい笑みを浮かべてベッドを飛び降りた。
「ひとりでカッコつけるのは結構でちけど、このヴァニが負けた相手でちよ? たとえ一対一でも、はてさて、どーなることやら」
 頭の後ろで手を組みながら、ドーム内をてくてくと歩き回る。
 彼女が無理に明るく振舞おうとしていることを、EEたちもわかっていた。
「だから、勝たなくてもいいでち。その代わり……ちゃんとここに帰ってきてほしいでち」
 足を止めて振り向いたVVの眼差しが、まっすぐにEEを捉えた。
『おいおい、やるからには俺様は勝たなきゃ承知しねえぞ!』
『あなたはいい加減に空気読むの』
 EEの肩で騒ぐRRを、AAが頭上からむぎゅっと押しつぶした。
『――わかっている。必ず勝ってここに戻ろう。魔人の未来のために』
 EEは深く頷いて剣を抜き掲げ、ドームの天井から流れ落ちる無数の星々の中で誓いを立てた。



 天十字学園からほど近い一軒家。
 広すぎる室内にテーブルや椅子などの家具がぱらぱらと点在している。
 窓から差す陽光は弱々しく翳り、フローリングの床の半分は夕闇に沈んでいた。
 黒々とした革張りのソファに腰掛けて、彼女は青と橙の入り混じる空をぼんやりと見つめていた。
 超未来において過酷な忍者修行を経験した白銀エリスは、日に30分の睡眠さえあれば支障なく日常生活を送ることができる。
 しかしそれゆえ、長すぎる夜は彼女にとって憂鬱だった。
 日没とともにキュアマスカーの魔人狩りが行われたのは、闇に紛れての奇襲だけが理由ではなかった。
 静寂の中にただひとり身を置いていると、嫌が応にも蘇るのだ。
 あの忌まわしい夜の記憶が。

 決まって最初に思い出すのは、常夜灯に照らされた長い廊下だ。
 橙色の薄明かりが、白い壁面におぼろげな陰影を作り出す。そこかしこにわだかまる闇の中に、何かがじっと身を潜めているような気配がする。
 見慣れた生活空間とはまったく違う、不気味で幻想的な光景が目の前に広がっていた。
 そこに恐怖という彩りを加えているのは、先ほど自分の眠りを覚ましたあの叫び声だ。
 絹を裂くような女の悲鳴。
 この家に暮らしているのは、母親と自分だけだ。そして、自分が母の声を聞き違えるはずがない。 しかしそれでも、あの恐怖と絶望に満ちた悲鳴がたったひとりの肉親のものであるとは、どうしても認めたくなかった。
 だから、確かめなければいけない。
 恐怖に抗い、足を踏み出す。
 一歩進むごとに、相反する感情が自分の中でせめぎ合う。
 勇気を出して確かめるべきだ。母に何かあったのなら、なおのこと。
 いや、それでも引き返すべきだ。このまま進めば、恐ろしいものを目にすることになる――。
 せめぎ合いの果てに、勇気の方がわずかに勝っていた。息を殺し、足を忍ばせ、どこまでも伸びるような長い廊下をゆっくりと進んでいく。
 やがて、行く手に一枚のドアが見えてきた。母の寝室。
 自分がひとりで眠れるようになったのは、つい最近のことだ。
 恐る恐るドアノブに手をかけ、ゆっくりと回しながら引く。
 と同時に、肌を刺すような冷たい風が吹き出してきた。
 開かれたドアの向こう、部屋の奥で白いカーテンが手招きするように波打っている。窓が開いているのだ。
 寒々とした星のない夜空に亡霊のような満月が嗤っていた。
 その光にまざまざと照らし出された室内は、ペンキをぶちまけたように真っ赤だった。
 しかし、立ち込める異臭はそれが塗料の類などでないことを示していた。
 そしてエリスは見た。血溜まりの中に佇む異形の姿を。変わり果てた母親の残骸を。

