クロスオーバー! フレッシュプリキュア! クロス†オーバー 第23話(前半)
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フレッシュプリキュア! クロス†オーバー 第23話(前半)



コンピュータの基盤を思わせる、無機質な都市群。
パラレルワールド……管理国家ラビリンス。
空は厚い雲に覆い尽くされ、昼とも夜ともつかない灰一色が、圧し掛かるように国全体を支配している。
国民はみな感情を封じ込まれ、ただ命令のまま、ロボットのように列を成して行動するのみ。


<全ては、メビウス様のために>


人々が声を揃え、呪文のように唱えるその言葉だけが、街に響いている。
……その静寂と精緻を破って、轟音を伴った爆煙が幾つも立ち上った。
白い煙塵の中から飛び出すと、四人のプリキュアは機械仕掛けの街並に散開した。

キュアピーチ、ベリー、パイン、そしてパッション。

やがて視界が晴れると、彼女らの正面……無数に立ち並ぶ建造物群の向こうに、巨大な黒い城が姿を現した。
無数の集積回路を組み上げたかのような壁面。天を突いてそびえ立つ様は、バベルの塔を思わせる。
その頂点に座する者こそ、この世界の王。全パラレルワールドの管理を企む邪悪な意志、総統メビウス。
全ての命の自由と幸福を守るため、野望に立ち向かわんとするプリキュア達だったが……その行く手を、絶対的な力をもって、二つの影が塞ぎ切っていた。

サウラー、ウエスター。

全身を襲う痛みに耐えながら、懸命に肩で息を続ける四人の戦士。彼女達に向けて、サウラーとウエスターは悠然と、静かに宣告した。


「さあ、終わりにしよう……プリキュア」
「これが俺達とお前達との、最期の戦いだ」




フレッシュプリキュア! クロス†オーバー
第23話『最終決戦! キュアエンジェル誕生!!』



館での戦いから、二日後の夕刻。
地平線に消えた夕日の残滓を見つめて、深紅の瞳がより紅く、燃えるようにゆらめいていた。


「いくらコートにマフラー巻いてたって、お体に障りますよ? クイーン」
「お気遣いありがとうございます。……でも、もう少しだけ」

部屋のガラス戸を開け、ベランダへ出てきたメイに、彼女は空の果てに視線を向けたまま答えた。
陶磁器のような白い肌も、夕日に煌く銀の髪も、メイが始めて会った時の、“トワ”のそれと何一つ変わってはいない。
だが、今その内に宿っている意思は、古代トワイライトの女王、クイーン・トワイライト13世としてのものである。
頭に戴いたリンクラウンが夜闇のエネルギーによって動作し、クイーンの魂のみを肉体に呼び戻しているのだ。
それは、いわばトワとタナトスの中間……半・変身状態とも呼べるものだった。

「というか……すみません、女王さまをこんな犬小屋みたいな家に……」
「お気になさらないでください。女王といっても、それはかつてのこと。今は単なる居候に過ぎないのですから」
「でも、料理の方もその……お口に合わなかったみたいですし……」

メイの語尾が、表情と共にしょんぼりと萎む。

「いえ、決して美味しくないということは。……ただ、少し変わった味がするとは……」
「トワには評判良かったんだけどなぁ~~っ、私のチャーハン……」

がっくりと肩を落としたメイに、クイーンは申し訳無さそうに……しかし、どこか嬉しそうに語りかけた。

「顔を上げてください、メイ」

言葉に従ってメイが再び前を向くと、紅い二つの瞳が、正面から彼女を出迎えた。

「あれを」
「……一番星?」

クイーンが指差した空の一点に、小さな光が瞬いていた。

「こうして、黄昏の中に身を置いていると……失われたふるさとに、戻ったような思いがします」

クイーンの横顔に、安らぎに満ちた笑みが宿っていた。
その瞳に映っているのは、今そこで燃えている太陽の輝きだけではない。

「……この世界の黄昏の色は、かつてのトワイライトに、よく似ている」

遥か古代に消えた、母なる世界の情景を、彼女はそこに重ね見ているのだ。

「ここに満ちた光を守るために、今まで戦ってきたあなた方へ……あらためて、感謝と敬意を」
「私達こそ、クイーンに感謝しています。あなたが残してくれたリングルンが、どれだけの命を救う力になったか……。それに今は、あなたも私達と一緒に、この世界のために戦ってくれている。敬意も何も……私達は、同じ仲間じゃないですか」

