クロスオーバー! フレッシュプリキュア! クロス†オーバー 第16話

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フレッシュプリキュア! クロス†オーバー 第16話

『クロス†オーバー』史上、最大のピンチ!?
ブレイク誕生編、後編にあたる第16話です。


******


(私の名前は黒須メイ。かつてはプリキュアだったこともある、今は普通の女子中学生)

トワイライトでの戦いからひと月。
プリキュアの力を完全に失ったメイは、しかし、キサナとの別れを未だに受け入れられずにいた。

「明日がこんなに怖いなんて……前に進むのが、こんなに怖いなんて……」

そんな中、FUKOのゲージを一気に頂点まで貯めるべく、サウラーとウエスターが共同作戦を開始する。
人々の明日を取り戻すため、立ち向かう四人のプリキュア。
ラビリンスのかつてない猛攻に苦戦しながらも、メイの声援が彼女たちを奮い立たせる。

「私たちの明日。メイの明日。みんなの、明日……」
「返してもらうわ!!」

明日を縛り付けるナケワメーケに向けて、必殺技を放つ四人。
しかし、突如現れた怪物・ソレワターセによって、攻撃を打ち消されてしまう。
そして同時に、シフォンに起こり始める異常。

「シフォン!?」
「ようやく、インフィニティが姿を現す時が来たようね」

インフィニティとは、シフォンのもう一つの姿だった。
戦慄するプリキュアに追い討ちをかけるように、ラビリンスの最高幹部・ノーザの暴威がメイに迫る。

「最後に、プリキュアに聞かせてやりなさい。大切な仲間の断末魔を」

ノーザによって命を吸い尽くされ、息絶えるメイ。

「メイさん……いやだよ……こんなの……いやだよっ!!」

絶望に呑まれ、泣き叫ぶプリキュア。
インフィニティを手に入れたノーザの高笑いが、暗黒の町に木霊する。

「これでは全ては、メビウス様の望み通りになる。全パラレルワールドは、ラビリンスによって管理される……!」

果たして世界の、プリキュアの運命は……?



フレッシュプリキュア! クロス†オーバー
第16話『明日を取り戻せ! キュアブレイク誕生!!』



(……う……ん?)

そこにいると認識した時、自分は光の中にいた。
目蓋を通して染み込んでくる暖かい光が、身体中を包んでいるのがわかった。
意識がはっきりするにつれて、微かな甘い匂いが鼻をくすぐる。

(あ……起きなくちゃ……)

どうしてそう思ったのかはわからない。
ただ、何か大切な約束が、あった気がした。
……大切な、誰かとの。

「……っ」

身体を起こし、ゆっくりと目を開く。
眩い光の中から、次第に浮かび上がってくる風景。
自分を取り巻く世界の全てが、パステル調の淡い、優しい色で満たされている。

「ここは……」

どこまでも穏やかで、暖かくて、優しい世界。
色とりどりの、見知らぬ花が咲き乱れる丘に、黒須メイはいた。
そよ風が運ぶ花の香りが、心を落ち着かせる。

「きれい……」

自然と言葉が漏れた。
かつて見たこともない、美しい場所だ。
しかし、五感が正常を取り戻すと、疑問が頭をもたげ始めた。

「私は、どうしてここに……?」

見たこともない場所に、なぜ自分がいるのか。
記憶をたどり始めたメイの身体が、びくんと震える。

「……!!」

蘇る最期の記憶。
ノーザの高笑いの中で、息絶える断末魔の記憶。

「私……私は……」

周囲を見渡すメイ。
そこにはプリキュアも、ラビリンスも存在しない。
自分だけが、この世界へ来てしまった。
どこまでも優しく暖かいそこは、つまり……。

「私……死ん……っ」

その時、視界の隅で何かが動いた。
風に揺れる花々とは異なる、風に乗ってひらりひらりと宙を舞う、何か。

「あれは……?」

目を凝らすと、遠くを一匹の蝶が飛んでいる。
透き通るような、翡翠色の蝶だ。

「ま……待って!」

慌てて立ち上がり、後を追う。
あの蝶が、何かの鍵になる。
……そんな気がしたから。
幸いことに、まだ足はあった。


***


「……わかったでしょう? あなたたちには、何もできない。世界を守ることも、インフィニティを守ることも、たった一人の仲間を守ることすら」

ソレワターセの腕に捕らえられた、四人のプリキュア。

「うぅ……メイ……メイ……っ」
「メイ……さん……」
「メイ……」

目の前でメイを失い、その戦意は完全に奪われつつあった。

「絶望に抱かれたまま、仲間の所へ行くがいいわ」
「メイさん……メイさん……」

残酷な現実を拒絶するように、両の瞳を閉じたキュアピーチ。
なおも目蓋の下から溢れ出す涙と共に、ただ彼女の名を絶唱する。

「メイさあああああああん!!!」


***


丘をいくつも越えて、ひたすら蝶を追いかけるメイ。
不思議と、疲れることはなかった。

「待って!」

やがて、少しずつ距離が縮まるにつれて、それが蝶でないことがわかる。
風に舞う翡翠色のリボン。
少女の頭についたリボンが、揺れていたのだ。
歳も背丈も、せいぜいメイの半分くらいであろう。
若草色のワンピースを着た女の子だった。

「そこの、あなた!」
「……?」

振り向いた少女。
胸には、摘んだばかりの花を抱えている。
赤、青、ピンクに黄色。
……一瞬、その顔に見覚えがある気がした。
だが、果たして誰に似ているのか、思い出すことはできなかった。

