クロスオーバー! フレッシュプリキュア! クロス†オーバー 第21話(前半)

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フレッシュプリキュア! クロス†オーバー 第21話(前半)



そこは遥か古代、光を失う以前のトワイライト。


(キサナが言っていた。……トワイライトに関する記録は、どのパラレルワールドにも遺されていない。忘れ去られた王国だと)


太陽は地平線に留まり、沈むことも、昇ることも無い。
向かい合うように、青白く光る月もまた、中空に静止し続けている。
永遠に続く黄昏が、ここにはあった。

(だとしたらこれは……無限に等しい時を、誰にも知られることのなかった記憶……)

ミドルンと並んで草原に腰掛け、メイは無邪気に走り回るトワイライトの少女を見つめていた。
風をはらんだ栗色の髪、翡翠色のリボンがふわふわと揺れる。

(似てる……というか、完全に同じだ)

その姿形から花を集める仕草まで、彼女はミドルンが化身した少女と瓜二つだった。

(もしかして、ミドルンもキサナと同じように……)

当のミドルンはというと、周りに生えたタンポポに似た植物を摘み取っては、綿毛を飛ばして遊んでいた。
その存在はこの世界では、メイしか認識することができない。

「ふ――っ」
「ミドルン……」
「なに? お姉ちゃん」
「いま私が見ているこの世界は、リンクロスに刻まれた記憶……なんだよね」
「そうだよ。導きあう波動が、リンクロスの記憶を呼びおこしたんだよ」

メイ=キュアブレイクが体験した異変。
そこには常に鈴の音が、一人の少女の影があった。
遥か古代、記憶の闇に葬られた王国……トワイライトを継ぐ者。

「……トワ……」

彼女とリンクロスの共鳴こそが、この事態を引き起こしたのに間違いなかった。

「私の意識だけが、記憶を基に再現された、過去のトワイライトを追体験している……?」

ミドルンは黙って頷いた。

「だとして、元の世界に……私の身体に意識を戻す方法は?」
「……それは、あたしにもわからないよ」
「え!? ちょっと、あなただけが頼りなのに……」
「お姉さん!」

唐突に呼びかけられ、メイは少女の方を向いた。

「これ!」

差し出されたのは、色とりどりの花々で編み上げた冠だった。

「わ、私に?」

手を伸ばすメイに、少女はぶんぶんと首を横に振った。

「キュアグレープに渡して」
「あ、そういう……」

一瞬本気で喜んだだけに、メイは落胆を隠せなかった。

「いつもトワイライトを守ってくれる、お礼。お姉さんもプリキュアなんだから、キュアグレープがどこにいるかわかるでしょ」
「あの……あいにくだけど、私は知らないよ」
「えー……」

少女の盛り下がりっぷりがさらにメイの胸を抉る。

「使えないプリキュアで申し訳なかったですね……」

うな垂れて落とした視線が、胸のリンクロスに重なった。

「……キュアグレープ……そうだ!」

黄昏を映したその輝きが、メイの思考を刺激する。

(この過去の世界にも、キュアグレープがもつリンクロスがあるはず……。二つを引き合わせることで、道が開けるかもしれない)

「ねぇ、あなたのお名前は?」

腰を上げ、メイは少女に呼びかけた。

「リラ!」
「リラちゃん、私にこの国を案内してほしいんだ。頼めるかな?」
「いいよ。でも、その代わり……」

花の冠を握り締め、リラはメイを見上げる。

「いっしょにキュアグレープをさがしてくれる?」
「……もちろんさ。行こう、リラちゃん。キュアグレープを探しに!」


茜色の光を浴びながら、二人は手を取り合って丘を下った。
……本来、握り合えるはずの無かった手と手。
時を越えた、有り得るはずの無い出会い。
それは同時に、定められた別れの始まりでもあった。



フレッシュプリキュア! クロス†オーバー
第21話『目覚める女王! その名はクインシィタナトス!!』



リラに案内され、メイはトワイライトの街を見て回った。

(……もうひとつのリンクロスに近づきさえすれば、何らかの反応があるはず)


教会、劇場、市場……。
活気と穏やかさが同居した空気は、クローバータウンストリートを思い起こさせた。

(素敵な……国だな)