右手を差し出したメイに、小さく頭を下げながら……クイーンは、それを握り返すことをしなかった。

「……ありがとうございます」
「クイーン……?」
「しかし私は、守れなかった」

顔に刻まれた蒼い傷痕に指を這わせ、クイーンは微笑んだ。
先程とはまるで正反対の、痛みと苦しみに満ちた自嘲だった。

「醜いでしょう?」

クイーンの全身に刻まれた傷は、かつて国を守るための戦いで負ったものである。
残留した魔人の力がダークルンに反応して蒼く浮かび上がり、惨劇の記憶と共に彼女を苛むのだ。

「醜くなんか……あなたが女王として国を守るために戦った、それは証じゃないですか」

メイはクイーンと向かい合い、その言葉を正面から否定した。

「しかし、その結果……私が真に守らなければならなかったものは、全て失われました。これは……敗北の証です」

再びメイに背を向けたクイーンの、その表情は想像に余った。

「すみません。あなたにこんなことを言っても仕方ありませんね」
「……クイーン……」


……守れなかった。
メイもまた、トワイライトを包んだ戦火の一部始終を、その精神で体験した。クイーンの悲しみと絶望を、幾らかは理解できると思っていた。
だが、覗き見た“救えない過去”で足掻くのみだった自分と、命を賭した戦いの末に“救えるはずだった未来”を眼前で散らされたクイーンとの間には、やはり絶対的な差が横たわっていた。
トワイライトは彼女の治めていた国であり、たったひとつの故郷だ。愛する人、大切な命で溢れていたに違いない。
メイにとってみれば――事情は多少異なるが――ラビリンスに敗北し、結果、四つ葉町や家族、ラブ達を全て失ったという結果だ。


「…………」

想像したくもなかった。
メイはとうとう、クイーンにかける言葉を見つけることができなかった。

「だからこそ私達は、必ず勝たなくてはなりません。……そろそろ、ラブ達を迎える準備をしましょう」
「……はい」


ガラス戸を滑らせ、ベランダを出ていくクイーンの後姿に、くすんだ陰りは微塵も残っていなかった。
しかしメイは、知ってしまった。その威風堂々とした立ち振る舞いの背後には、決して拭えぬ心の傷が、常に疼いていることを。

(私達なら絶対なんとかできる……なんて、傲慢なことは思っちゃいないけど)

すっかり暗くなった空、輝く銀月を見上げて、メイは唇を強く結んだ。


(彼女の傷を癒すまでが……私達の戦いだ)



***


「最高幹部を失い、ラビリンスの情勢も揺らいでいるはず。迎撃の準備を整えられる前に、メビウスのもとへ攻め入る必要があります」

守りから攻めの戦いへ。
クイーンの言葉に、五人のプリキュアはそれぞれ思いを馳せた。

「長かった戦いも、ついに終わらせる時が来た、ってことか」
「メイさん、身体はもう大丈夫なの?」

祈里の心配そうな表情を吹き払うように、メイは勢い良く立ち上がると、胸を張った。

「きのう一日かけて、桃園さんにたっっぷり看病してもらったからさ!」
「看病って……そんなんじゃ」

メイの言葉にラブは何故か俯き、桃色の頬を仄かに赤らめる。
釣られるように、見栄を切ったメイの顔も、みるみる紅潮を始めた。

「はいはいそこまで。元気なのはよーくわかったから。……それで、リンクロスの方は大丈夫なの?」

見かねた美希が割って入ると、メイの胸のリンクロスを指差して言った。

「さ、さすがにバズーカはもう、使えないだろうけど……変身は問題なくできるレベルまで回復してるよ」

一時的にピーチロッドと一体化したことで、リンクロスは自己修復を行い、完全な損壊を免れた。
とはいえプリキュアシューティングを放とうとすれば、まず間違いなく砲身が裂け、爆発するだろう。
キュアブレイクの戦闘能力の低下は著しかったが、メイはそれをさしたる問題とは捉えていなかった。
いかに不利な状況にあっても、互いに力を合わせられる限り、プリキュアは決して負けない――館での戦いで、ラブ達が改めてそれを証明してくれたからだ。

