クロスオーバー! フレッシュプリキュア! クロス†オーバー 第23話(後半)

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フレッシュプリキュア! クロス†オーバー 第23話(後半)



一丸となって極彩色の超空間を飛ぶ、五つの流星。
キュアパッション=東せつなは、出発の直前に聞いた、クイーンの言葉を思い返していた。


『総統メビウスという者、単なる独裁者とは思えません。一片の欲望も快楽も無く、ただ目的のみを果たそうとする存在……。私の推測が正しければ、メビウスの正体は……』


(ラビリンスの国民が……私達が崇め、従ってきた総統。その正体を、今こそ、この目で確かめる)

決意を新たに、パッションは次元の地平を目指した。
やがて……五人の行く手に染みのような黒い点が現れたかと思うと、急速に面積を広げ始めた。

「出口?」
「……いえ、違うわ!」

ラビリンスへの進路を断つように、プリキュア達の目の前に現れたのは……この超空間にアクセスする、別のゲートだった。
そして、その内部に蠢く闇は――。

『ソレワターセェェエエ!!』

次元の裂け目から、赤い単眼を持った緑の怪物が次々と這い出してくる。

「ソレワターセ!?」

計10体のソレワターセを吐き出すと、ゲートは直ちに消滅した。

「すごい数……」
「まさか、この空間で襲ってくるなんて……!」
「まずいな。下手に軌道を外れれば、何処とも知れない次元の彼方へ飛ばされてしまうかもしれない」
「でも、このままだとあの中に突っ込んじゃうわ!」

雄叫びを上げながら迫り来る、ソレワターセの群れ。

「このまま、行こう」
「ピーチ!?」
「あたし達は、こんなところで立ち止まったり、引き返したりしちゃいけないんだ。……だって、みんなと約束したから」

正面に立ち塞がる敵達を――いや、その果てに待ち受ける世界を真っ直ぐに見据えたまま、ピーチは言った。

「そうね……ピーチの言うとおり」
「あたし達は、前に進まなきゃね」
「なら、行く手を遮る相手は――」
「真っ向から打ち崩す!」

四体のピックルンの力を借りて、キュアスティック、パッションハープがプリキュアの手に宿る。

「届け、愛のメロディ! キュアスティック、ピーチロッド!!」
「響け、希望のリズム! キュアスティック、ベリーソード!!」
「癒せ、祈りのハーモニー! キュアスティック、パインフルート!!」
「歌え、幸せのラプソディ! パッションハープ!!」

ブレイクが手を打ち鳴らし、破魔の力を招来するのと同時に……その音を合図にして、他の四人もそれぞれのエネルギーを武器へと集中させていく。

「吹き荒れよ、幸せの嵐!!」
「「「「悪いの悪いの飛んでいけ!!」」」」

ソレワターセの群れに向けて、ブレイクの掌で凝縮されたエネルギー球が放たれる。
その光を狙い撃つように、ピーチ達の携えた武器も一斉に輝きを解放した。


「プリキュア……デイブレイク・サンシャイイイイ―――――――ンッ!!!」
「「「「フレェェェェ―――――――――ッシュッ!!!!」」」」


キュアスティックとパッションハープの力が融合し、光球を巨大な五色の太陽へと変える。
群れの中心で炸裂した夜明けの閃光は、10体のソレワターセを四方八方、バラバラに弾き飛ばした。
目も眩む大爆発の只中を、五つの流星が一直線に突き抜けていく。
その進む先に、白い光の渦が現れた。

「見えたわ! あれがラビリンスに通じるゲートよ!」

出口を目指して加速する五人の背後から、ソレワターセ達が凄まじい勢いで追いすがる。
蔓のように伸びた腕が、最後尾を行くブレイクの足に絡みついた。
みるみるうちに速度を奪われ、先を進む四人との差が開いていく。

「ブレイク!」
「……そのまま進め!!」

反射的に引き返そうとした四人に向けて、ブレイクは叫んだ。

「大丈夫だ、すぐに追いつく」
「だけど!」
「私はみんなを信じている。……だから、みんなも私を信じてほしい」

ブレイクの表情は穏やかだった。
己に気負うわけでも、過信するわけでも無く。
自分と仲間の力量を測り切った上での判断。
本来の彼女らしい、冷静な選択だと……ピーチ達には、はっきりとそう確信できた。

「わかったよ。でも、絶対に……」
「ああ。ラビリンスで会おう」

ブレイクに背を向けると、四人は一気に渦の中へ飛び込んでいった。
その姿は光の彼方へ遠ざかり、やがてゲートと共に消滅した。

「さて……と」

手刀の一閃で絡みついた腕を断ち切ると、ブレイクは10体のソレワターセと真っ向から対峙した。

「私も、ぐずぐずしているつもりはない。……夜明けは、すぐそこまで来ているのでね」


***


「収穫の間に合ったソレワターセを全て投入しましたが、プリキュアは防衛網を突破……一人を除いて、ラビリンスに侵入しました」

管理国家ラビリンスの機能を集約したセンタータワー。居城とも呼べるその建物の最上部で、総統メビウスはクラインからの報告を受けていた。
本来、タワーがこの形態をとるのはインフィニティを手に入れた後、全てのパラレルワールドを管理する場合に限られる。
だが緊急を要する今は、プリキュアを迎え撃つための要塞として、その役割を果たそうとしていた。

「……サウラーとウエスターは」
「既に迎撃に向かっております」
「この国で、プリキュアに勝ち目はない。それでも消去に失敗するようなら……これが、最後の任務になる」