家々の軒先で、あるいは街路灯として……螢にも似た淡い光源が周囲を照らしている。

「綺麗だね。あれは、光る……水晶?」
「お姉さん、知らないの?」

驚きを通り越し、呆れすら含んだリラの声に、メイはまたしても落ち込まされた。

「う……うん」

それでも少女を怖がらせることのないよう、メイは必死に笑顔を繕った。
整い過ぎた容姿ゆえに、その表情の強張りは人一倍、相手に冷たい印象を与えてしまう。
相手が幼い女の子ならなおさらだ。
……経験上、それははっきりと自覚していた。

「よるこうせきだよ」
「夜……鉱石?」

二人の間から、メイにしか聞こえない声でミドルンが補足する。

「別名で、トワイライト。この国の名前の由来になった石だよ」

(……そういえば、キサナから聞いたことがある。王国の文明を支えたエネルギー源。この地でしか採掘できない鉱石。その最後の一個が、リングルンの中枢部にも使われていると……)

「お嬢ちゃん!」
「は!? はいっ!」

思わぬ方向から急に話しかけられ、メイは慌てて答えた。
色とりどりの果物が敷き詰められた屋台から、背の低い主人がこちらを見上げていた。

「見慣れない格好だけど、どこの国から来たんだい?」
「ええっと……しいて言うなら……未来?」

メイの返答に、声をかけた主人は首を傾げた。

「ミライ? 聞いたことない国だな……まぁ、ゆっくりしていくといいさ。ここは日が暮れることも昇ることもない、宵の王国だからな」
「ど、どうも……」
「これ、持ってきな!」

リンゴに似た果物を渡されると、お礼を述べながらリラの手を引き、メイはそそくさとその場を退散した。

「リラちゃん、休憩しない? ……お姉さん、ちょっと疲れちゃってさ」

在りし日のトワイライトの賑わいを目にするほど、未来を知るメイの心には、得体の知れない罪悪感が湧き上がっていた。

「えー? もうつかれたの? プリキュアなのに?」
「ぐっ……」

胸に突き刺さる言葉に、メイは三度身体を震わせた。

「じゃあ、公園に行こっか」
「よろしくお願いします……」

案内されたのは、街の東側に広がる公園だった。

「ここは……」
「どうしたの、お姉さん?」


『ここは、本当の私……キュアグレープが、大好きな場所でした。もっとも私は、内蔵されたデータの上でしか、知りませんでしたけどね』


目の前の情景に重なるように、メイの胸中にキサナの姿と言葉が甦る。

「ここにいれば、キュアグレープに会えるかもしれないな……」
「え? どうして?」
「ふふ……プリキュアだから、わかるのさ」
「へえ……」

得意気なメイを見上げるリラの眼差しに、初めて尊敬の色が混じっていた。


***


リラと並んで噴水に腰掛け、果物を齧りながら……橙と紫が入り混じった空を、メイは見上げた。
背後では、ワンピースの裾を捲くったミドルンが水遊びをしている。

「ん……けっこう美味しいね、これ」


郷愁を感じさせる鐘の音が、街中に響き渡る。
街の中央……廃墟と化した現在のトワイライトでは、グレイブタワーにあたる……その位置には、立派な城郭がそびえていた。
リングルンの設計図を遺したという女王は、あそこにいるのだろうか。
城の頂で打ち鳴らされる鐘だけが、永遠の宵の中で唯一、時を刻んでいるようだった。

(そういえば……眠りにつく前のトワも、この記憶の中にいるのかな……)


「ねえ、お姉さん」
「ん?」
「これ、あげる」
「え……」

少女がメイに手渡したのは、ずっと大切に握っていた、花の冠だった。

「鐘が鳴ったから、もううちに帰らなきゃ」
「でも、これは……」
「お姉さんも、みんなを守ってくれるプリキュアなんでしょ? ……それに、今日、けっこう面白かったから」
「リラちゃん……」
「キュアグレープには、また新しいやつを作って渡すの。ここにいれば、会えるんでしょ?」
「……ありがとう」

微笑む少女の頭を、メイは優しく撫でた。
栗色の髪の中で、エメラルドの輝きを持ったブローチが目に留まる。

「これ……綺麗だね」
「これはね、もう力がなくなった夜鉱石。でも、すごくキレイだよね」
「うん」

力を使い果たした夜鉱石は光を失う代わり、宝石のような美しい色に変わる。
古代トワイライトにおいてそれは、願いを聞き届ける“星”であると言われた。

「お母さんがくれたの。死んじゃうちょっと前に」
「そう……か」

メイの表情が沈むのを見ると、少女は心配そうにその顔を覗き込んだ。

「お姉さん、どうして悲しい顔するの?」
「それは……」

自らの母親との記憶を胸に描きながら、メイは少女に逆の問いをかけた。

「あなたは、悲しくないの? ……お母さんと、楽しい思い出がたくさんあったでしょ?」
「……お母さん、言ってたの。思い出は後ろを振り返るためにあるんじゃなくて、笑顔で前に向かって進んでいくために、あるんだって」
「……!」