「それより、心配なのは――」

崩れた表情を引き締め直すと、メイは“彼女”へ振り返った。

「大丈夫なの? ……東さん」

先程から一人だけ、沈黙を保ち続けているせつなへ。

「ラビリンスに攻め入って、総統メビウスと直接戦う覚悟。……できる?」

メイの口調は優しく、穏やかだった。
だが、その言葉には、突き放した冷たさがあった。
……せつなに少しでも迷いがあるならば、ここに残す。
メイの目はそう言っていた。

「あの時――」

俯いたまま、せつなは口を開いた。

「あの時、あなたは言ったわね。……プリキュアは五人じゃない。四人と一人だって」
「それは――」
「わかってるわ。メイが自分を一人と言った意味。……私達を信じてくれたこと」

顔を上げ、メイの目をまっすぐに見つめ返した。

「でも、一人で背負う必要なんてないのよ。私も、あなたが身代わりになるまでは、それに気付けなかった」
「東さん……」
「私は一人じゃない。みんなが一緒なら、ラビリンスに行くことも怖くない。私達は五人、一人欠けても私達にはならない」

せつなが差し出した手に、ラブが自分の手を重ねる。
続いて美希が、祈里が。
そして。

「……また迷っていたのは、私の方だったみたいだね」

微笑むメイの手が重なった。


「よっしゃあ、そうと決まったら、善は急げや! 今すぐ行ったろうやないけ―――!!」

跳び上がったタルトを、祈里が背後から、ふわりと抱きかかえた。

「タルトちゃんは、お留守番をお願い」
「な、なんでや! わいも一緒に――」
「あたし達がいない間に、ラビリンスがここに攻めてくるかもしれないでしょ?」
「せやけど……」

美希の言葉にも不満気な表情を浮かべる、その頭を、ラブがそっと撫でる。
彼女が指差した部屋の端、ベッドの上でシフォンがすやすやと寝息を立てていた。

「タルトだから、信じてシフォンのことをお願いできるの。……ね?」
「プリキュアがいない間、私も四つ葉町に残りますが……シフォンの世話は、あなたでないと……」

シフォンは、ダークルンが持つ魔人の力に反応してしまう。
その力によって現世に留まっている今のクイーンでは、世話をすることができないのだ。
彼女もまた、ラブの隣からタルトに懇願した。

「……わかった! わいも男や!」

僅かな沈黙の後、祈里の腕をすり抜けると、タルトは床の上で見得を切った。

「こっちの世界のことはわいらに任せて、思う存分活躍したってや!」
「ありがとう、タルト!」
「よろしくね、タルトちゃん!」

メイ達はタルトの前にしゃがむと、その小さな手を一人ずつ握っていった。
それが終わると、今度はシフォンの寝顔を皆で覗き込んだ。

「行ってくるね、シフォン」
「いい子にしてるのよ?」


全員の顔を見渡すと、せつなはリンクルンを取り出した。

「みんな、準備はいい?」
「……少し、待ってください」

アカルンを喚び出そうとした彼女を、クイーンが制した。

「クイーン?」
「敵も、こちらからの攻撃は予想しているはず。ワープのために開いたゲートから、逆に兵を送り込んでくる可能性もあります。……念のためプリキュアに変身し、万一の場合、戦闘ができるだけの広さのある場所から出発した方がいいでしょう」
「この近くで、戦える広さのある場所……」
「公園がいいわね」
「よぉーし! みんな、行こう!」

ラブに続いて部屋を出ようとしたメイの肩に、クイーンの手が触れた。

「メイ。……あなたには、もうひとつだけ」
「え……」

クイーンの掌の上、取り出したミラージュイスローンに彼女が口付けると、その鏡面が展開を始めた。

「黒須メイ、あなたに託します。……私達の切り札を」

溢れ出す光の中から、黄金の腕輪が浮かび上がった。
メイにとってそれは、予期せぬ再会でもあった。

「……これは……!」


リングルン。
デザインこそは以前と変わっていなかったが、戦いの中で損傷した部分が完全に修復され、まさに新品のような輝きを放っている。

「見た目は同じですが、中身は別物です。私の……クイーンの力を加えることで、出力と安定性が格段に向上しています。……それでも、本来想定された性能には、到底及びませんが」

それからクイーンは、リングルンが造られた経緯をメイに語って聞かせた。
――本来リングルンは、トワイライトを復興するための道具であった。
が、開発を一任されていた科学者がクイーンに反旗を翻し、リングルンに組み込まれるはずだった技術を悪用して、荒廃した王国の支配を企んだ。
未完成のリングルンを奪回したクイーンは、その力を用いて、王国を守るべく立ち向かった。
そして再び巻き起こった戦乱の中で、リングルンの完成に必要だった技術は永遠に失われ……またこの時に負った傷が原因となって、クイーンは眠りにつくこととなったのだ。