「ここはどこなの?」

すがる思いで、質問をぶつける。

「お姉ちゃんが、思った通りの場所だよ」
「……!!」

悪い意味で予想通りの返答に、背筋が凍り、目が眩む。

「し……死んだの? 私」

首を横に振り、リンクロスを指差す少女。

「お姉ちゃんの命の一部分だけが、その十字架を通じてここに飛ばされて来たんだよ」
「……そっか……。きっと私の命が全部吸い尽くされる前に、リンクロスが助けてくれたんだ」

メイの瞳に希望の光が蘇る。

「教えて。元の世界に帰る方法を教えて!」
「ない……って言ったら、お姉ちゃんどうする?」
「それでも教えて! どんな方法でもいいから……私、帰らなきゃならない!!」

少女の前に両膝をついて、祈るように嘆願するメイ。

「……じゃあ、あたしが特別に教えてあげる」

小さな指で、青空の果てを指差す少女。
少女の示した方角に、奇妙な形状の岩山がそびえ立っている。

「あの山の洞窟にある“あかつきの扉”を抜ければ、この“たましいの園”から出られるよ」
「……ありがとう!!」

少女の両手を取り、頭を下げるメイ。

「自己紹介が後になっちゃったけど……私の名前は、黒須メイ。あなたは?」
「……ないしょ」

首を横に振り、口を噤む少女。

「そう……まぁ、内緒なら仕方ないか」

立ち上がり、早速歩き出すメイ。

「……そこ、危ないよ」
「ん?」
「危ないよ」

少女の呼びかけに振り返るメイ。
風を切る音が、遥か頭上から近づいてくる。

「……っ!?」

見上げると、空の彼方からこちらへ落下する影。
瞬く間に地表へ迫り、視界を覆わんとする。

「うぉ!」

寸前で飛び退き、花園を転がるメイ。
一瞬ののち、轟音。

「な、何事……!?」

土煙の中から現れる、鳥の怪物。
体表は白く、大理石を思わせる。
巨大な、動く石像といった姿。

「こ、これは……!?」
「たましいの園の、番人だよ」
『ケエエエエエエエ!!』

甲高い声で鳴きながら、明らかな敵意を持ってメイを睨む番人。

「は……話し合いの、余地は……?」
「番人は、ただの番人だよ。おかしなたましいを見つけたら、やっつけるだけ」
「そんな……」

現状もほとんど死んでいるようなものだが、このままでは完全に死んでしまう。
睨み合いながら、ゆっくりと後ずさるメイ。

(どうにか、逃げるチャンスを……)

「お姉ちゃん、逃げて」

メイに背中を向け、番人の前に立ち塞がる少女。

「えぇ!?」

臆する様子もなく、細い両腕を一杯に広げる。

「な、何を言ってるんだよ! あなたの方こそ、早くここから!!」

黙って首を横に振る少女。
地響きを立てて迫り来る番人。

「どうして……!?」

先程出会ったばかりの少女が、自分を助けるために命を懸けようとしている。
焦りの中で口を突いたのは、疑問だった。

「お姉ちゃんこそ、どうして逃げないの?」
「……それは……」

何故、誰かを助けようとするのか。
何故、他人のために力を尽くすのか。

「……それは」

それは、あの娘に教わったから。
あの娘の愛が、私の選ぶべき道を、私だけの道を教えてくれたから。
彼女のように、誰かのために戦いたい。
自分にしかできない方法で、誰かの歩く道を守りたい。
それが、全ての始まりだった。
……だから。

「……私、だからだ!!」

メイの胸元で、リンクロスが桃色の光を灯す。
溢れ出した閃光が全身を包み、番人の目を眩ませる。
少女を抱いてジャンプし、突進してくる番人をかわすメイ。
空中で一回転し、背後に降り立つ。