メイは驚愕した。
それは、かつてミドルンがメイに語ったのと同じ言葉だったからだ。

(……この言葉のおかげで私は、キュアブレイクになれたんだ)

遥か古代に母が娘へ贈ったその想いは、リンクロスに刻まれた記憶を通じて……遠い未来のメイを、仲間達を救っていたのだ。
そしてまた、これほど幼い女の子がその言葉の意味を理解し、悲しみに耐えながら生きているという事実が、メイの心を強く打った。

「だから、リラは悲しくないよ。いつもお母さんといっしょだから」
「……そうだね」

少女の屈託無い笑顔に、メイの表情も自然と和らいだ。
もらった冠を自分の頭に載せ、メイは膝の上のリラに笑いかけた。

「……似合うかな?」
「うん!」

二人の笑顔が輝きを交わす。
メイは母親のように、リラの小さな体を抱き締めた。

「リラちゃんは強いね。……私よりずっと強い」
「本当に? ……それじゃあ、プリキュアになれる?」
「なれるよ。絶対に」


リラの言葉にメイが答えた、
……その、時だった。

「!?」

穏やかな宵の空気とは全く異なる……血と硝煙の臭いを孕んだ禍々しい風が、街に吹き荒れた。
リラを抱いたメイの腕に、無意識に力がこもる。

「……お姉さん?」

(この気配……まさか、でも間違いない……)


不吉な予感を裏付けるように、西の空の一角に、どす黒い影が渦を巻いていた。
雷雲とも見えるそれは……巨大な翼とねじくれた角、赤く光る両目を備えた……竜魔人の眷族、“怪魔”の大群だった。

「魔人総攻撃の日……」

ミドルンが漏らした呟きが、メイの血を凍らせる。

「そんな……じゃあ、この記憶が!?」


王国の中心地が炎に包まれた、運命の日。
やがて来る滅亡への第一歩――。

「冗談じゃない!」

空を埋め尽くす怪魔。
その口から放たれた炎が、瞬く間に街並を舐め尽くす。
平穏に満ちた世界が一変、悲鳴と絶叫の飛び交う地獄と化していた。

「リラちゃん、こっちへ!」

リラの手を引き、メイは公園を見下ろす母子像の背後へ身を隠した。

「お姉さん……」
「大丈夫だよ。ここから動かないで」

リンクロスを握り締め、メイは怪魔の群れを見据えた。

「お姉ちゃん、変身するつもりなの?」

その背後から、ミドルンの声が呼びかける。

「……ここは記憶から造られた世界。リンクロスを使って変身すれば、何が起こるかわからない。……でしょ?」

メイの返答に、ミドルンは黙って頷いた。

「わかってる。でも今は、そんなことを考えていられる時じゃ――」


「キュアグレープだ!!」
「え!?」

走り出そうとしたメイの足を、リラの声が止めた。

「あそこ!」

小さな指が示す先。
炎に囲まれた公園の中央に、一人の少女が立っていた。

「あれ……は……!?」

その姿に、メイは己の目を疑った。


「トワ……!?」

熱風にたなびく深紅のマフラー。
ルビーのように燃える瞳と、赤い輝きを纏った銀の髪。
炎に照らされたその顔、この世ならざる美しさを湛えた、それは……紛れもなく、トワのものだった。

「トワがキュアグレープ……キサナのオリジナル!? まさか!?」

唯一異なるのは、右目を覆う眼帯。
そしてその胸で、紫色に光るリンクロスの存在。

「別人なの? それとも……」

混乱するメイの手の中で、彼女のリンクロスは少女のものと同じ、紫色の光を灯していた。

「……プリキュアチェンジ!!」

胸のリンクロスに手をかざし、少女は変身の呪文を叫んだ。
その身体を、次元のベールが幾重にも包み込む。
リンクロス、眼帯、そして歴戦の傷みを刻んだ、深紅のマフラーはそのままに。