「わかりました。トワイライトの遺産……もう一度だけ、ありがたく使わせていただきます」

目の前に浮かんだリングルンを、メイはもう一度見つめた。
無数の戦乱と、潰えていった願いが生み落とした、その輝きを。

「…………」

初めてこれを手にした時、一度これを手放した時、そこには“彼女”がいた。
今は、冥府の十字架の下に眠る、あの笑顔があった。
……託された願いは、少しも変わってはいない。


「全ての世界の人々の、幸せを守るために」


手を伸ばし、メイはその光を再び、掴み取った。


***


静まり返った夜の公園。
その中心に、五色の輝きが溢れた。


「いよいよだな」

五人のプリキュアが、円を描くようにステージに立っていた。
春風が吹き抜けた日も、夏の日差しが照りつけた日も、落ち葉が降り積もった、あの秋の日も。……彼女達の苦楽をずっと、支えてきた舞台。
ブレイクの呟きに、四人も頷いた。


「みんな、ちょっとストップ!」


冷えた空気を伝わって、凛とした声が鳴り響いた。
それは、普段の練習中と全く変わらぬ調子で……プリキュア達は一瞬、幻聴と勘違いしたほどだった。

「ミユキさん!?」
「みんなに、会わせたい人がいるのよ」
「え……?」


ミユキに続いて舞台の陰から現れた一団は、みな、プリキュア達がよく知る顔ばかりだった。

「ミユキさんの話だけじゃ、半信半疑だったけど……」
「目の前で見せられたら、信じるしかない……か」

……ラブと祈里の両親。
美希の母親と和希。
そして、クローバータウンストリートの面々が、続々とステージの前に集まってきていた。

「変身を……見られちゃったの!?」
「ミユキさん、どうして……」
「ラビリンスに送り出す前に、みんなの家族に本当のことを知らせておくべきだと思ったの。……メイちゃんの家に電話したら、クイーンって子がここを教えてくれたわ」
「で、でも……」
「……ねぇプリキュアさん達、ひとつだけお願いしてもいいかしら」