「これ……は」

光が消えると共に、メイの身体に起きた変化。
桃色の衣装を纏い、金色に染まった髪。
その姿は紛れもない、伝説の戦士・キュアピーチ。

「一体、何が……?」

戸惑うメイ。
振り向き、翼を広げる番人。

『ケエエエエエエエ!!』
「あれこれ考えるのは、後回し……かっ!」

少女を庇い、身構えるメイ。

「ハアアアッ!!」

飛びかかってくる番人の喉元に、カウンターパンチを叩き込む。

『ケエエエ!?』
「悪いの、悪いの、飛んでいけっ!」

すかさず、吹き飛ぶ番人に向けて必殺技を放つ。

「プリキュア・ラブ・サンシャイン!!」

眩い桃色の光、“愛”の力が番人を包む。

『……ケエエエ……エエ』

巨大な鳥の外形が白い砂に変わり、風に溶ける。
内部から現れた、核とおぼしき光球が、ゆっくりと天に帰っていく。

「やった……!」

それを見送り、我に返るメイ。
気付いた時には既に、自分の身体は元の状態に戻っていた。
首を傾げながら、身体のあちこちをぺたぺた触ってみるメイ。

「むう……でも、今の力は間違いなく……」

思い悩むメイの手を取り、引っ張る少女。

「早く、行こ」
「えっ……あなたも、一緒に?」

首をぶんぶんと縦に振る少女。
小さくため息をついた後、手を握り返して微笑むメイ。

「オーケー。頼りにしてるよ?」
「……うん」


***


一方その頃、時の流れの異なる物質世界。

「メイさん……シフォン……」
「ごめん……」
「わたしたち、もう……」
「……力が……出ないわ……」

戦う意志と力を失ったプリキュア。

「フフ……そうよ。嘆け、悲しめ。不幸の渦に呑まれて、あの世へ行くがいい」

ソレワターセに捕縛された彼女たちにトドメを刺さんと、二体のナケワメーケが迫る。

「あかん……もう、何もかも……おしまいや……」

うつむいたタルトの目に、あるものが映る。
地面に横たわったメイの身体。
その傍ら……破れたセーラー服のポケットから落ちた、黒いパスケース。

「……これは……」


***


岩山を目指して、歩き続けるメイと少女。
いつしか花畑は荒野に変わり、空はどす黒い雲に覆われていた。

「なぁんか、嫌な感じになってきてるけど」

黙ったまま、メイの手を引く少女。
行く手はどんどん暗くなり、風に混じって白いものがちらつき始めたかと思うと、唐突に猛吹雪が襲ってきた。

「うぉわ……でも、あんまり冷たくないね」
「お姉ちゃんの命は半分の半分の、そのまた半分くらいしかないからね」
「……ここではちょっとした、幽霊みたいなものってことか」

それなら、自分と同じく平気なこの子は何なのか……と思ったが、ちょっと怖いので訊くのはやめた。
吹雪の中を進んでいると、やがて目の前に、凹凸のない白い大地が広がった。

「これは何?」
「たましいを凍らす、氷の湖。眠れないたましいに、安らぎを与えるところ」

凍りついた湖面を吹き抜ける風。
足を踏ん張り、氷の上を進む二人。
行く手は白い闇に閉ざされている。

「……これ、まっすぐ進めてる?」
「だいじょうぶだよ。あたしがついてるから」
「……う、うん」

初めて会った筈なのに、自分の背丈の半分ほどもない少女なのに、何故か不思議な安心感があった。
顔に当たる雪の冷たさはほとんど感じないのに、繋いだ手の温もりははっきり伝わってくる。

「ねぇ、あなたって……」

メイが言いかけた時、唐突な震動と氷の軋む音が湖面を駆け抜けた。

「な……!?」

二人の足元、氷の下を巨大な影が移動していく。

「番人……」
「えっ、また!?」

白い大地を砕いて、二人の背後に頭部が現れる。
やはり石造りの体表、鮫を模したような巨大魚の姿。
人一人を丸呑みにできるほど大きく開いた口に、無数の鋭い歯が並んでいる。

「走るよ!!」

少女の手を引いて走り出すメイ。
割れた氷を押し退け、水しぶきを上げながら二人を追う番人。
その進軍によって引き起こされた波が、行く手の氷を砕き、メイたちの逃げ道を狭めていく。

「お姉ちゃん、そっちは進めないよ」

前方の氷が完全に破壊され、露になった黒い湖面が、二人を呑み込まんと待ち受ける。

「……いや……」

吹雪の中を走りながら、首を横に振るメイ。
スピードを緩めず、真っ直ぐに前だけを見つめて。

「希望を失くさない限り、進む道は前にある!」

少女を抱え上げ、勢い良く跳躍するメイ。
氷の裂け目を越え、反対側へ着地する。

「フフ……どうよ?」

腕の中の少女へ、得意げに微笑みかけるメイ。
だが、その足元……着地点の氷が、ミシミシと音を立てる。

「だめ……」
「くっ!」

咄嗟に少女を放すメイ。
足の下の氷が割れ、独り水中に没する。

(しまっ……た……)

暗闇でもがくメイに、猛スピードで迫る番人。

(まだだ……こんな所で、私は……!)

メイの意志が、再びリンクロスに光を灯す。

「…………」

メイを呑み込んだ湖面を覗き込む少女。
目の前の水中に小さな輝きが生まれたかと思うと、湖全体が蒼い閃光を放つ。

「……希望のちから……」

湖面を割り、氷の破片と共に番人の巨体が宙を舞う。
それを追って水中から空へ駆け上がる、蒼い戦士。
キュアベリーの装衣に身を包んだ、メイの姿。

「プリキュア・エスポワール・シャワー!!」

広げた両手からほとばしる、“希望”の力。
空中で必殺技を受け、雲散霧消する番人。
残った光球が着水し、湖底へと沈んでいく。

「番人、帰った」
「うん……あ、あれ?」

気がつくとまた、元の姿に戻っているメイ。
いつの間にか吹雪も止み、すぐそこに茶褐色の陸地が見えている。


***


「これは、メイはんが大事にしてた……」

地面に投げ出された、黒いパスケースを拾い上げるタルト。
ノーザの鞭によって引き裂かれた、その内側から、二枚の写真が覗く。

「……!」

少し照れくさそうに微笑むメイと、その胸に抱かれて眠るシフォンの姿。
ラブたちと肩を組んで笑うメイ、そしてキサナの姿。
かけがえのない思い出を刻んだ、二枚の写真。

「……そうや……わいはキサナはんと、約束したんや」

そこに切り取られた一瞬の情景が、失われかけていた誓いを取り戻させた。

「……わいが、プリキュアを支える! そして、絶対にシフォンを守るんや!!」

立ち上がり、声の限りに叫ぶタルト。

「しっかりするんや! プリキュアはん!」
「タルト……」
「メイはんが、自分を犠牲にしてでも守ろうとしたもの……あんさんたちには、わかるはずや!!」
「……メイさんが、守ろうとしたもの……?」