「キュアグレープ! 願いの銀英雄、キサナ!!」


若草色に染まった髪と、キュアグレイブとは似て異なる紫の装衣。
トワイライトの守護者、伝説のプリキュアが、そこに立っていた。


『グオオオオオオオオン!!』

怪魔の群れが雄叫びを上げ、一斉に天から殺到する。
戦士は一歩も退かず、マフラーを翻して矢のように飛んだ。


「はぁっ!!」

跳躍した勢いのまま正面の一体に蹴り込み、宙返りを打って背後の二体にも回し蹴りを見舞う。
一撃で心臓部を浄化され、三体の怪魔は塵と消えた。

『グオオオオオオオオ!!』

耳をつんざく断末魔が錯綜する。
それでも怯むことなく、四方八方から次々と、怪魔達はグレープに襲いかかった。

『グオオオオオオゥ!!』

地面すれすれを飛行し、両側面から二体の怪魔が迫る。
正面の敵を足技でいなしながら、グレープは両の拳を左右に振り下ろした。

「……ふッ!」

同時に叩き落とされ、二体はグレープの両脇で爆散した。
その隙に回り込んだ一体が、背後から炎を吹きつける。

『グオオオオオオオッ!?』

……が、その瞬間すでにグレープは真上に跳び、彼女の代わりに数体の怪魔が灰となった。

「グレープバレット!」

空中で叫ぶと、グレープは己の胸に手を伸ばした。
リンクロスが変形巨大化し、グレープの手の中で銃の姿を取る。

「プリキュアシューティング!!」

地表近くに集まっていた怪魔に、“グレープバレット”から放たれた無数の光弾が降り注いだ。

『グオオオオオオオオオオオオ!!?』

五芒星を象った光の雨に貫かれ、怪魔達は瞬く間に消滅していった。
塵一つ残さず消え去ったその中心に、グレープは華麗に着地した。


「すごい……」

戦いぶりに目を奪われていた、メイの口から言葉が漏れる。
グレープが名乗りを上げてから僅か十秒ほどの間に、数十体の怪魔が塵と消えていた。
――が、それでも――。

「……多過ぎる……!」

メイが、グレープが見上げる空には、黒雲のような群れが渦巻いている。
敵は数百、数千、それ以上だった。

「キュアグレープ……」

リラは両手を組み、祈るようにグレープを応援していた。

「……一人じゃ、無理だ」

再びリンクロスを手に、メイは母子像の背から飛び出した。

「お姉さん!」
「お姉ちゃん!」

リラとミドルン、二つの声が重なった。

「キュアグレープを……助けに行くよ」

メイが見つめる先。
グレープは怪魔の群れを引きつけ、戦場を街の中心から遠ざけようとしていた。

「お姉ちゃん、それは――」
「プリキュアとして、ね」

ミドルンの言葉を制し、メイは二人へ同時に微笑みかけた。

「行くよ、ミドルン!」

メイの言葉に頷き、ミドルンはリンクロスに一体化した。
プリキュアの力に反応してか、怪魔の一体が群れを外れ、公園に接近してくる。

「チェインジ・プリキュア!!」

迎え撃つようにリンクロスを掲げ、メイは叫んだ。
……だが。


「変身……できない!?」

リンクロスは光を灯さず、沈黙を保っていた。
記憶を基に造り出されたこの世界では、キュアブレイクは存在できないのだ。

『グオオオオオオオン!!』
「そうと決まれば、こいつでやれるところまで……!」

リンクロスを小銃に変形させ、メイは迫る怪魔に狙いを絞った。

「お姉さ――――んっ!」

その時、メイの身を案じ、リラが叫んだ。

「……リラちゃん、駄目!!」

リラの声を聞きつけると、襲い来る怪魔は、より弱い者へとその標的を変えた。

「くっ!」

リラ目がけて急降下する怪魔を、メイは瞬時に狙い撃った。
銃口から放たれた光弾は、空気を裂き――。

『グオオオオオッ!!』

命中。
片翼を失った怪魔は空中でバランスを失い、きりもみ回転しながら落下した。

「!」


……母子像の真上へ。


「しまっ――」

息を呑んだ時には、全てが遅きに失していた。
爆音と衝撃波が公園を駆け抜け、メイの身体を吹き飛ばした。
頭に載せていた花の冠が千切れ、吹雪のように舞い散る。
そして光熱に歪んだ視界が一瞬、業火に包まれる小さな影を捉えた。