「――ママ!!」
 暗闇の中でエリスは飛び起きた。
 いつの間にか眠っていたらしい。
 とっくに日は沈み、肌寒いほどの気温であるにも関わらず、ぐっしょりと汗をかいている。
 やはり、最近どこか調子がおかしい。
 あの一件以来――。



「だから、い・ら・な・い、って言ってるの!」
 いびつなガラス容器の中で渦巻く深緑色の液体をしばし睨んだあと、エリスは顔を上げて言った。
 常に真面目で穏やかな優等生の仮面を被ることを心がけて生活している彼女が、口を尖らせて語気を荒げるのは特異なことだった。
 そうさせているのは、この状況だ。

 ふぁあん。

 エリスの声に応えて、間の抜けたアコーディオンのような音が室内に響く。
 続いて、色とりどりのガラクタの山の向こうから一人の少年が顔を出した。緑色の肌に青い瞳、額にはサンゴの枝のような一対の角を生やした、異形の姿をしている。
 先程の音色は、彼が発した“声”だった。
(だから、何言ってるかぜんぜんわかんないっての!)
 エリスが小声で愚痴をこぼす。この時代で購入した音声依存の翻訳デバイスでは荷が勝ちすぎる。辛うじてわかるのは、彼がエリスに対して敵意を表していないということぐらいだ。
 もちろん、彼は人間ではない。しかし、特異なのは彼の存在ではなく、エリスの方なのだ。少なくとも、この“里”においては――。

 ≪風の里≫。それは百年に一度だけ何処かのパラレルワールドに出現する、風のように気まぐれな隠れ里である。
 前回の出現からちょうど百年後の今年、風の里の門と繋がったのは日本のとある山中だった。
 我先にと調査隊を結成したクイーン・トワイライト15世、アドバイザーとして同行するキサナドゥ、ボディガード役の黒須イフ、それからなんとなく興味を惹かれてついてきた暗黒淵王。
 エリスもまた、ジェネシックレコードの記述によって里の出現位置を突き止め、先んじて潜入を果たしていた。
 彼女らが風の里に注目した最大の理由は、そこが魔人と他種族とのハーフ――≪半魔≫の集落でもあったためである。
 千年前の≪魔人大戦≫の折、各地で生まれた半魔たちは人目を避けてここに隠れ住んだ。
 そして百年が過ぎ、風の里が再び世界に現れた時、他種族たちは伝承に従い里に攻め入ろうとした。が、半魔たちの温厚な性質と幻想的な里の風景に触れ、その考えを改めることとなったのである。
 以降、この里へ移り住む者の数は徐々に増えていった。とはいえ、百年に一度しか外界と接触できない土地で代を重ねることができたのは、魔人の血がもたらす寿命の長さによるところが大きい。
 他にも、里の上空を常に旋回し、恵みの雨を降らせてくれる雲。枯れることなく果実を作り続ける樹木。こうした里の生命を支える不思議な現象の数々も、半魔の親にあたる魔人たちが遺していったものだという。
 実際、この里の神秘性は現代においても人心を惹きつけてやまないものがあり、此度の出現が各パラレルワールドに知れ渡れば、百年前とは比べ物にならない数の移住希望者が押し寄せることだろう。