ラブの母親……桃園あゆみが、舞台上の五人に向かって呼びかけた。

「もう一度だけ、変身する前の姿に。……私達の娘に、会わせて」
「……お母……さん」

プリキュア達は互いの顔を見合わせ、やがて変身を解いた。
人々が良く知る、五人の少女達が、ステージに立っていた。


「……ラブ」

舞台を下りると、ラブ達はそれぞれの家族と向かい合った。

「ご、ごめ――」
「ごめんね」

ラブの言葉を遮って、あゆみはその身体を抱き寄せた。

「あなた達のこと、今まで何も気付けずにいたわ。……親なのに」
「……お母さん……」

両親に向かって、祈里は頭を下げた。

「今までずっと、内緒にしてて……本当にごめんなさい!」

その小さな肩に手を添えて、彼女の父、山吹正は穏やかに微笑んだ。

「いいんだ。確かに、驚いたが……祈里がそこまで成長してくれてたことを、俺達は誇りに思うよ」
「お父さん……」

グローブのように大きな手が、栗色の髪を優しく撫でた。

「美希、行かないで!」
「ママ……」

娘の手を握り締め、涙ながらに叫んだのは、美希の母親……蒼乃レミだった。

「あの怪物達の本拠地に行くっていうんでしょ? あなたに何かあったら、私は……」
「……母さん、姉さんを行かせてあげて」

横から彼女を諌めたのは、息子の和希だった。

「でも!」
「姉さんが自分で決めて、本気で頑張ってきたことなんだ。だったら僕達は……僕達が、応援しなきゃ」
「和希……」

いま一度、美希は母親の瞳を真っ直ぐに見つめた。

「母さん、お願い。あたし……」

静寂の後、レミはゆっくりと頷いた。

「わかったわ。でも……本当に、帰ってきて……」
「約束する」

その手を強く握り返し、美希は確かな声で言った。

「お父さん、わたし……行かなきゃ」
「……ああ」

溢れ出た涙を拭い、祈里も父親と向かい合った。

「子供を守るのは親の役目。でも、本当に守らなきゃならないのは、子供の意志。……選んだ道よ」

娘の決意に満ちた視線に、祈里の母親……尚子が言葉を添えた。
公園に集まったプリキュアの家族達は、みな頷き、賛同を示した。

「そして、君達の選択なら、私達は信じられる。……自慢の娘だからな」

そう言うと、正は豪放な笑い声を響かせた。

「せっちゃんも、気をつけてね」
「…………」

あゆみの顔を見つめると、彼女との出会い、そして桃園家で過ごした日々の記憶が蘇り、せつなの視界をぼやかした。

「私達が向かう世界は……ラビリンスは、私の故郷です」

今にも涙を零しそうになりながら、懸命に言葉を紡ぐその姿を、あゆみは穏やかな表情で見守った。

「私の手で、この四つ葉町のように、素敵なところにしたいんです。私に、幸せを教えてくれた世界。もうひとつの故郷である、この町のように。……だから……」

ついに溢れたひと雫が、白い頬を流れ落ちた。
だが、せつなの瞳は光り輝き、幸せに満ちた未来を映しているように見えた。

「行ってきます……おかあさん」
「……いってらっしゃい、せっちゃん」

ラブと同じように、あゆみはせつなの身体をしっかりと抱き締めた。
血の繋がりは無くとも、共に過ごした時間は瞬きの刹那でも。
今この時、二人は確かに母と娘だった。

「お母さん……せつなぁ……」

せつなとあゆみのやり取りに、もらい泣きをするラブの頭を……父である圭太郎が、ぐしゃりと撫でた。
その顔には、やや複雑な表情が浮かんでいた。

「本当はラブ達に、危険なことはさせたくない。だけど、私達のわがままで、全ての世界を……そこで暮らしているたくさんの家族を、悲しませてはいけない。……悔しいが……父さん達には、世界どころか、娘を守る力すらない」
「お父さん……」
「まかせてください、お義父さま!!」

二人の横から、ひったくるように圭太郎の両手を握ると、メイは高らかに宣言した。

「娘さんも、その友達も、この世界も、全て私が守ってみせます!! だから、どうか安心して帰りをお待ちくださ――ぶッ!?」

くるくると、回転しながら飛来したソフト帽が、その顔に命中した。

「なんでこんな時に猛アピールしてんだよ。少しは空気読めよな!」

投げられた帽子は沢裕喜のもの。そして投げたのは、御子柴健人と共に彼の隣に立っている、知念大輔だ。
怒りに震える手で帽子を鷲掴みにすると、メイはそれを勢い良く放り投げた。
夜空に呑み込まれるように、黒い帽子はあっという間に見えなくなった。

「お前こそ空気読め! フラレたくせに!!」
「フラレてねえ!!」
「フラレただろ!!」
「お、俺の帽子……」

涙目で空を見上げる裕喜の肩に、健人がぽん、と手を載せる。

「あの、大輔……」

取っ組み合いを始めそうな勢いでメイと言い合う大輔に、ラブはおずおずと声をかけた。

「そうそう。桃園さん、ちゃんと言ってやってよ! お前のことはフったってさぁ」
「うるせぇ!」

メイにひと言だけ言い返すと、ため息を吐いて、大輔はラブと向き合った。

「ちゃんと言えよな。……プリキュアなら、プリキュアって」
「……うん……」
「キュアピーチに、“ラブが好きだ”って……俺、バカみたいじゃんか」
「……ごめん……」