……リラ。


「かはっ!」

大地に叩きつけられ、メイの全身を激痛が苛んだ。

「リ……ラ」

それさえ忘れて立ち上がり、燃え盛る炎を目指して、メイは一直線に走った。

「……リラちゃん!!」

熱風が肺を責め立て、肌を焼いた。

「リラちゃん!!」

それでも手を伸ばし、炎の渦に少女の姿を探し求める。


「……お姉ちゃん」
「リラ……リラ……」
「お姉ちゃん!!」
「!」

ミドルンの声が、炎に呑まれる寸前でメイを制止した。

「もう、遅いんだよ」
「……でも……助け……なきゃ」

メイの語尾が弱々しく震えた。

「私のせいで……私の……」
「違うよ、お姉ちゃん」

ゆっくりと首を横に振り、ミドルンはメイの手を握った。

「ここは過ぎ去った記憶の世界。あたしの“姿”……リラも、ここで命を落とす定めだったんだよ」
「命を落とす……定め……」

メイの足元にしゃがみ込むと、燃え盛る炎に両手を差し伸べた。
ミドルンが掬い上げたのは、黒く焦げついた髪飾りだった。

「だから、リラを忘れないで。あたしたちにできるのは、それだけだよ」

受け取ろうとしたメイの指先でそれは砕け、灰となって舞い落ちた。
掌に降った僅かな残滓を握り締め、メイは怪魔の群れを見やった。


「お姉ちゃん……?」

リンクロスを手に取り、メイは再び、炎渦巻く戦地へと踏み出した。

「あの子はプリキュアを……私を信じてくれたんだ」

リラは強かった。
過去を背負って未来を生きる強さ、戦う力は無くとも、誰かを救おうとする勇気を持っていた。
自分はどうか。
メイは思った。

「私は、プリキュアなんだ」

瞳から溢れようとしていた雫を振り払い、風を切って前へ。

「たとえ誰ひとり救えない戦いだとしても、私はあの子の想いに応えたい。……キュアブレイクとして、黒須メイとして」


メイが世界の理に立ち向かうことを決意した、その時。
大地へ降り注いだ灰……髪飾りの残滓が光の粒子に変わり、足元から舞い上がる。

「これは……!?」

メイの手や服からも光の粒子が生まれ、一斉にリンクロスへと集まっていく。

「願い叶える、黄昏の星……」
「え?」
「夜鉱石が、お姉ちゃんの強い願いに応えてくれたんだよ」
「……リラのお母さんの、形見が……」

髪飾りに刻まれたリラの魂が、不可能を可能に塗り替えた。
最後にミドルンが一体化すると、記憶の十字架に、五色の光が甦る。


「……見ていてね、リラちゃん。……あなたの言葉と想いが与えてくれた、夜明けの光を……」

その力を嗅ぎ取り、怪魔の群れがメイに迫り来る。
リンクロスを天にかざし……今一度、メイは高らかに叫んだ。

「ビート・ア――――ップ!!」

人々を襲う邪悪の炎を、極彩色の闘気が薙ぎ払う。
巻き起こる疾風。
吹き上げられた花びらが、その登場を讃えるように舞い踊った。


「四つのハートは夜明けの光! 朝焼けフレッシュ、キュアブレイク!!」


宵の王国に降臨する、夜明けの戦士。
純白の装衣が燃える空の色を映し、怒りの紅に染まる。

『グオオオオオオオオオオン!!』

プリキュアの姿を認めるや否や、怪魔達は狂ったような速度で殺到した。
視界を埋め尽くす、数十、数百の敵。
その暗闇を――。

「ダーク……ブレイクッ!!」

ただ一節の言霊で、光に還す。

星無きトワイライトの大地に、満天の星空を思わせる、無数の輝きを降らせて……。
孤軍奮闘するグレープのもとへ、ブレイクは飛翔した。


***


炎に巻かれる街並を駆け抜けながら、グレープは怪魔の群れと戦っていた。
一瞬の間隙も無い、全方位からの攻撃に……その身のこなしにも僅かながら、疲弊の色が見え始めていた。


(せめて……一人でも多くの民が、避難する時間を稼げれば……)