メビウスの言葉に、クラインは微塵の感情も無く、「はい」とだけ答えた。
――そして。


「今までとは、強さがぜんぜん違う……!?」

四対二、数で勝るプリキュアだったが、彼女達の攻撃はサウラーとウエスターに掠りもしなかった。

「……ブルン!」
「無駄だよ!」

スティックを使おうとした瞬間、サウラーが飛ばしたカードが、ベリーのリンクルンを弾き落とした。

「そんな!?」
「どうして……? まるで、わたし達の心を読んでいるみたい……」

困惑する四人の姿を見て、サウラーは愉快そうに笑った。

「フフッ……ほぼ正解だね」
「まさか!?」

何かに気付いたように、パッションは周囲の街並を見渡した。

「わかったわ……どうして私達の動きが読まれているか」
「えっ!?」
「ラビリンスには、国全体を隅々まで管理するための、無数のカメラシステムが設置されているわ」
「それじゃあ……」
「その通りさ」

プリキュアの一挙手、一投足を余さず監視する、機械の眼。

「君達の行動は逐一記録され、コンピューターによってリアルタイムに解析される。そして、今までの戦闘データを元に計算された行動予測が――」
「俺達の頭に直接届くというわけだ」

それらはまさに二人の目であり、脳であると言えた。
ラビリンスの人間は、まさに文字通り、この国の一部なのだ。

「何よそれ、ずっるーい!」
「今さら理解しても遅い。この国で、我々に戦いを挑むのがいかに愚かなことか」
「いいか、プリキュア。俺達にはもう後がない。メビウス様の前で、これ以上の失敗は許されない。……だから何があっても、ここでお前達を倒す!!」
「くっ!」

路面を蹴り、猛然と襲い来るサウラーとウエスターを、プリキュア達も二手に分かれて迎え撃った。
だが、彼女達の反撃は全て空を切り……カウンターに打ち込まれた拳と脚が、四人を弾き飛ばした。

「きゃあっ!」
「うあああっ!?」

プリキュア達の身体は、背後にそびえるビルに勢い良く叩きつけられた。
壁面に無数の亀裂が走り、道路に瓦礫が降り注ぐ。

「さて。まずは裏切り者から、始末させてもらうよ」
「そうは……いかないわ。私は、こんなところで倒れるわけにはいかない!」

瓦礫を跳ね除け、立ち上がったパッションに向けて、サウラーは余裕の笑みを浮かべたまま飛びかかった。

「喜ぶべきじゃないか。裏切り者である君が、祖国で最期を迎えられるのだからね!」


彼には既に、プリキュア達の次の動きが見えていた。
――ピーチとベリーはウエスターが抑えている。
動くのはパインだ。
パッションを庇うため、果敢に立ちはだかる彼女……その首元へ。

(己を犠牲にして仲間を庇う。君達が考えそうなことなど、我々にはお見通しだ)

一瞬後の未来に、彼女が移動してくる、その位置へ……サウラーは、抉るように手刀を滑らせた。

(これで、ひとり――)

プリキュア達の上げる悲鳴までもが、時間を飛び越えて一足先に聞こえてくるようだ。

(恐怖と絶望を……味わうがいい)


……だが。
次の瞬間、驚愕と戦慄に表情を歪めたのは、サウラーの方だった。

(――馬鹿な!?)

自分の目を疑うしかなかった。
“パイン”を庇った“パッション”の蹴撃が、手刀を易々と弾き返していた。
その威力、反射速度、どちらも予測を上回っていた。

(そんな――はずが)

猛然と直進してくるパインに向けて、サウラーは右脚を蹴り上げた。
パッションとの連携で、こちらに攻撃を仕掛けてくる。
そう“読んだ”からだ。
だが――。

(なぜだ!?)

続けざまに、予測は外れた。
パインはサウラーに目もくれず、そのまま彼の横を駆け抜けたのだ。
繰り出した脚は空を切り、サウラーの体勢を大きく崩した。
……その隙を逃すほど、プリキュアも甘くは無い。

(なぜ……だ……)

パッションが乱れ打った拳と脚が、全てサウラーの身体に吸い込まれた。
彼が誇る頭脳は空転するばかりで、その動きを一瞬たりとも捉えることはできなかった。

「サウラー!!?」

ウエスターの叫びが遠く聞こえる。
……一度でもイレギュラーが発生すれば、相手の行動パターンを最初から分析し直さなくてはならない。
仮に分析が間に合ったとしても、同じシステムを用いている以上、再び不測の事態が発生しないという保証はもう何処にも無い。
何を、信じていいのか、わからない。

「サウラー!? どうした……サウラ―――――ッ!!?」
「「ダブル・プリキュア・キ――――――ック!!」」

サウラーに気を取られ、システムとの連携を乱したウエスターに、すかさずピーチとベリーの合体攻撃が炸裂する。
もはや、形勢は完全に逆転していた。


(ラビリンスの、システムは……完璧、だったはずだ)