 15世たちの目的は里の学術的調査、ひいては魔人との共生の道を模索するヒントをこの地から得ることである。一方、エリスの目的はその対極にあった。
 半魔たちの生態、戦闘能力、危険性を見極め、脅威に値する存在であれば魔人と同じように“殲滅”する――。それが彼女の目的だった。
 しかし、里に入って間もなく不測の事態がエリスを襲った。≪時の砂漠≫で受けた傷が痛み出し、町中で行き倒れ状態になってしまったのだ。そこへ偶然通りがかった少年により、近くにある彼の家へと運び込まれ、現在に到る。
(毒は入っていないようだけど)
 修行によりエリスは大抵の毒物を臭気で判別することができた。色と香りからして、薬草を煎じたものだろうか。
 コップを差し出したあと、少年はあちこちに積まれたガラクタの山と格闘している。どうやらここは雑貨屋のようなものらしい。くすんだ漆喰の壁を見るに、相当昔からある店なのだろう。先代の主人から受け継いだばかりで、ドタバタしているのかもしれない。
(……ふーん)
 口に添えたコップを傾けながらエリスは意外という表情を浮かべた。ビリビリと舌に障るような苦味を想像していたが、さらりとした口当たりにほのかな甘みもあり、むしろ美味と言ってもよいほどだった。
 小さな窓からクリーム色の陽射しが降り注ぎ、店内にほのかな陰影を描き出す。
 魔人のハーフに助けられるなど、本来は耐え難い屈辱のはずなのだが――なぜかエリスの心は穏やかだった。この里に入った時からずっと心の底にあった感情が、じんわりと溢れ出す。
 安らぎ。母を失ったあの日から、長らく忘れていたもの。
 薬草の効果か、あるいは単に体が温まったせいか、傷の痛みも徐々に和らいできた。
 こうなれば長居は無用というものだ。
「世話になったわね。お茶のお礼に大人しく退散してあげる」
 半ば独り言じみた挨拶を残して席を立つ。
 しかし、扉に向かおうとした時、店の片隅に備え付けられた作業台にエリスの目は吸い寄せられた。
 おそらくは塗装前の、作りかけのアクセサリー。長方形のプレートに模様が彫り込まれている。
 エリスは無意識に自分の首から提げているものを握り締めていた。動悸が速まり、肌の下で血液が逆巻いているのがわかる。
 逃げるように店を飛び出したエリスの背後から、どこか心配そうなアコーディオンの音色が追いかけてきたが、振り向くことはできなかった。



 険しい峠道を引き返しながら、エリスは谷底に横たわる箱庭のような世界を見下ろした。
「さしたる脅威はなし……か」
 姿こそ異形ではあるものの、彼らにサクリフォースの反応はまったくなかった。異常な闘争心や破壊衝動のたぐいも見られない。魔人の血を受け継ぎこそすれ、風の里の住人に危険性はない――そう結論づけるしかなかった。
「わざわざ滅ぼして他のプリキュアと敵対しても、この時代で動きにくくなるだけね」
 口ではそう言いつつも、この結果に心のどこかで安堵している自分がいることを、エリスはうっすらと感じていた。
 何故だろう。何故、自分は魔人の集落に安らぎを見出したのか。
 エリスはまた胸元のペンダントを握り締めていた。
「……怪我のせいだわ。調子が悪いから変なとこで気が抜けたり、魔人がこしらえたガラクタをママの形見と見間違えたりする」
 迷宮の底へ誘い込まれようとする思考を、エリスは強引に振り払った。
 その時である。ドォン……という音とともに、里の中心部で火の手が上がった。
 鍛え抜かれたエリスの聴覚が、半魔たちの悲鳴と怒号を捉える。
 懐から取り出した巻物状のアイテムをスコープのように覗き込むと、風の里のあちこちに強力なサクリフォース反応が発生していた。
「どういうこと……」
 とにかく、こうなれば自分のすべきことは只ひとつ。
 エリスは巻物状のアイテム――リンクロールンを口にくわえ、呪文を唱えた(腹話術の修行なくしては不可能なことだ)。
「ヘンゲプリキュア! マスクオーバー!」
 一陣の旋風に包まれたエリスの衣服が、着物と鎖帷子を組み合わせたプリキュア装束に変化していく。頭上には緑色のシルクハットが生成され、紫色の仮面が素性と心を覆い隠す。
 顕現した超未来くのいちはミラージュマントを凧のように広げ、谷底へと一気に舞い降りていった。