眼帯に覆われた右目の死角を狙い、怪魔が押し寄せる。

「!」

体勢を崩し、グレープの反応が遅れた。
無防備となった右半身を、黒い爪が引き裂こうとした……次の瞬間だった。

『グオオオオオオオオオオオッ!!』
「!?」

天から降り注いだ光柱がグレープの周囲を駆け巡り、無数の怪魔を跡形も無く消し去った。

「あなたは……」
「キュア、ブレイク」

驚くグレープの背に、バズーカを肩に担いだブレイクが、寄り添うように着地する。

「……初めまして、ブレイク。どちらの国の方かは存じ上げませんが、感謝します」
「あ、ああ……」

見た目も声も、全く別人のそれであるにも関わらず。
自分の知るキサナ……キサナドゥの面影を持ったグレープに、ブレイクは戸惑った。

「魔人の総攻撃によって、大多数のプリキュアはそれぞれの国に釘付けにされています」
「これだけの数が、他の世界にも?」
「いえ、それらは足止め程度に過ぎないでしょう。本命はここ……というより、この王国の資源……」
「そうか、夜鉱石……!」

バズーカ、バレットを振りかざし、群がる怪魔を撃ち落としながら、二人は言葉を交わした。

「私は、この街を守れませんでした」
「…………」
「それでも、夜鉱石の力は守ってみせます。母なる光が、決して悪用されることのないように。トワイライトに生まれたプリキュアとして……たとえ、全てを失うことになっても」
「え……」

グレープの呟きに、ブレイクは秘められた重い決断を垣間見た。
……その時、二人の六感が同時に、怪魔とは異なる敵の接近を示した。
正確には怪魔と同種の、しかしまるで力の桁がかけ離れた、遥か上位の存在だった。


「……ようやくお出ましですか」

空を覆う黒い群れを割り、一つの影が二人のプリキュアの前に降り立つ。


『我が名は竜魔人ルベウス。猛き血の勇者なり』

眷族である怪魔とは異なり、その姿形は人間に近い。
隆起した赤と黒の鱗が甲冑を思わせる意匠を作り出し、その顔は、魔人皇帝への忠誠の証である鉄仮面に覆われている。

「これが……魔人の力……」

初めて対峙する真の魔人の闘気に、ブレイクは全身を圧搾されるような感覚に支配された。

『噂通りの戦士だな、キュアグレープ。バルキリー・ジュカとの果たし合いで右目を失ってなお、その力は衰えぬと聞く……相手にとって不足はない』

赤いマントを翻し、ルベウスは腰から剣を引き抜いた。

「ブレイク、怪魔の相手をお願いします」
「しかし……」
「私は負けません」

長期戦による消耗を案じるブレイクに、グレープは確かな声で返答した。

『……ヴァ、ハ、ハ……』

その言葉を聞き、ルベウスは愉快そうに笑った。
仮面の中で反響し震える声が、不気味な威圧感を醸し出す。

「この国を荒らし、民の命を奪った罪……あなたの魂に、その罰を刻みましょう」

魔人と真っ向から対峙すると、グレープは言った。
怒りも悲しみも、微塵も感じさせない、鉄のような宣戦。
ただ燃えるようにたなびく深紅のマフラーだけが、彼女の計り知れない闘志を代弁していた。