宙に放り出されたサウラーの瞳、監視システムの一角に、パインの姿が映った。
その光景を見て、彼は再び、目を見開くほどに驚愕した。

「馬鹿な……」

パインが大事そうに抱きかかえていたのは、ラビリンスの国民の一人だった。
桃色の髪の、幼い女の子。
頭上に降り注いだ瓦礫から、パインが彼女を守ったのだ。

「もう、大丈夫よ」

腕の中で震える少女に、パインは優しく微笑みかけ、

「痛いの痛いの、飛んでいけ」

頭を撫でながら、そう口ずさむと……ゆっくりと、少女を地面に下ろした。

「ケガはないみたいね」
「お姉ちゃん……は……?」
「わたし達はプリキュア。……ここは危ないから、早く逃げて」

少女は惚けたように、パインの顔をじっと見つめていたが……やがて。

「……ありが……とう」

ぽつりと言い残すと、道の向こうに去っていった。


「ラビリンスの国民を……助けるために……?」
「そうよ」

サウラーが漏らした言葉に、ベリーが答えた。

「あたし達は、ラビリンスを助けるために来たの……もちろん、あなた達のこともね」
「なんだと……」
「プリキュアが、俺達を助ける……?」


***


「サウラーとウエスターが、プリキュアの始末に失敗しました」

サウラーとウエスターの戦況は、クラインを通して総統メビウスに全て報告されていた。

「ならば、予定通りに。……初めから、こうするべきであったな」
「はい……直ちに、あれを発動させます」


地に伏したウエスターの傍らにしゃがみ、パッションは彼に語りかけた。

「メビウスによって管理されていない他の世界には、ラビリンスにはない幸せがたくさんある。あなたも、それは知ってるでしょ?」
「……確かに……あの世界には、うまい食べ物がたくさんあった。……だ、だが……」
「私は、それをあなた達と分け合いたいの。その幸せを、みんなで。……そうしたら、もっともっと幸せになれる。ピーチ達が、私に教えてくれたことよ」
「もっと……幸せに……」
「……かつてあなたは、私のことを仲間だと言ってくれた」

パッションが差し伸べた手を、ウエスターはじっと見つめた。

「イース……」
「今の私はもう、イースじゃない。……でも、今度はキュアパッションとして、私はあなたと友達になりたい」
「…………」

ウエスターの手が地を離れ、恐る恐る……ゆっくりと、その光に向かって伸びた。
……その時だった。


『バリア・フィールド展開』


「なに、あれ!?」
「あれは……!」

プリキュア達とサウラー、ウエスターのいる街並を、突如発生した赤いドーム状の壁がすっぽりと包み込んだ。
その表面は半透明でガラスのようにも見えるが、水面のように絶えず波打っている。

「次元障壁だと……今さらなぜこんなものを!?」
「どういうことなの、サウラー!?」

混乱する六人に追い討ちをかけるように、禍々しい色彩を纏った“渦”が、バリアの内側、彼女達の頭上に現れた。

「今度はなに!?」
「……デリートホール……」

そう呟いた後、自らの発した言葉に凍りつかされたように、サウラーは口を閉ざした。


***


超空間の波に揺られるブレイクを、10体のソレワターセが取り囲んだ。

(……普段の力が出ないのは、確かだ)

先程、ソレワターセの腕に捕まったのもそのためだ。
いつものブレイクなら、追いつかれることは無かった。たとえ捕まったとしても、瞬時に振りほどくことが出来たはずだ。
通常の力が発揮できない。
――だが、それでも。

(それでも、私なら勝てる)

『ソレワターセェェェェ!!』

ソレワターセの群れは、自在に伸縮するその手足でブレイクを絡め取ろうとした。
足場の無い超空間で、四方八方から迫る魔の手から逃れることは、一見不可能に思えた。
――が、ブレイクは小さなクローバーの魔方陣を己の足先に展開し、それを足場とすることで機動力を確保してみせた。

(戦況を見て指令を下す幹部がいない分、数に見合った戦闘能力があるわけではない。むしろ、統率の取れない集団であれば――)

跳躍した先に次々と新たな魔方陣を作り出し、三角跳びの要領で超空間を縦横に駆け、ブレイクはソレワターセ達を撹乱した。
闇雲にその動きを追った無数の手足は、あっという間に絡み、もつれ合い、塊のような結び目を幾つも作ってしまった。
ブレイクを捕えるはずが、逆に自分達の身動きを完全に封じる格好となっていた。

「同士討ちを誘うのも、たやすい」

腕を組み、暗黒物質の流れに身を任せながら、ブレイクは呟いた。

『ソレ……ワターセェェェ……!』
「アカルンリンク!」

ブレイクの声に応じて、リンクロスが輝きを放った。
紅い光線はソレワターセの群れをすり抜けて、背後の空間に歪みを作りだした。

「……やはり、お前達が守る場所にゲートがあったか」

団子のように固まったソレワターセに向かって魔方陣を蹴ると、ブレイクは右の掌にエネルギーを集中した。

「この一撃で、私の道を拓く」


プラズマ掌打。
ブレイクが叩きつけた光撃はソレワターセの群れをバラバラに吹き飛ばし、そのまま彼らの背後にあるゲートを“破壊”した。

「今回も少々、荒っぽいやり方だったかな」

次元に大穴を穿って、ブレイクはラビリンスへと突入した。
後に続くソレワターセ達が市街地に落下するのを避けるため、ブレイクは空中に作り出した足場を駆け、その一体一体を拳と脚で、街の外まで弾き飛ばした。

「ここが、ラビリンス……」

魔方陣を翼のように広げ、ゆっくりと降下するブレイクの目に、異様なものが映った。
赤い、ドームのような……半透明の壁。

「あれは……?」

リンクロスからドームに向かって伸びる紅い光は、アカルンの力を持つものが、その内側にいることを示していた。

「まさか!」
「……その、まさかです」

ビルの谷間に舞い降りたブレイクの眼前に、空間転移を用いて現れた影があった。
細い顔に釣り上がった目を光らせる、神経質そうな男だった。

「お前は……」
「我が名はクライン。ラビリンス総統、メビウス様が忠実なるしもべ」


『L3地区にて、デリートシステム作動中。物資の移送には、ルートCを使用せよ』

淡々と国民への命令を告げる声が、灰色の街並に響く。
桃色の髪の少女が見上げた先……ビルの壁面に備え付けられた大型スクリーンに、プリキュア達の姿が映し出されていた。