ピーチたちの胸にもまた、メイと共に戦ってきた記憶が駆け巡る。

「あたしたちの、幸せ……」
「あたしたちとの、絆……」
「わたしたちの、願い……」
「……私たちの、明日……!」

四人の瞳に、小さな光が蘇る。
それは絶望の闇夜に、希望を照らす光。
挫けない心が生む宝石。
……プリキュアの力。

「「「「……はあああああああああっ!!」」」」

一斉に放たれた四色の光が、ソレワターセの腕を弾き飛ばす。
不屈の輝きを纏い、再び大地に並び立つ四人の戦士。

「メイさんが守ろうとしたものを……あんたたちの、好きにはさせない!!」

愛のキュアピーチ。
希望のキュアベリー。
祈りのキュアパイン。
幸せのキュアパッション。

……フレッシュプリキュア!


***


荒野を歩くメイと少女。
前方には巨大な岩山が、はっきりと近づいてきている。

「もうちょっとだよ」
「それは、いいんだけど……」

二人の行く手は地面が完全に途絶え、断崖絶壁と化している。

「勇気のだんがい」
「いや、名前も別にいいんだけど……」

左右を見渡しても、安全に降りられそうな所は無い。

「ここを降りないと、岩山へはたどり着けないか」

恐る恐る、崖の端から下を覗き込むメイ。
一体どれだけの高さがあるのか、下界は霞んでよく見えない。

「ええい……どうせ命の半分以上は死んでるんだから、今さら怖いものなんてあるか!!」

自らを奮い立たせ、勇気の断崖を降り始めるメイ。
崖の縁に手をかけ、慎重に足場を探す。
黙ってその後に続く少女。

「えっ、まだついてくるの? 危ないって!」

首を横に振り、黙々と壁面を伝っていく少女。

(しっかし、度胸のある子だなぁ……)

二人が崖にへばりついてから、どれほど経ったか。
メイの真横にいた少女が、動きを止めて下を見る。

「ダ、ダメだよ、下を見ちゃ!」
「……番人だ」
「えぇぇ!?」

慌てて視線を下に向けるメイ。
垂直の崖を一直線に駆け上がってくる、豹のような白い獣。

「ちょっ、ちょっと、勘弁してよぉ!」

上へ引き返そうとしたメイの手元、掴んでいた岩が崩れ落ちる。

「うわ……」

宙を掻いたメイの手に、少女の手が伸びる。

「ダ、ダメ……!」

メイの身体を支えられるわけもなく、共に落下する少女。

(ば、ばか……!)

真っ逆様に落ちながら、少女を必死に抱き寄せるメイ。
眼を閉じると、無限の奈落に吸い込まれていく感覚だけが、身体を支配する。

(あの世でも、崖から落ちたら死ぬのかな……)

暗い水の底に沈むように、冷たく、光を失っていく思考。

(そうだ。無事で済むわけがない)

だが、その中にあって……たった一つの腕の中の温もりが、メイをメイであり続けさせた。

(……だってこの子は、私を助けようとした。危険だと知っていて、私のために手を差しのべてくれた)

小さな身体を強く強く抱きしめて、その命を救う道が必ずあると信じて。

(……絶対に助けたい。私の祈りが届くのなら……!!)