 平和だった里は阿鼻叫喚の地獄と化していた。里に住む半魔たちが次々と理性を失って凶暴化し、到るところで破壊活動を始めたのである。
 それは、エリスと同じく密かに潜入していたN2魔人――イニシャルLL“ラーヴァリーチ”の能力によるものだった。
 里の中心部にそびえる大聖堂の屋根に陣取ったLLは、その名の通りヒルのように光沢のある黒いボディの上から煮えたぎる溶岩の鎧を身に着けていた。
「血命覚醒波ァ!!」
 彼の体から発する特殊な波動が里の住人に眠る魔人の本能を目覚めさせ、暴走へと導いていく。
 その目的は半魔たちを強制的に魔人化し、対人類の戦力として取り込むことにあった。
 業火に包まれた家々の上をキュアマスカーはゆっくりと滑空していった。
 安らぎを見出した町並みが無残に焼け落ちていく光景は、彼女の胸を激しく苛んだ。
 ――何故、目を逸らすの?
 彼女は再び己自身に問いかけた。
 これはあなたのやろうとしていたことよ。
 魔人が魔人を殺す。結構なことじゃない。好きにさせておけばいいんだわ。
 ――なのに何故、こんなにも心が疼くの?

「うろたえるな、愚民ども!!」

 混乱を吹き飛ばす、誇りと力に満ちた声が里全体に響き渡った。
「あいつ……」
 望遠モードに切り替わったマスカーの仮面が、聖堂の上でN2魔人と対峙する人影を捉えた。
 暗黒淵王――いや、キュアロードオブダークネス。
「お前たちに眠る魔人の血は、ただ侵略者に利用されるだけのものか? ――立ち上がれ! 半魔の誇りを見せてみろ! ここはお前たちの国だろう」
 戦斧バルディバッシュを天にかざした彼女の姿は、恐怖にかられた住人たちに確かな勇気を与えた。
 秘められた魔人の血が彼ら自身の意志で解放されていく。ある者は暴走する仲間を制止し、またある者は炎の海から家族を救出した。
 波動を受けた半魔たちもロードの言葉によって次第に自我を取り戻し、LLの力に抗い始めている。
「貴様……裏切り者の魔人プリキュアか」
 計画を打ち砕かれたN2魔人は忌々しげに触手をうねらせた。
「裏切り者? 魔人の誇りを裏切った愚か者ならば、私の目の前にいるが」
「戯言を……ッ!」
「消えるがいい」
 裁きの刃が溶岩を切り裂く。
 傷を負ったLLは苦し紛れに波動を放射し続けたが、プリキュアのシステムで魔人の力を制御しているロードには効果がなかった。勝敗は推し量るまでもないだろう――。
「キュアロードオブダークネス……魔人女王……か」
 マスカーは初めて畏敬を込めて彼女の名を呟いた。
 そして次の瞬間、眼下の町並みにあるものを知覚した。
 炎に照らされた緑色の肌。恐怖に震える青い瞳。
 助けを求める、儚げな音色。
 急降下したマスカーは己自身を盾とし、LLが乱射する波動から少年を守った。
 火の手に囲まれ立ち往生していた彼を抱え上げて再上昇し、安全な場所まで運ぶ。
「どうやら、ヒューマンビーイングにはハームレス。無害なようデスネー」
 着地したマスカーは仮面を通して自分の体をスキャンし、異常がないことを確認した。
 少年の方も同様に調べたが、こちらも変調は見られなかった。
「よかった……」
 自然とこぼれた言葉にマスカー自身が驚く。
 ふぁあん。
 彼女の心を知ってか知らずか、少年は笑顔とともに穏やかな音色を奏でた。

 こうして王たちの活躍によって風の里は滅亡をまぬがれ、再び百年の旅に出た。
 エリスは結局一人の魔人も殺すことなく、整理しきれない感情を胸に抱いたまま、かの地を後にしたのである。