俯くラブに、大輔の肩を抱き寄せながら、メイがへらへらと笑いかけた。

「桃園さんが気にすることないって。こいつがバカなのはわかりきってるし?」
「お前なぁ!!」
「おう、やるか? やるか?」
「あのっ――」

メイの挑発で再び過熱しかけた二人のやり取りを、ラブの声が止めた。

「大輔、あたしはその、メイさんと……」
「……わかってるよ」
「わかってるなら――ぶッ!?」

口を挟もうとしたメイの顔面を、大輔の掌が覆い隠した。

「だけど、まだ俺は諦めたわけじゃない」
「……え?」
「まだ、“ラブに告白”したわけじゃないからな」

きょとんとするラブに、大輔は晴れやかな顔でウィンクした。

「黒須との決着も、まだついてない。……だからお前ら、早く帰ってこいよ。悪いヤツら、パパッとやっつけてよ」
「……うん! ありがとう、大輔!!」

大輔らしい激励に、ラブも満面の笑顔で応えた。
一方で、ようやく彼の掌から解放されたメイは、肩で息をしていた。

「ふ、ふーん……まぁ、私の勝ちに揺るぎはないけどな……」
「長年をかけて育まれた想いだ。油断は禁物だぞ? メイ」
「うわぁあ!!」

不意に背後から響いた声に、メイは悲鳴を上げて飛び退いた。

「出たぁ!!」
「人を化け物か何かみたいに言わないでくれ……」
「ナラカさん!」

現れたのはメイの姉、紫藤ナラカだった。
薄桃色のトレンチコートに、長い黒髪が美しく映えている。

「キサナから、断片的な話は聞いていたが。……実際に目の当たりにすると、プリキュアに変身したお前も、実に綺麗だったぞ」

頬を染め、陶然とした瞳でこちらを見つめるナラカに、メイは震えながらラブに泣きついた。

「うぅ……キモいよー、怖いよー!!」
「桃園ラブ、こんな妹ですまないが……頼む」
「は、はあ……」

一礼するナラカに、ラブは苦笑いで応えた。

「メイ、今のはその……冗談だ。いや、偽りのない本心ではあったが。今日は姉として、お前をきちんと送り出したい」
「姉さん……」
「……メイ」

先程までと一転した、ナラカの真摯な言葉と眼差しに動かされ、メイは静かに彼女の前へと歩み出た。
と、次の瞬間。

「えいっ!」
「!?」

身長で勝るメイを、ナラカは飛びつくようにして抱き締めた。

「ちょっと、姉さん!?」
「……説明しよう」
「やめ……苦しいって!」
「ナラカホールドは、黒須メイが特定の呪文を唱えない限り、絶対に解けない呪縛なのだ」
「……はぁ?」

困惑するメイの、その胸に顔をうずめたまま、ナラカは呟いた。

「呪文は……私への愛の言葉だ」
「姉さん、やめてよこんな時に……」
「……ひと言でいい。ひと言で……いいんだ」
「…………」

母親にすがる子供のように、決して自分から離れようとしないナラカの身体を、メイは優しく抱き締めた。
小さく震える姉の耳元で、ゆっくりと、ひとつひとつ言葉を囁いていく。

「……姉さんはシスコンで、ストーカーで、ド変態の上に、いい年こいて中二病患者で……本当に、どうしようもない姉だけど」

ナラカの頭に頬を寄せて、最後にこう結んだ。


「……世界で一番、カッコいいお姉ちゃんだよ」


その言葉を聞き届けると、ナラカはやや不満げに、渋々とメイの身体から離れた。

「……60点」
「低いなぁおい!!」

頭上で怒鳴るメイの顔を見上げながら、ナラカはその首にスルリと手を回した。

「ちょっ、離してくれるって……」
「離すさ。ただし、100点満点を取ったら、だ」
「あのね――」

呆れ果てたメイが、文句を呟くより早く。
ナラカの唇が、その口を塞いでいた。


「……これで40点分」


何事が起きたかをメイが理解したのは、ナラカが彼女の側から離れた後だった。

「ね……え……さ……ん……っ」

怒りと恥ずかしさでメイの全身から炎が噴き上がるのを、その場にいた全員が幻視した。
あまりに衝撃的な光景を目の当たりにし、大輔や裕喜、健人などは言葉を失い、硬直している。

「まぁ、大胆ねぇ♪」
「ママ……そういう問題なの?」

すっかりいつもの調子を取り戻したレミが、微笑ましそうにメイ達のやり取りを眺めていた。

「キスくらい、挨拶みたいなものよん」
「ふーん……じゃああたしも、和希にキスしてから行こうかな……」
「ね、姉さん!!」
「あはは、冗談よ、じょ~~だん♪」

一方で当のメイは、口元をコートの袖で念入りに拭いながら、業火のような視線でナラカを睨みつけている。

「帰ってきたら、二度とこんなマネが出来ない身体にしてやるからな……」
「ああ、待ってるよ。だから、必ず帰ってこい」

その眼差しに微塵も怯むことなく、ナラカは笑顔で答えた。
ふんっ! と鼻息荒く背を向けて、メイがステージに上がると……それぞれの家族との別れを越えた五人の少女が、再び公園の中央に集った。

「姉さんのせいで、ムダな時間喰っちゃったじゃないか」
「まぁまぁ……ナラカさんも、メイさんのことをとっても大事に思っているみたいだから……」
「あれキスしたかっただけだろ! どう考えても!!」