二人の胸の合間で、新たな鼓動が生まれる。
リンクロスに灯る、癒しの光。

「祈りのちから……」

二人を包んだ光が消えた時、メイの祈りが生んだ、キュアパインの姿がそこにあった。

「しっかりつかまっててよ!」

眼下、恐ろしい勢いでこちらに迫る番人。

『グォルルルルルルッ!!』

牙をむいて襲い来る猛獣に向け、手をかざすメイ。

「プリキュア・ヒーリング・プレアー!!」

少女を背負って降下しながら、すれ違い様に技を見舞う。

『……オオオオオ……!』

“祈り”の力に戦意を失い、石の身体を手放す番人。
壁面を蹴って空中を一回転、ひらりと崖下に着地するメイ。

「……生きてる?」
「うん」

少女を背から下ろし、額の汗を拭うメイ。
その姿は、またしても元に戻っている。

「さっきは確かに、こいつが……」

掌に乗せたリンクロスを、じっと見つめるメイ。

「行こう、お姉ちゃん」
「う……うん」

首を傾げながらも、少女の後に続いて岩山へ向かう。


***


「あたしたちは、負けない。もう二度と、挫けない!!」

絶望の淵から、再び立ち上がった四人のプリキュア。

「プリキュアはん……!」

見守るタルトの目から、一筋の涙が流れる。
その雫が、胸に抱いたクローバーボックスに弾けた時。

「……何や……!?」

ボックスの蓋が開き、流れ始めるオルゴールの旋律。

「綺麗なメロディ……」
「……とっても、優しい響き……」
「これは、子守唄……?」

オルゴールの音色に怯み、歩みを止めるナケワメーケ。

「一体、何が起きている……?」

狼狽するノーザの掌の上。
インフィニティを包み込んだ蔓の隙間から、光が漏れ始める。

「な……!?」
「キュア……キュア……プリップ―――――ッ!!」

ノーザの目の前で炸裂する閃光。
弾け飛び、消滅する無数の蔓。
プリキュアたちに向かって飛ぶ光の球、その中に浮かぶ、妖精の姿。

「キュア、キュア~~~~!」
「シフォンやぁ!!」
「シフォン!」
「シフォンちゃん!」

いつも通りの笑顔で、ピーチの胸に飛び込むシフォン。

「インフィニティが……」
「元に戻っただとぉぉ!?」

驚愕するサウラーとウエスター。
シフォンを庇い、彼らに敢然と向かい合う、四人のプリキュア。

「この子は、インフィニティなんかじゃない。……この子は」
「「「「シフォンよ!!」」」」


***


岩山の麓に、大きく口を開いた洞窟。
内部には光を通さない、どす黒い闇が渦巻いている。

「この中に、出口が……暁の扉が……」
「うん」
「……よし!」

意を決し、少女と共に暗闇へ分け入っていくメイ。
一寸先も見えない、絶対無音の闇。
繋いだ少女の手を握りしめ、勇気を頼りに進んでいく。

「ここでは、振り向いたらだめ」
「……振り向いたら……?」
「そうしたら、出られなくなる」

やがて行く手に、小さな光の点が現れる。

「あそこに、扉が!?」
「うん」

光に向かって、足を速めるメイ。

(もう少しだ……!)

その胸に次々と、大切な仲間たちの顔が浮かんでくる。
ラブ。
美希。
祈里。
せつな。
タルト。
シフォン。

(……そして……)

ふとよぎる、今はもういない、彼女の笑顔。

(キサ……ナ……)

メイの心に、冷たい向かい風が吹き付ける。

(私は、みんなの所へ帰れる。……だけど、キサナは……)

メイの足が、次第に鈍くなる。
その心を反映するかのように、目の前に瞬いていた光もまた鈍く、弱まっていく。

「……扉、消えた」
「!?」

呟きと共に、足を止める少女。
二人の前方には、もはや一点の光も見えない。

「……どうして……?」

無明の闇に包囲され、立ち尽くすメイ。

「振り向いたから」
「……え……?」
「お姉ちゃんの心が、昨日を振り向いてるからだよ」
「……!」
「心の底に、明日から逃げたい気持ちがあるからだよ」
「そんな……」

未来を求めない魂に、永遠の牢獄を抜け出すことはできない。
暗闇にへたり込むメイ。

「その気持ちがある限り、扉は見えないよ」
「……だって、そんなの、どうしようもないじゃないか……」

視界を奪われた状況で、さらに未来からも目を背けるように、両手で顔を覆うメイ。

「そうだよ、私は怖い。明日に進むのが怖いんだ。……だって、キサナと離れたくないから。……キサナを、昨日にしたくないから……」

うずくまるメイに、寄り添う少女。

「……お姉ちゃん……」


***


ピーチの腕の中、クローバーボックスと呼応するように、シフォンの額が虹色に輝く。

「……キュア、プリプ―――――ッ!!」

四人のリンクルンから放たれた、四色のプリキュアの力が、メイの胸のリンクロスに集束する。

「何が起こってるの!?」
「……メイさん……!」

オルゴールのメロディが、リンクロスを通じて魂の園へ送られる。
大切な仲間……もう一人の、戦士のもとへ。

「この音は……?」

出口無き闇の中で、その旋律に耳を澄ますメイ。

「この音色はね、プリキュアたちの心が、あなたとつながっていることのあかし」

少女が手をかざすと、洞窟の暗闇に、無数の映像が浮かび上がる。

「プリ……キュア……」

何度も傷付き、挫けそうになりながらも、邪悪に立ち向かっていく五人の戦士たち。
世界の明日を、人々の幸せを、仲間たちの願いを……守るために戦ってきた、その道のり。
彼女たちの瞳は、ただ前を、明日だけを見つめている。

「思い出って、後ろを振り返るためにあるんじゃないんだよ。……昨日を明日に繋げるために、前に向かって進んでいくために、あるんだよ」

何故なら。
……思い出とは、未来にこそ蘇るものだから。

「……わかったよ……」

拳をもう一度握り締め、ゆっくりと立ち上がるメイ。

「明日へ向かうことは、キサナから離れることじゃないんだ。……前に進んでいる限り、私たちはいつも一緒なんだ」

遥か遠くに消え去った光が、瞬く間に目の前まで迫る。

「暁の……扉……!」

それは、光の漏れる鍵穴だった。

『ついに、全ての試練を乗り越えたキュイ』
「え……」

少女の身体が霞み、代わりに現れる、緑色の妖精。
……記憶を司る、絆の鍵。

「ミドルン!」
『メイの命を元の世界へ帰すためには、魂の園の掟に従い、四つの試練を課す必要があったキュイ』
「やっぱり、あなただったんだね。……リンクロスに刻まれた記憶から、プリキュアの力を再現して、私を助けてくれたんだよね」
『あたしだけの力じゃないキュイ。魂がプリキュアの力を使えたのは、メイがみんなと繋いだ、キズナがあったからキュイ』
「うん……だから今度こそ、私は進む。思い出を未来に繋ぐため……本当の幸せを、ゲットするために!!」