「プリ……キュア……」

先程、自分を救ってくれた存在が、荒れ狂う“渦”に呑み込まれようとしている。
……その光景が、少女の胸に宿っていた、“何か”を刺激した。

「プリキュア……プリキュア……!」

そう呟きながら、彼女は指定されたルートを逆方向に……L3地区に向かって引き返した。
走る少女を見て、すれ違うラビリンスの国民達が、次々と振り返った。


「プリキュア……?」
「あの女の子達が、そうなのか……」
「命令よりも大事なものが、あそこにあるのか……?」


ある者は足を止めてモニターを見つめ、またある者は少女の後を追って、L3地区を目指した。


***


密閉されたバリア・フィールドの内部。
赤い稲妻を吐き出しながら、“渦”は凄まじい勢いで周囲の大気を吸い込み始めていた。

「バカな、あれをこんなところで!? おい、どうなっている、クライン!!?」

ウエスターの叫びに応じて、バリアの内側に男の声が鳴り響いた。

『プリキュアを倒すためです。多少の損害は致し方ありません』
「いいから今すぐバリアを解除しろ! 第一このままでは、俺達まで――」

激昂するウエスターに対し、クラインは冷然と答えた。

『多少の損害は、無視せよと。メビウス様のご命令です』
「……メ、メビウス様が……!?」
「……嘘だ……」

愕然とするウエスターの隣で、サウラーは力無く地面にへたり込んだ。

「パッション、デリートホールって何!? あれに呑み込まれたら、どうなるの!?」
「デリートホール……本来、廃棄物の処理に使われるシステム。物質の情報を“消去”し、虚空に分解……“なかったこと”にしてしまう」
「……!!」

“渦”の中心を見つめたまま、冷や汗を浮かべるパッションの表情が、その恐ろしさを物語っていた。

「パッション、アカルンを呼んで! 今すぐここから逃げなきゃ!」
「……駄目よ」
「え……!?」
「あれはただのバリアじゃない。次元撹乱物質を張り巡らしているのよ。この中では空間転移は使えない……当然、内外から破壊することも不可能……この区画が全てデリートされるまで、障壁は消えない」
「そんな!!」

建物や道路が次々と吸い上げられ、“渦”に呑まれては分解、消滅していく。
このままでは、障壁の内側に閉じ込められた六人も、いずれ――。


「残るプリキュアは、あなただけです」

ピーチ達のもとへ向かおうとするブレイクの前に、クラインが立ちはだかっていた。

「……そこをどいてもらおうか」

その顔を正面から睨みつけ、ブレイクは呟いた。
彼女の言霊には、ナケワメーケを消滅させるほどの力がある。
だが、クラインはその場を一歩も動かず、表情すら変えずに佇んでいた。

(ラビリンスの幹部……やはり、こいつも只者ではないのか)

「間もなく、あの区画はデリートされます。塵のひとつも残りません」
「目的のために、自分の国の……街を犠牲にするというのか?」
「この国の全ては、メビウス様のために存在しています。街も、人も。その目的のために消費されるのは、当然のことです」

握り締めたブレイクの拳が、ギリギリと音を立てた。

「そうして人の自由を、幸福を奪い続けてきたのか」
「幸福? ラビリンスに生まれた者として、その役割を果たすこと。それ以上の幸福はありません」

そう語るクラインの声が、姿が、次第に変容を始めていた。
あまりに異様な光景に、さしものブレイクも表情を強張らせた。

『あなた達のすがる幸福など、まやかしに過ぎません』

声はスロー再生をかけるように野太くなり、小柄だった身体が膨れ上がるようにその面積を増すと、大きく隆起した筋肉が衣服を引き裂いた。
最も異常なのは皮膚の変化だった。
表面が光沢のあるエメラルドに変色し、鱗のように硬質化していく。
上下の顎がワニのように巨大化し、後頭部からは巨大な角が二本、天を突くように伸びた。

「お前は……お前は」

その姿、そしてその全身から放たれる邪悪な気は、ブレイクの記憶から“ある存在”を呼び起こした。

「竜魔人……」

古代トワイライトを襲撃した魔人、ルベウス。
見た目に多少の差異はあれど、クラインが纏う闘気は、“ドラゴン”の力そのものだった。

(ラビリンスがダークルンの力を手に入れたのか? いや、そんなはずは……なら、何故?)

『ウオオオオオオオオ――――――ッ!!』

ブレイクの困惑をよそに、変貌を遂げたクラインは巨大な口を開いて咆哮した。
その頭部に人間の面影は微塵も残っておらず、赤い両目が敵の姿だけを映し出している。

『完全なる管理が生み出す力が、どれほど素晴らしいものか……思い知らせてあげますよ』

巨体のバランスを支えるためであろう、長い尾を別の生き物のようにうねらせると、クラインの姿が掻き消えた。
そして……次の瞬間には、吹き飛ばされたブレイクの身体が、ビルの壁面をぶち抜いていた。

「が……は」

ブレイクが、こみ上げた苦悶を吐き出すより早く。
さらなる一撃が彼女の胴に打ち込まれた。
目にも止まらぬ拳。
……いや、ブレイクの目ははっきりとそれを捉えていた。

(身体が……重い)

だが、動けなかった。
その軌道を避けようとした足も、直撃を受け止めようとした腕も、彼女の思うように反応出来なくなっていた。

『オオオオオオ――――――ッ!!』

雄叫びを上げたクラインは倒壊するビルの内部を突き抜け、なおもブレイクに襲いかかった。
吹き飛ぶ彼女に追いつき、その脚を掴んで地面に叩きつける。

『……ウオオオオオオオッ!!』

クレーターの中心からブレイクを引き抜き、そのまま反対側へ叩きつける。
身動きすら取れなくなったブレイクを再び掴み上げ、往復させるように叩きつける。
叩きつける、叩きつける……。