 あれから二週間。時の砂漠で受けた傷はとっくに完治している。にも関わらず、エリスは魔人狩りを再開できずにいた。
 母への愛情が失われたわけではない。大切な人を奪われた悲しみと憎しみを、忘れることなどあり得ない。事実、夜毎繰り返す悪夢が惨劇の記憶を絶えず訴えている。
 ただ一方で、魔人を殺すことに迷いが生じてきたのも事実だった。
 半魔の里で自分が感じた安らぎ。同じ魔人と戦いながらもそれを守った王。そして、彼女を信じ共に生きることを選んだイフ。
 何をすべきなのか。何がしたいのか。今の自分はそれを見失いつつある。
 ふと窓の外を見ると、闇夜に浮かぶ月は間もなく満ちようとしていた。
 エリスの迷いをよそに、決断の日はすぐそこまで近づいている。
 ジェネシックレコードの示した歴史が真実ならば――黒須イフは間もなく、暗黒淵王に殺される。

 ラララララ。

 どこからともなく鐘の音が鳴り響き、暗い室内に光の粒子が降り注いだ。
 エリスの前にひとりの女性が佇んでいる。
 それ自体があたかも宮殿の外装を思わせる華麗で優美な衣装に身を包み、菩薩、あるいは聖母のごとき微笑をたたえて。
「ミス・ミレニア……」
 天幻密使ミレニア。
 彼女こそがエリスにキュアマスカーに変身する力と、この時代で戦う使命とを与えた存在だった。
『心に迷いが見えます』
 ジェネシックレコードなしでの時間遡行は危険を伴うため、ミレニアは思念のみをタキオン化して過去に送り、エリスと会話している。
「お見通しですね」
『魔人にはその名の通り、人に近い姿を持ったものもいます。あなたの優しさが刃を鈍らせることもあるでしょう』
 左右で異なる色を宿したミレニアの瞳が、悲しげに瞬いた。
『――しかし、彼らは敵です。生きとし生けるもの、すべての敵なのです。今までに一体どれほどの命が、彼らの手によって無為に奪われてきたことか……!』
 エリスはミレニアが顔を歪め、声を荒げるのを初めて見た。
 彼女の感情に呼応してか、タキオン粒子がバチバチと青白い火花を散らす。
 ミレニアの目には水晶のような涙の粒が宿っていた。
「ミレニア……」
『ごめんなさい。でも私はもう、あなたのような可哀想な子を増やすことはしたくないの』
「わかっています。私は幸せですよ。あなたがいてくれるのだから」
 エリスの言葉は偽らざるものだった。唯一の肉親も友人も失った彼女にとって、ミレニアはたったひとりの理解者だからだ。
 ――そうだ。ミレニアを裏切るわけにはいかない。自分の目的と使命を、見失ってはいけない。
『ありがとう、エリス。たとえ独善との誹りを受けようとも、私は私の天命を果たします。……ついてきて、くれるかしら』
 エリスは深く頷いた。
 その様子を見届けたミレニアは目尻の雫を拭い、あらためて表情を引き締めた。そして、エリスの瞳を正面から見据えて言った。
『ならば、今こそあなたに伝えましょう。あなたの母親の仇……イニシャルWWの魔人は、この時代にいます』
「……!!」
 息が止まるほどの衝撃がエリスの胸を貫いた。
 全身を強張らせながら、自分が聞かされた言葉の意味を何度も何度も反芻する。
 激しく鳴り響く心臓の鼓動と入れ替わるように、ミレニアの姿は次第にぼやけ、その声も遠のいていった。
『今のあなたには未来を変える力がある。あとは、自分の心に訊くことです』
「……私は……」
 暗闇に取り残されたエリスは、またあのペンダントを握り締めていた。
 震える手で――すがるように。

 その夜、満月の到来を待ちわびるかのような獣の咆哮が四つ葉市の空を震わせた。
 白き月光に浮かび上がる、血のように赤黒い人狼の姿。
 それこそ、未来にて白銀エリスの母親を殺害した魔人――イニシャルWWであった。


<チャプター3につづく>



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テーマ : プリキュア
ジャンル : アニメ・コミック

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Author:ヤネ
フレクロF、今度はイニシャルWW編です。

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