その言葉に応えるように、四つ目の輝きを灯すリンクロス。
メイの身体を包む赤い光が、キュアパッションの装衣に変わる。

『暁への道を、進むキュイ!』

鍵穴に飛び込むミドルン。
暗闇が左右に開き、現世への道が現れる。

「私が歩むべき、明日へ……!」

真の“幸せ”を願うその心、覚悟を力に変えて。
溢れ出す光の中を、真紅の矢となって突き抜けるメイ。


***


「メイさん!!」
「……う……」

目を覚ましたメイを、六つの笑顔が迎える。

「メイ!」
「めい~~~~!」
「メイはん!」
「メイさん……よかった……」
「バカ……本当に、死んじゃったかと思ったわよ……」

ピーチとパッションに、両脇から抱き起こされるメイ。
涙を零すベリーとパインを、その両手で抱き締める。

「ごめん、みんな……ただいま」

四人に支えられ、立ち上がるメイ。
シフォン、タルトと共に、ラビリンスと正面から対峙する。

「あり得ない……お前の命は、私が吸い尽くしたはずだ……!!」

動揺するノーザに向けて、ちっちっと指を振ってみせるメイ。

「それが、あるのさ。……何故なら私は、私たちは」

声を揃える、五人の戦士。

「「「「「プリキュアなのだから!!」」」」」

ついに、その時は来た。
胸のリンクロスを握り締めるメイ。
内に宿るミドルンの力により、緑色に輝く十字架。

「チェインジ・プリキュア!」

天高く、リンクロスを掲げて叫ぶメイ。
四体のピックルンの力が集束し、緑の十字架を中心に、四色のハートが光る。
そこに生まれたのは、ピーチたちの胸に輝くものと同じ、プリキュアのシンボル。
リンクロスを通じてメイに語りかける、ピルン、ブルン、キルン、アカルン。

『あなたは四つの試練を通し、四人のプリキュアとの絆を築いたキィ』
『過去を乗り越え、未来を切り開く心を得たキィ』
『今こそあなたに、伝説の戦士の称号を与える時が来たキィ』
『邪悪な闇を打ち払う、大いなる夜明けの力を、受け取るキィ!』

メイの前に、巨大なクローバーの紋章が、魔方陣となって現れる。

「ビート・ア――――ップ!!」

魔方陣を通り抜け、魂の園へ飛び込むメイ。
キュアピーチの装衣を纏い、花園の中から飛翔する。
続いてベリーにチェンジし、氷の湖を華麗に滑走する。
パインの姿となって、勇気の断崖を舞い降りる。
そしてパッションの赤い閃光が闇を裂き、暁の扉を突き抜ける。

「くっ……!?」

眩い光がノーザの目を射抜く。
ナケワメーケの身体に巻き付いていた鎖、明日を縛り付けていた鎖が、音を立てて砕け散る。

「バカな……」
「夜が、明けるだとぉぉ!?」

地平線を白く染める、明けの陽光。
夜闇と共に、後ずさるラビリンス。
せり上がる黄金の太陽、燃える朝日を背に受けて、地にそびえる一人の戦士。

「……四つのハートは、夜明けの光」

明けゆく空を写し取った、白い体。
そこに映えるは、桃、青、黄、赤、極彩色の闘気。
一条の光の如く、鋭く美しく、あらゆる闇を駆逐する眼差し。

「朝焼けフレッシュ! キュアブレイク!!」

一切の翳(かげ)り無く、ただ全ての邪悪を粉砕する、暁の救世主(メシア)。
……その名は破戒者、キュアブレイク。

「メイさんが、新しいプリキュアに……!?」
「ちょ……ちょっと、こんなの、アリなわけ!?」
「すごい……!」
「奇跡や……奇跡が起こったんやぁ!!」

その姿に見惚れるピーチたち、飛び上がって歓ぶタルトに向かって、微笑みながら指を振ってみせるブレイク。

「必然」

守るべき者たちには、完全無欠の希望を。
邪悪なる敵対者には、拭えぬ絶対の絶望を。
その胸に刻み込む、破戒神の威容。

「ナ……ナ、ナ……」
「ナケワメーケッ!!」

恐怖で硬直するウエスターに代わり、震える声で叫ぶサウラー。

『ナケェ!』
『ワメーケェェ!!』

命令のままに突撃する、二体のナケワメーケ。
腕を組み、悠然と構えたブレイクの唇が、微かに動く。

「……ダークブレイク」

ブレイクの目前で、凍りついたように動きを止める二体。

「「シュワァ……シュワァァ……」」

光の粒子と化し、瞬く間に消滅していく巨体。

「!??」
「何が……起こった……?」

夜明けの力を込めた言霊は、それ自体が闇を払う武器となる。

「朝日に照らされ、闇は消えゆく……」

鎮魂の呟きと共に、ピーチたちに向かって片手をかざすブレイク。

「クローバーボックスよ……今こそ四人の戦士に、その力を貸し与えたまえ」

ブレイクの言霊を受けて、展開するクローバーボックス。
その内から解き放たれた光が、ピーチたちのリンクルンへと吸い込まれる。

「これは……」
「どうなってるの……?」
「身体中に……」
「力が、満ち溢れてくる感じ!」

メイと同じく、最大の逆境を乗り越えた四人の戦士。
彼女たちの内で、プリキュアの真の力が覚醒する。

『ソレワターセェェェ!!』

迫り来るソレワターセに向かい、一斉に身構えるピーチたち。

「みんなのハートを、一つにするよ!」

ピーチの言葉に頷くベリー、パイン、パッション。
クローバーボックスから溢れ出す光が、周囲の全てを包み込む。
幕開ける、極彩色の世界……特殊空間、クローバー・フィールド。