『耐久力も反応速度も、過去のデータを下回っている。そんな状態で、私に勝てるはずがありません』

ピクリとも動かなくなったブレイクを、クラインはゴミでも捨てるかのように放り投げた。


「見て、あそこ!」

バリアに包まれたL3地区。
パインが指差した先、崩れかかった建物の陰に、大勢の人々が集まっていた。
“渦”の猛威に晒され、その表情は恐怖と絶望に彩られている。

「逃げ遅れた人達がいたんだわ!」
「ウエスター、サウラー……あなた達は、あの人達を守って!」
「イース!?」
「どうするつもりだ……!?」
「決まってるでしょ!」
「あのバリアに、穴を開ける!」

ピーチを中心に、四人のプリキュアが手を重ねる。


「「「「クローバーボックスよ、今ここに!!」」」」


各々のリンクルンから放たれた四色の光が、四人の中心で一体となる。
その輝きの中から現れたのは、純白のオルゴール……クローバーボックスである。

「そ、そんなところに隠していたのか……だがお前達、それでどうするつもりだ?」
「どうするもこうするもないでしょ。あたし達の全ての力を、バリアにぶつけるだけよ!」
「無駄だよ……あれを壊すことだけは、絶対にできない」
「ううん、できるよ」

俯き、抜け殻のようになったサウラーの呟きに、ピーチは力強く答えた。

「みんなで力を合わせれば、どんな壁も乗り越えられる」

ピーチの言葉に、他の三人も強く頷いた。

「「「キュアスティック!!」」」
「パッションハープ!!」

プリキュア達の絆に呼応し、クローバーボックスはその力を増幅する。
オルゴールの旋律に援護を受けて、四人は持てる力の全てを解き放った。


「「「「プリキュア・クアドラプル・フレ―――――――――ッシュッ!!!」」」」


愛、希望、祈り、そして幸せ――融け合い、一体となった四つの光が、バリアに炸裂した。


「サウラー、お前も手伝え!」

舞い降る建物や道路の破片を投げ飛ばし、あるいは拳で砕き、ウエスターは逃げ遅れた人々を必死に守っていた。

「もうやめるんだ、ウエスター。無意味だよ。……僕達はメビウス様に捨てられた……デリートを免れたとしても、もう生きていく道はないんだ」
「それは違うぞ!!」
「……!」

ウエスターの叫びが、周囲の空気を、サウラーの心を震わせた。

「確かに俺達は、メビウス様に見捨てられた。……だが、俺達には仲間がいるじゃないか。手を差し伸べてくれるプリキュアが、共にラビリンスを生きる人達がいるじゃないか。俺達はもう操り人形じゃない。自分の意志で、仲間を守るために生きるんだ……!」
「ウエスター……」
「生きていく道とやらも、きっと見つかる! いや、それは俺達が、自分自身で作っていくものなんだ!!」

デリートホールが発する稲妻が、高層ビルを打ち崩した。
人々の真上から、ウエスターでも受け止めきれないほどの、巨大な瓦礫が迫って来ていた。

「くそ……っ!」

ウエスターが諦めかけた時、風を切って飛来したカードが、瓦礫を粉々に散らした。

「……サウラー……!」

彼が視線を走らせた先には、己の脚で大地を踏みしめ、再び立ち上がったサウラーの姿があった。

「僕も、もう少しだけあがいてみるとしよう。……仲間というやつを、信じてね」

傷だらけの姿で、サウラーとウエスターは笑顔を交わした。
その瞳には、プリキュア達と同じ、強い輝きが宿っていた。


「私達、助かるの……?」
「プリキュアを……」
「共に生きる仲間を、自分の意志を信じる……」

そしてその光は、同じように絶望に支配されていた人々をも、仄かに照らし出そうとしていた。
プリキュアがもたらした、小さな笑顔の輪。
絆によって育まれたそれは、少しずつ、この迷宮に広がり始めていた。


***


「まだ……だ……」

背後から微かに聞こえる声に、クラインは大儀そうに振り返った。

『生きていましたか』
「……まだ、勝負はついていない」
『立ち上がっても、無駄ですよ』

一瞬で距離を詰めると、クラインはその拳をブレイクに向けて振り下ろした。
だが、その攻撃は彼女の身体をすり抜け、大地に突き刺さった。

『む?』

クラインの左右から、さらに二人のブレイクが迫っていた。
ミドルンが投影する虚像を利用した、幻影殺法……ブロウクン・スペクトラ。

『無駄とわかりませんか!』

両腕を水平に振り回し、クラインは左右のブレイクを同時に薙ぎ払った。
……その攻撃もまた、空気を裂くのみに終わった。

「ここだっ!」
『!』

頭上に目をやったクラインの首筋に、矢のような蹴りが叩き込まれた。
しかし、その巨体は微塵も揺るぐことなく、逆にブレイクの脚を激痛が襲った。

「竜鱗鎧……!」
『小細工は通用しませんよ』
「――ならば!」

宙返りを打ったブレイクの髪飾りが、頭を離れて乱れ舞った。
四枚、四色のハートが空中で瞬時に巨大化し、緩やかに反り返ってレンズの形をとると、ブレイクとクラインを結ぶ一直線上に縦列した。

「プリキュア――」

超硬度の鎧を突破するには、一点に威力を集中するより方法は無い。


「デイブレイク……サンシャインッ!!」


プリキュア・デイブレイクサンシャイン・AA(アポロンアロー)。
ブレイクが投擲した光球は四層のレンズによって増幅、集束され、桁外れのエネルギー密度と貫通力を引っ提げて、クラインに突き刺さった。