『よかろう……我が血を滾らす炎となれい!』

それぞれ剣と銃を手に、両者は猛然と肉薄した。
すれ違い様、グレープは五発の光弾を相手の胴へと撃ち込んだ。

「!?」

命中と同時に全ての弾が跳ね返され、消滅した。

『私の竜鱗鎧に、攻撃は通用せぬぞ?』

剣を振り回し、ルベウスは右目の死角を執拗に攻めた。
紙一重でかわしつつ応戦するグレープだが、全ての攻撃を鱗に弾かれ、ジリジリと後退させられていく。

「キュアグレープ!」

怪魔を蹴散らしながら、ブレイクはルベウスに向けてバズーカを発射した。

『ムン!』

剣の一振りが竜巻を招来し、プリキュアシューティングを掻き消す。

「何っ!?」
『どの世界のプリキュアかは知らんが、つまらん手出しはやめておくことだな』

殺意に満ちた竜眼が仮面の奥からブレイクを射抜き、その場に踏み止まらせた。

「くっ……」

一瞬の躊躇の間に、ブレイクの行く手を無数の怪魔が遮ると、それ以上の前進を阻んだ。


『もう逃げられんな』

行き止まりに追い込まれ、グレープは壁に背をついた。
しかし勝ち誇ったルベウスの言葉に、彼女は意味ありげな笑みで応じた。

「そうですね。逃げる必要がなくなりましたから」
『な……』

グレープの視線を追って、ルベウスは己の胸に目を落とした。
鱗の一部が焦げつき、僅かな亀裂が生じていた。

『貴様!? この一点のみを狙って、射撃を――』
「……ご名答です」

狼狽した隙を突いて、グレープの足刀がルベウスの手を蹴り上げる。

『グォ!?』

主のもとを離れ、剣が宙を舞った。
すかさず真上に跳んだグレープがそれを掴み取り、落下する勢いのまま、縦一閃の斬撃をルベウスに叩きつける。

「どぉっ……せぇえええ―――――いっ!!」
『グゥオアアアアアアッ!!』

胸の亀裂から鱗が完全に砕け、急所が露になった。

「パープルン!」

グレープの声に応じ、リンクロスの内から “願い”の鍵の妖精が現れる。
ダークルンGの、能力の基となったピックルン……その名も、“パープルン”。

「ロックブレイク!」

パープルンをバレットに装填し、グレープは一気にルベウスの懐へ飛び込んだ。

「輝け、願いのコンチェルト!」

右目の眼帯が紫色に輝き、十字型の紋章……魔人の心臓部を捉える、ターゲットサイトが浮かび上がる。

「プリキュア――」

最終ロックを解除され、バレットが瞬時に分離変形する。
グレープの両腕がクロスし、ルベウスの胸に二つの銃口を突きつけた。


「グランティング・スタ―――――ッ!!」


願いを叶える二連星。
二丁のグレープバレットが、パープルンの全エネルギーを解き放つ。

『グッ……オォ……オオオオオオオオオオッ!!』

吹き飛ばされたルベウスは、怪魔の群れを巻き込んで爆発消滅した。
肉体を失い、残されたその魔力だけが凝り固まると、一枚の黒いカードとなって舞い落ちた。

「あれが、ダークルンの素なのか……」

その中心を貫いて、グレープは手向けとばかりにルベウスの剣を突き立てた。
カードが白く変色し、竜を象った紋章だけが黒く浮かび上がった。


「やったな、キュアグレープ」

怪魔を全て倒すと、ブレイクはグレープに向かって微笑みかけた。
返答の代わりに首を横に振ると、グレープは空を見上げた。

「戦いはまだ終わっていません。間もなく、敵の第二陣がここへ来るでしょう」
「……くっ」

燃える街並を見渡し、ブレイクは歯噛みした。

「少しだけ……魔人の相手を、お願いします」

ブレイクに一礼すると、グレープは自分のリンクロスを彼女へ差し出した。

「グレープ、何を……」
「全ての夜鉱石を生み出す、地下神殿のマザーストーンを破壊します。……魔人たちの手に落ちる前に」
「マザーストーン……?」
「マザーストーンが消えれば、残った夜鉱石はほぼ全て自壊するはずです。おそらくその衝撃で、私も無事では済まないでしょうが」
「待って! この街と、夜鉱石に加えて……あなたまで失ったら、トワイライトは――」
「王国の復興は、困難なものになるでしょう。……しかし、私は信じています。クイーンを……私の、双子の妹を」
「……妹……」

グレープのその言葉が、ブレイクの頭の中で混沌としていたパズルのピースを、綺麗に組み上げた。
トワの正体、それはつまり――。

「そして、もうひとつ。……私のリンクロスとあなたのリンクロス。二つはまったく同じものです。唯一違うのは、そこに刻まれた記憶の量だけ」

ブレイクの目を正面から見据え、グレープは確信を突いた。

「あなたは、こことは異なる時間軸の世界からやって来たのではないですか?」
「……さすが、何でもお見通しか」

溜め息をつき、ブレイクは観念した。

「私は、遠い未来のプリキュア。キュアブレイク、黒須メイだ」
「やはり、そうでしたか」
「どうして私が過去の世界を垣間見ているのか、理由はわからない。あるいは本当に、リンクロス同士が呼び合ったのかもしれないが……」
「……キュアブレイク」

再びブレイクと正面から向かい合い、グレープはゆっくりと言葉を紡いだ。

「この国の、未来のこと……知っていますか?」
「……それは……」

僅かな逡巡の後……グレープの瞳を真っ直ぐに見つめ返し、ブレイクは口を開いた。

「それは、答えられない」
「…………」
「でも、これだけは言える。……私達は昨日を受け継ぎながら、明日に向かって生きている。私はあなた達から、数えきれないほどたくさんのものをもらった。……だから……」
「ありがとうございます。……その言葉だけで、十分です」