「プリキュアフォーメーション!」

この舞台で演じられるのは、一種の『儀式』である。
古代から幾多の邪悪な存在に打ち勝ってきた、プリキュアたちの、絆を繋ぐ伝説の『再現』。

「レディー……ゴ―――ッ!!」

ピーチの号令と共に、ソレワターセに向かって走り出す四人のプリキュア。

「ハピネスリーフ、セット!」

パッションの手の中に、彼女が象徴する“幸せ”の力が集束する。

「パイン!」

パッションが投げ渡した力の結晶、赤いハートの葉を受け取るパイン。

「プラスワン、プレアーリーフ!」

“祈り”の力、黄色の葉を加え、先を走る仲間へと託す。

「ベリー!」

キャッチした二枚のハートに、新たな力を込めるベリー。

「プラスワン、エスポワールリーフ!」

“希望”の青を加えた絆の結晶を、最後の走者へと繋ぐ。

「ピーチ!」

三人から受け継いだハートに、大いなる“愛”の力を注ぎ込むピーチ。

「プラスワン……ラブリーリーフッ!」

四つ目の葉が生まれ、ピーチの手の中でハートのクローバーが完成する。
パッションの手からパインの手に、
パインの手からベリーの手に、
ベリーの手からピーチの手に。
絆の連鎖(リンク)が織り上げる幸せの四つ葉は、罪をあがなう十字架にも似て。

「ハッ!!」

ピーチが投げたクローバーが、魔方陣へと姿を変える。
その上に舞い降り、それぞれの力を集中するプリキュア。
四人を乗せた魔方陣がソレワターセを透過し、体内の隅々までをプリキュアの力で満たす。

「「「「ラッキークローバー、グランドフィナーレ!!!!」」」」

ソレワターセの四方から、一斉に手をかざして叫ぶ四人。
巨大なクリスタル状の結界が、ソレワターセの全身を包み込む。

「「「「ハアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」」」」

四人の声と共に、ソレワターセの体内に満ちたプリキュアの力が爆裂する。
プリキュアの力を増幅する結界、閉じたクリスタルの中で、無限の連鎖反応が起こり始める。
途方も無い領域まで高まった破邪のエネルギーが、出口の無い空間で猛り狂う。

『シュオオオ……オオオオ……!!』

ソレワターセの身体が光となって分解し、核となっていた実が弾け、消し飛ぶ。
……かくて『儀式』の幕は下り、邪悪は虚空へと退場する。

「すごい……力……!」

自分たちに発現した新たな力に、驚きを隠せないピーチたち。

「クローバーボックスの力が、必ず必要になる……長老が言うてたんは、この力のことやったんや……!」
「フフ……そう簡単には、インフィニティを渡してくれないってことね? 面白いわぁ……」

プリキュアたちに背を向け、次元のトンネルへ消えていくノーザ。

「プリキュア……一体、どこまで……」
「こんなの……こんなの……聞いてないぞぉぉぉ!!」

慌てて、闇に退散していくサウラーとウエスター。

「……また、メイさんに助けられちゃったね」

ピーチの言葉に、首を横に振るブレイク。

「助けてもらったのは、私の方。……みんながいてくれたからこそ、私は前に進むことができたんだから」
「めい~~~~!」

足元に降り立ったシフォンを、しゃがんで迎えるブレイク。
その膝に、小さな両手が乗る。

「シフォンちゃん……?」

ブレイクの足に掴まり、ゆっくりと立ち上がるシフォン。

「キュア~~~♪」
「シ……」
「シフォンが……」
「「「「「「立ったあああああああ!!?」」」」」」

駆け寄る一同に向かって、よちよちと歩いてみせるシフォン。

「すごいわ、シフォン!」
「いつの間に、歩けるようになったの!?」
「めい~~~♪」

笑いかけるシフォンを、優しく抱き上げるブレイク。

「あなたも、ちょっとずつ成長している。前に進んでるんだね」

ブレイクの胸で、惹かれ合うように輝く、シフォンの額とリンクロス。

「確かにこの子は、インフィニティと表裏一体の存在なのかもしれない。……でも、この子が持っている無限のメモリーは、こうしてたくさんの幸せを記憶して……成長していくために、あるんだと思う」
「そして、その記憶から生まれる笑顔が、みんなを幸せにしてくれる。……シフォンは、きっとそのために生まれたんだね」

ブレイクとピーチの言葉に、笑顔で頷くベリーたち。

「これからも、みんなのハートを合わせて……シフォンちゃんを、全ての世界を、守っていこう」

ブレイクが差し出した手の上に、四人のプリキュアの手が重なっていく。

「ハッピーバースデイ、メイさん」
「……うん!」

祝福するように青空を舞う、五体のピックルン。

(母さん。私も、生まれてきてよかったよ。……ありがとう)


***


その日の夕方、メイの家。
居間のソファーに座った、美希と祈里。

「ラブとせつな、ちょっと遅いわね」
「でも今日は、せつなちゃんの手作りコロッケが食べられるのよね。楽しみ!」

二人の背後を、うろうろと歩き回るメイ。

「メイ……気持ちはわかるけど、座って待ちなさいよ」
「だ、だって……」

(今日は、私の誕生日……誕生日といえば、プレゼント……プレゼントといえば……)

メイの脳内でありありと展開される、近未来のシミュレーション。

「メイさん、目をつぶって」
「えっ、どうして?」
「……プレゼントだよ」

ラブに言われるまま、目を閉じるメイ。
期待と不安に高鳴る鼓動。

「桃園さん……?」
「……ハッピーバースデイ」

その唇にそっと、天使が舞い降りたかのような、柔かい感触が……。

(……っっ!! これだ……これしかない……!!)