『残り少ないエネルギーを効率良く利用した、巧いやり方です。称賛に値しますよ。……しかし』

竜人が纏う鱗の鎧は、それを真正面から受け止め、粉々に弾き返した。

『結果は無駄です』

ブレイクの身体が、ふらふらと揺れた。
どうにか踏みとどまったものの、彼女には歩く力すら残っていなかった。
クラインの言う通り、この一撃に全ての力を賭けたからだ。

『そろそろ、楽にしてあげますよ』

瞬きほどの間にブレイクに肉薄し、その胸からリンクロスを毟り取ると、クラインは指の先で砕き潰した。
サラサラと、砂のような破片が舞い散った。
変身が解け、意識を失ったメイが、地面に倒れこんだ。
その懐から黄金に輝く腕輪が飛び出すと、灰色の路面をどこまでも転がっていった。


「……このまま……じゃ……!」

デリートホールはさらに勢いを増し、プリキュア達を呑み込もうとしていた。
その一方で、バリアが破れる気配は一向に無い。
武器を握り締め、なおも攻撃を続ける四人だったが……クローバーボックスの力を加えても、もはや彼女達は限界に達しようとしていた。

「もう、どうしようもないの……?」
「わたし達、なにも守れないの?」
「……ここで、終わりなの……?」

抗い切れない絶望の闇。
プリキュア達の心から、光が消えかけた時だった。


「諦めるな!!」


バリアに閉じ込められた、ラビリンスの国民達。
その中の誰かが声を上げた。

「負けるな!」
「頑張れ!」
「頑張れ、プリキュア!!」

続けてひとり、ふたりと――。
つい先程までは、目の前の脅威に怯え、震えるだけだった人々が。
その瞳に光を宿し、自分達を守るために命を懸けている仲間へ、一心に声援を送っていた。

「ラビリンスの人達が、わたし達を……」
「応援して、くれてる……!」
「……あたし達、こんなところで負けてられない!」
「みんなの想いに、応えなきゃ!!」

ほどけかけていた四人の絆が、戦う意志が。
彼らの声によって、より強く結び直されていく。


『愚かな者達よ。プリキュアと共にデリートして、正解でしたね』

バリアの内部に目をやり、不快そうに呟くと……横たわったメイの頭上に、クラインはその拳を構えた。

『消去』

次の瞬間、視界に溢れた緑色の輝きが、彼の目をくらませた。

『キュイ!!』
『……邪魔です!』

メイを守ろうとしたミドルンを、クラインの指が彼方まで弾き飛ばした。

『揃いも揃って諦めが悪い。この完全に管理された世界に、あなた達のような者は存在してはならないのです』

クラインが、再び拳を振り上げた時。
その背後から、響く声があった。


「負けるな、プリキュア!!」


――バリアの外にも、プリキュアに声援を送る者がいたのか――。
苛立ちながら振り向いたクラインは、飛び込んできた光景に、己の目を疑った。


「頑張れプリキュア!」
「負けないで!」
「俺達がついてるぞ!!」


道路を埋め尽くすほど多くの国民が、プリキュアを応援するために集まっていた。
障壁の向こうで必死に戦う仲間達へ、人々はありったけの声と言葉を送った。
彼らの目には、みな同じ……いや、それぞれの輝きが宿っていた。

『馬鹿な……なぜ、これほど多くの国民がプリキュアに味方している。なぜ命令を無視し、持ち場を離れている』

民衆の先頭に立っていた桃色の髪の少女が、倒れたメイに駆け寄った。

「あな……たは……」

意識を取り戻したメイの目に、覗き込む少女の顔が映った。
古代トワイライトで出会った、あの少女――リラの姿が一瞬、彼女に重なって見えた。

「いたいのいたいの、とんでいけ」

笑顔でそう唱えながら、少女は小さな手でメイの頭を撫でた。

「さっきね、プリキュアが、あたしを助けてくれたの」

大きな瞳を、星のように輝かせながら。
少女はメイに語りかけた。

「プリキュアはすごく優しくて、あったかかった。だからあたしも、だれかを助けてみようって、そう思ったの」

不思議と、全身を襲う痛みが和らいでいた。
――いや、痛みを越える温かい何かが、その掌から全身に伝わってきた気がした。

「……ありが……とう」
「はい、これ。お姉ちゃんが、落としたものだよ」

ゆっくりと身を起こしたメイに……少女が手渡したのは、黄金色に光る腕輪だった。


『命令を聞きなさい! 今すぐ指定された持ち場に戻るのです!』

魔物のようなクラインの姿にも臆することなく、その声を掻き消すほどの勢いで、国民達は叫び続けた。
そうしている間にも次々と、街並から溢れるほどの人々が集まってくる。
遠く離れた場所からも……今やモニターを通じて、国中の人間がプリキュアを応援していた。

『なぜだ……なにが起こっているのだ!?』
「……ハートさ」

少女を庇うように、メイは殆ど動かない両脚を踏ん張り、立ち上がった。
引き裂かれた黒いコートを、振り払うように脱ぎ捨てる。

「私達はみんな、自分のハートを持っている。自分の歩く道を、掴み取る幸せを、自分の意志で決める心を持っている」

プリキュアの纏う色、奏でる声、言葉。
どれもが、ラビリンスには存在しない輝きを持っていた。
灰色に塗り潰された人々の胸に、それらは鮮やかに染み込んでいった。

「封じられていた本当のハート。……管理された世界の奥底に、ずっと眠り続けていた光が、一斉に目を覚ましたんだ」

怒りに身を震わせながら、クラインは吼えた。

『くだらぬことを!! デリートホール、全開!!』

その言葉を受けて、“渦”が数倍の大きさに口を開いた。

『見るがいい! プリキュアの、管理に背く者達の最期を!!』
「まずい……プリキュア!」
「離れろ!!」

身を挺して稲妻から人々を守る、サウラーとウエスターの眼前で――。
赤いブラックホールが、ピーチ達を呑み込んだ。


「プリキュア―――――――――――っ!!!」


その時――。
少女の叫びと共に、人々の胸に灯ったハートが、巨大な光の奔流となってバリアをすり抜けた。
プリキュアの姿を追うように、その輝きは赤い大渦の中へ、真っ直ぐに飛び込んでいった。