リンクロスを託すと、グレープはブレイクに背を向けた。

「ここで見たことを忘れないでください。……記憶を胸に明日を生きる人がいれば、この地で消えた命も、想いも……未来へ、永遠に輝き続けることができるのだから」
「キュアグレープ……」
「……それが私の、最後の願いです」

深紅のマフラーを翻し、炎の彼方へ消えていく、紫の影。
その背に向かって、ブレイクは声の限りに呼びかけた。


「……さようなら!!」


遠ざかる後姿を、精一杯の笑顔で送る。
それはメイにとって、二度目の別れになるのだから。

「遠い、遠い未来。……明日で会おうね、キサナ」

その感傷を胸に沈めて、ブレイクは空を仰いだ。
……全天を覆う、魔人・怪魔の群れ。

「さっきのは、単なる露払い……か」

第一陣とは、比べることすら無意味な規模の、大軍勢だった。

『諦めるのだな。トワイライトは、滅びる定めなのだ』

ブレイクの足元……剣に貫かれたカードから、ルベウスの声が響いた。

「定め。……そうだな、ここは何もかも、過去に定められた世界だ」

或いはそれは、ブレイクの心を映した幻聴だったのかもしれない。

「だが私は、私自身の道を選び、進む。……それが私の、プリキュアだから」

この手には、伝説の戦士から受け継いだ、記憶の結晶がある。
この胸には、トワイライトに生まれ生きた命から受け継いだ、願いが輝いている。
……退く理由など、無い。

「ミドルン!」

右手にバズーカを、左手にリンクロスを掲げ、ブレイクは叫んだ。

「ロックブレイク!!」

ミドルンがリンクロスと一体化し、巨大化、変形させる。

「轟け、夜明けのファンファーレ!!」

左右、二門のブレイクバズーカが、迫る闇の軍勢に狙いを定め――。


「ダブルプリキュアシューティング……ファイアー・オフ!!!」


二つの十字架から放たれた光の奔流は、王国の空に太陽を生み落とした。
その光に晒された闇の者は、ことごとくその身を灼かれ、塵さえ残さず虚空へと還る。
宵の王国トワイライト、最初で最後の夜明けだった。


***


城の地下に広がる神殿。
その中心に、数十メートルはあろうかという巨大な結晶が鎮座していた。
全ての夜鉱石を生み出してきた、マザーストーンである。
女王に認められた英雄でさえ、普段は立ち入りを禁じられた空間……そこに、グレープは佇んでいた。

「キュアブレイク……黒須メイ、あなたを信じます。……未来のトワイライトがどうなろうと、私たちの願いは受け継がれると。未来は……明日の世界は、平和に満ちていると」

その肩に寄り添うように、パープルンが姿を現した。

「もう一度、力を貸してくれるのですね。……ありがとう」

マザーストーンに近づくにつれ、その膨大なエネルギーがグレープの身を焦がし、取り込もうとする。

「闇の時代を越え、この地に数多の願いが集まった時……再びトワイライトは、奇跡の光を灯します。……絶対に」

パープルンを宿した拳を、グレープはマザーストーンの中心に叩きつけた。
一瞬にして結晶全体に亀裂が広がり、内包したエネルギーと共に炸裂する。
眩い光、トワイライトを育んできた母なる輝きに、グレープの身体は融和し、消えていく。
その心は安らかだった。
彼女の願いは今確かに、未来へと受け継がれたのだから。


「あれが……マザーストーンの光……なのか」

魔人の軍勢を蹴散らす、ブレイクの眼前で。
エメラルドの光が王国の地下から噴き上げ、空に向かって伸びる。
マザーストーンの崩壊によって解き放たれたエネルギーが、触れた魔人達を消滅させた。
炎の中で輝いていた夜鉱石が次々と砕け、灰と化していく。

……トワイライト最後の光。
天を突く光柱の輝きは、あまりにも悲痛で、そして美しかった。

「記憶が……終わる……?」

ブレイクの身体が徐々に透明化し、その意識が現実世界へと戻り始める。
グレープから預かったリンクロスが左手を透り抜け、地面に突き刺さった。
それは主に宛てた、小さな墓標とも見えた。
最後にもう一度、ブレイクは目の前の光景を、深く胸に刻み込んだ。


(私は忘れない。……笑顔、言葉、想い、命、願い。……ここで見た、全ての光を)





<後半へ>




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