メイの妄想を断ち切るように、待ち侘びた呼び鈴が鳴る。

「きたあああああああああああ!!!」

二秒で玄関に到着し、勢い良くドアを開けるメイ。

「いらっしゃ―――――い!!」

満面の笑顔で来客を向かえ……直後、目の前の人物を見て硬直する。

「よ、よう……」

それぞれタルトとシフォンを抱いてドアの前に立つ、ラブとせつな。
メイの正面、ラブたちに挟まれ、非常に気まずそうな顔をしている大輔。

「……な、な……っ!?」
「さっき、そこの道をうろうろ歩き回っていたから、声をかけたの」

メイが叫ぶ前に、事情を話すせつな。

「ほら大輔、メイさんに言いたかったことがあるんでしょ?」
「あ、ああ……」

ラブに催促されて、口を開く大輔。

「女子が話してたけどよ……今日、お前の誕生日なんだろ?」
「そ、そうだけど……」
「だから昨日のこと、やっぱちゃんと、謝っておこうと思って。……悪かった」

メイに向かって、深々と頭を下げる大輔。
思いがけない展開に、呆然とするメイ。

「私にもちゃんと謝ってくれたから、もう許してあげて」
「いや……それは、いいけど……」
「これ、良かったらみんなで食べてくれ」

箱詰めされたカオルちゃんのドーナツを、メイに手渡す大輔。
そのまま踵を返し、夕日の中を帰っていく。

(……ふ~ん……案外、良い所もあるじゃないか……)

ほんの少しだけ、メイが大輔を見直そうとした、その時。

「待って、大輔君」

去り行く大輔を、呼び止めるせつな。

「ラブにも、何か言いたいことがあったんじゃない?」
「そ、それは……」
「大輔?」
「昨日からずっと、ラブと話したさそうだったもの」
「……その……」

少しの間を置いて、観念したようにラブの方を向く大輔。

「あ……明日の……野球大会……」

その言葉に、大きく反応するラブ。

「ご……ごめん大輔! 応援しに行く約束……あたし、すっかり忘れてて……!」
「俺こそ、一人でイライラしちまって……それで、東に八つ当たりなんかして……本当に、悪かったよ」
「大輔……」

うつむく大輔に、右手を差し出すラブ。

「これで本当に、仲直りだね。……明日、絶対応援に行くよ」
「お、おお……」

大輔がその手を取ろうとした時、ラブの背後から、ゆらりと顔を出すメイ。

「ほほぉ……じゃあアレだ、私への謝罪は、桃園さんのついでだったってわけだ……?」
「いや……ち、違っ……」
「お前に明日など来ない!! ここで私があの世に送ってやるわ!!」
「うおおお!?」

ドーナツの箱をラブに渡すと、拳を振り上げて大輔を追いかけるメイ。
自らが引き上げた太陽が、再び沈みゆくその彼方へ。
様子を見に来た美希と祈里を含め、誕生日パーティーの招待客全員が見守る中を、夕陽に向かって疾走していく。

「何でそうなるねん……」
「主役が、いなくなっちゃった……」
「メイさぁ――――ん、暗くなる前に帰らなきゃ、ダメだよぉ――――っ!」
「そ……そういう問題なの?」

生まれ変わったメイの戦いは、まだまだ続くのであった(色んな意味で)。





つづく




******


次回のフレッシュプリキュア! クロス†オーバーは、
第17話『クローバーボックスをさがせ!!』をお送りします。
お楽しみに!





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No title

おお、ブログタイトルが加わってる!しかしキサナの髪って藍色っぽい色だったんだ…
キュアブレイクは、4人の特徴を持っているのは、まさか変身過程で他の4人に変身するとは…
ふむ、どうやらリンクロスとブレイク、かなりのチート能力を持っているようだ…
しかし、ラブさんに関する事で怒ったメイさんが『お前に明日など来ない』なんて言ってると、本当に明日が来なさそうw

コメントありがとうございます

>柳星張さん

前々からトップが寂しいとは感じていたので、出来はともかく、思い切ってイラストを載せてみました。
設定的にはキサナの髪色は純和風、黒髪が正しいです。
ただ、ブログの顔的には、明るい青の方がいいかな…とか。いい加減です。

リンクロスは十字架だけあって天国に繋がっていたわけですが、リングルンのように異常な万能アイテムではなく、あくまでピックルンの力の器です。
次話以降、色々仕掛けは考えていますが。

片想いに焼き餅、メイさんも少女漫画してます。
ただし、恋の相手は漢女(おとめ)に限る。

遅ればせながら

よもや、新プリキュア誕生がラッキークローバーの4人に絡んでいたとは・・・。
でも、シフォンを立たせるとは、この子も一歩ずつ成長しているという明かしなのかも知れませんね。

さてブレイク誕生前後編を終えて、次回はクローバーボックスがメイン。元ネタである本編38話では、美希たんの知性ぶりが発揮されたのですが、果たしてクロスオーバー版ではどうか?
今から楽しみにしたいと思います。

コメントありがとうございます

>畑中智晴さん

今回は全員が苦難を乗り越えて、そしてみんなで成長する話にしたかったのです。
ブレイク誕生の経緯は、
4つのハートには加われない→なら一人で4つ分になっちゃえ!
とうことですw
次回もよろしくお願いします。
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ヤネ

Author:ヤネ
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