***


そこは、光無き暗黒の世界だった。
だが、プリキュアを守るように、彼女達の周囲だけが眩い光に包まれていた。
優しく、暖かな輝きの中で、四人は無数の声を……ハートの言葉を聞いた。


<プリキュアは、私達を助けようとしてくれた>
<命令よりもずっと大切なことを、教えてくれた>
<今度は、俺達がプリキュアを助けてみせる>


「想いが……伝わってくる」
「力が、湧いてくる……」

プリキュア達の傍らに、四色のピックルンが寄り添っていた。
アカルン、ブルン、キルン、そしてピルン。
それぞれが四人の声を借りて、彼女達に語りかけた。

『ラビリンスの人達の、ハートのおかげだキィ』
『みんなの強い想いが、奇跡を起こしたキィ』
『……さぁ、今度はプリキュアが奇跡を起こすキィ!』
『もう一度、ハートを一つにするキィ!』


「そうだよ……あたし達だけじゃない」
「「「「みんなのハートを一つに!」」」」


無数のハートの力が四体のピックルンに流れ込み、その姿を白く変えた。
そしてさらに、その想いを受け継ぐように――。
愛の鍵、希望の鍵、祈りの鍵、幸せの鍵。
未来を切り拓く鍵の妖精達は、それぞれ四人の戦士と一つになった。


「「「「チェインジ・プリキュア!! ビート・ア――――――ップ!!!」」」」


見守る人々の目の前で、デリートホールの内部から光が溢れた。
赤黒い渦や稲妻は消え失せ、街を囲んでいた障壁までもが、その輝きに晒されて消滅していった。
信じ難い光景を目の当たりにし、クラインは叫ばずにはいられなかった。

『なんだ……あれは!!?』

光の中から現れた四人のプリキュアは、新たな姿へと変身していた。
傷付き汚れた装衣は鮮やかに生まれ変わり、その背には白銀の翼が大きく広がっている。
胸のクローバーは、新たにもう一つの葉……白いハートを加えた、五色の力を宿していた。
彼女達が放つ光は、サウラー、ウエスター、ラビリンスの人々の身体を覆っていた黒い装衣を、美しい純白に染め上げた。


「「「「ホワイトハートはみんなの心。はばたけフレッシュ、キュアエンジェル!!!!」」」」


――プリキュアレジェンド・オーバー。
それは、かつてのプリキュアが到達しえなかった存在。
スウィーツ王国の祠で眠り続けていた四体のピックルンは、しかし、その刻をいたずらに過ごしていたのではなかった。
古に予言された、邪悪との決戦に向けて……。悠久の時間をかけて、その身とそこに宿るプリキュアの力を、さらに強固なものへと錬成していたのだ。
ラビリンスの人々が灯した無数の光を、四体のピックルンは見事に纏め、四つの聖衣を織り上げた。
そして若き四人のプリキュアもまた、託された想いの全てを、その身で受け止めてみせた。
今ここに、伝説を超えた、奇跡のプリキュアが誕生したのである。

「プリキュアの、新しい姿……」
「美しい……」

あまりの神々しさに、サウラーとウエスターは思わず、その心を奪われていた。
戦士と呼ぶにはあまりにも優美、乙女と呼ぶにはあまりにも超然。
文字通りの天使、いや女神の姿がそこにあった。


『おのれ……プリキュアも、貴様らも、まとめて消去だ!!』

歓喜の声を上げる民衆へ向けて、クラインは雄叫びを上げた。
赤く裂けた口から噴き出した炎が、猛然と人々に襲いかかった。
……しかし。

『なんだと!?』

民衆を背にしたメイが、その炎を食い止めていた。
彼女が手にした、黄金色の腕輪。
その輪の中心へと、クラインが吐いた炎が吸い込まれていた。

『それは……一体何だ!?』

街並を覆うほどの炎を、一瞬で吸収し尽くすと……ぽっかりと開いた輪の向こうに、メイの顔が見えた。

「知らないのか?」

得意の不敵な笑みを浮かべて、彼女は言った。

「天使が落とした、幸福のリングさ」

クラインの瞳が、さらなる怒りに赤く燃えた。

『ウオオオオオオ―――――――――ッ!!』

その叫びに引き寄せられるように、ビルを飛び越えて、四方からソレワターセの群れが集まってきた。
先程、ブレイクが戦った10体。
クラインを取り囲むと、その身体に絡みつくように、溶け込むように、次々と融合していく。

「合体した……?」

メイ達の目の前に、ビル群よりも遥かに巨大な、緑色の竜が姿を現した。

『グオオオオオオオ―――――――――ンッ!!!』

周囲の建物を大きく震わせるほどの咆哮に、人々は耳を抑えて身を伏せた。
だが、メイは一歩も退くことなく、リングルンを左腕にはめて叫んだ。


「チェインジ・プリキュア! クロス・オーバー!!」


クイーンがそれを“切り札”、即ち最終手段としたのには理由がある。
鉱石回路を使った調律によってリングルンは大幅に強化され、変身回数の制限もクリアされたが……王家に受け継がれてきたクイーンの強大な魔力に、トワイライトの人間ですらないメイが耐えられるかどうか、それは未知数だった。
――リングルンを装着し、変身コードを叫んだ瞬間。
メイの意識は奈落に突き落とされ、底から噴き上げる炎に焼かれた。
凄まじい衝撃と、痛みが襲った。
……だが、それだけだった。