怒りが収まらない様子のメイを、祈里が懸命になだめる。

「こりゃ、帰ってきた後が大変そうね……。ラブ、メイのことよろしくね?」
「ええーっ……あたしがなんとかするのぉ!?」

美希の言葉に、ラブが思わず情けない声を上げる。
その様子を隣で見ていたせつなが、くすくすと笑い出した。

「ちょっと……せつなぁ~~!」
「ごめんなさい、でも、おかしくて」
「もぉ~~!!」

笑い続けるせつなに、頬を膨らませて抗議しながら……ラブもやがて、その笑顔につられて笑い出す。

「ラブちゃん、結局自分も笑ってる」

祈里も、そして五人を取り巻く家族、クローバータウンストリートの面々も……その輝きに照らし出されるように、次々と笑顔の光を灯していった。
冬の夜に浮かぶ、満天の星々のように。

「……まったく……呆れるくらい、素敵な町だよ」

その輪の最後に加わって……微笑と共に、メイはリンクロスを握り締めた。

「さぁ、行こうか。みんな」

頷く四人、見守る人々。


「「「「「チェインジプリキュア・ビートア―――――ップ!!」」」」」


夜空に向けて立ち上る、光の五柱。

「ピンクのハートは愛あるしるし! もぎたてフレッシュ、キュアピーチ!!」
「ブルーのハートは希望のしるし! つみたてフレッシュ、キュアベリー!!」
「イエローハートは祈りのしるし! とれたてフレッシュ、キュアパイン!!」
「真っ赤なハートは幸せのあかし! うれたてフレッシュ、キュアパッション!!」
「四つのハートは夜明けの光! 朝焼けフレッシュ、キュアブレイク!!」

瞬きのうちに現れたプリキュア。
……全ての世界の命運を背負った、四つ葉町の子供達。

「行け、メイ。お前の信じる道を」
「ラブ、世界を頼んだぞ」

ナラカと圭太郎の言葉に、

「……はい!」
「言われなくても、行くっての」

溢れた涙を、満面の笑顔で弾かせながら。
あるいは、ため息混じりの微笑で。
……ピーチとブレイクが答える。

「……アカルン!」

紅い閃光がステージを包み込むと、五人の少女は今一度、声を揃えた。


「「「「「いってきます」」」」」


空を駆け上がる流星。
人々は身を寄せ合い、その輝きを追って夜空を仰いだ。

「……本当に、会わなくてよかったのか?」

ナラカが呟いた問いかけに導かれるようにして、夜闇の中から姿を現した女性がいた。
すらりと伸びた、かなりの長身。メイに良く似ているが、さらに一回り近く背が高い。
黒髪を飾り気のないゴムでひと纏めにし、リムレスの分厚い眼鏡の奥には、猛禽を彷彿とさせる鋭い眼光が宿っている。
が、今はその輝きは、幾分鈍って見えた。

「今さら、母親面しても仕方ない。それに……あの子は、帰ってくるでしょ?」
「……ここに来るだけだって、大変だったろうに」

女性の服装は半袖に半ズボン、ポケットの沢山ついたカーキ色のジャケット。
その上から申し訳程度にコートを羽織ってはいるが、真冬の日本にはおよそ似つかわしくない格好である。
まるで、つい先程までジャングルの奥地にいた探険家といった風貌だ。
……いや、実際そうだったのだろう。
コートから覗く脚には幾つもの生傷が刻まれ、軍用品とおぼしきブーツには一面に泥がこびりついている。

「あの子の……メイの顔を見れば、私はどんなことをしてでも、止めずにはいられない。……知ってるでしょ、私の弱さ」
「そんなこと、娘の前で言うもんじゃない」

突き放すような口調で言いながら……しかし、そっと女性の傍らに寄り添うと、ナラカは空を見上げた。

「信じる道を、自分自身の足で歩くこと。その誇りと勇気を教えてくれたのは、あなただ」
「……ナラカ……」
「私達は、いつだってあなたの娘だ。私達の母親は、黒須ヨミ、あなただけだ」

暗闇の果てを見つめたまま紡ぐナラカの言葉に、ヨミもまた、祈るように天を仰いだ。
その瞳が映すレンズ越しの星空は、微かに滲んでいた。





<後半へ>





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ジャンル : アニメ・コミック

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Author:ヤネ
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