「このくらいで、地獄を見せたつもりかい?」

蒼い業火に巻かれながら、メイはにこりと笑った。

「こちとら、直にあの世を見てきてるんだよ」

次元の棺を打ち破って、冥府の闇から一人の戦士が転生を果たした。
白と紫の聖衣(クロス)を纏い、背に燃えるのは蒼い炎のミラージュ・マフラー。


「眩く吼える白き闇! キュアグレイブ・プルート!!」


それは冥女王の力を加え、さらなる進化を遂げた、キュアグレイブの新たな姿。
今、生まれ変わった五人のプリキュアが、太陽のようにラビリンスを、人々の歩む道を、その光で照らし出そうとしていた。


「みんなの想い!」
「みんなのハート!」
「確かに受け取ったわ!」
「プリキュアは負けない。……みんなの力で、必ず勝つ!」
「私達が歩く道を、明日を、この手で切り拓いてみせる!!」



***


四つ葉町、黒須家――。

「みんな、大丈夫やろか……」

銀色の月を見上げながら、タルトは呟いた。

「にしても……今日はよう寝るなぁ、シフォン」

五人を見送った時と同じく、シフォンはベッドの上で静かに寝息を立てていた。

「私の力ですよ」
「はぇっ? クイーンはんの?」

ベッドの隣に立ち、シフォンの寝顔を見下ろしながら、クイーンは言った。

「私は夜の女王。生けるものを眠りに誘(いざな)うのも、クイーンとしての魔力です」
「はぁ~、そんなことまでできるんでっか……」

感心しながら、タルトも大きく口を開いて欠伸した。

「ふぁあ~~、なんや、わいまで眠くなってきてもうたわ……」
「今は、眠りに落ちていた方が幸せでしょう」
「まぁ、シフォンはクイーンはん……いや、ダークルンの力を怖がっとるさかいな」
「ふふ……そうでは、ありませんよ」

そう言ってクイーンが浮かべた笑みは、どこか歪なものに見えた。
月光が作り出す彼女の影が、部屋いっぱいに広がった。


「クイーンはん……?」
「間もなく、ラビリンスとの戦いは終わります」

タルトの足元に伸びた影に、水面のような細波が広がっている。

「そう……全て、終わる」

波紋の中心から、真紅の大鎌が立ち上がった。

「そして、始まる。私の新しい明日が、やっと来る――」

大鎌を携えたクイーンの姿は、漆黒の装衣を纏った死神へと変わっていた。

「“サーペンタイン”を、廻す時が――」
「……シフォン!!」

血のように紅い瞳が見つめる先――眠るシフォンを庇って、タルトは反射的に身を躍らせた。


「キュア・キュア・プリプー……リリプー・キュアリア……」


歌うように口ずさみながら、タナトスは死の刃を閃かせた。
その切っ先が、行く手を遮る小さな影を、一瞬に切り裂いた。





つづく




******


次回のフレッシュプリキュア! クロス†オーバーは、
第24話『復活! 闇の王国トワイライト!!』をお送りします。
お楽しみに!




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No title

ラブさんとくっつけて勝ち誇るメイさんがこうもうざくなるとはwwまあこれはこれでウザ可愛くていいんだけどww・・・・・そしてこのおかげである意味確信が持てた。ナラカさんのこと難やかんや言ってるけど十分姉妹だこの二人、とww絶対ベクトルがラブさんに向いてるかメイさんに向いてるかだけだ差はww
姉に怒るメイさんですが帰ってからラブさんがキスの一つでもすりゃ納まるでしょ、とも思ったりw・・・・・勝ち誇るメイさんを見てると逆転負けして崩れ落ちる姿も見たくなるwwくそっ、これも泣き顔だってきっと可愛いメイさんがイカンのだ!!(`・ω・´)
メイさん可愛いよメイさん(`・ω・´)
状況の差か両親へのカミングアウトは本来と形を変えてますがミユキさんがいい仕事している。そう、彼女はこういう立花のおやっさん的ポジションであるはず!保護者の皆さんはあゆみさん筆頭にみんな大きいから何も語ることがないなあwわざわざ日本に急ぎ駆けつけたであろうヨミさんは帰ってきたらメイさんに顔見せるべき、とだけw

おお、カメラで行動解析とは機械文明らしい手段を!けど機械で測りきれないのが”生き物”、ましてプリキュアには一秒前のデータなど無意味ですね。・・・・・西さんに限ってはあんたが一番データ解析とは無縁だろ、とも思いますけどww
ブレイクは思った以上に弱体化が激しいな・・・・・けどグレイブ復活!しかも漂白されてる!!そしてエンジェル誕生!!何も問題はない。何気に西さん達も漂白されたしw

問題は四つ葉町で暴走してるっぽいクイーンかあ・・・・・・クラインに感じた疑問と言い最初からクイーンはラビリンスと噛んでたりするんだろうか……
気になる引きで終わった23話。次回も楽しみです!

コメントありがとうございます

>空魔神さん

メイも大輔に感謝してはいるんですよ、一応w
でも、ラブさんもいる時にそういう態度を取らせると、微妙な空気になっちゃうので…それにしてもウザく書き過ぎたかなとは思いますがw

メイとナラカは完全に似た者姉妹ですね。メイはそれに気付いていませんw
ヨミさんが消化不良な感じなのは、次回以降に持ち越しということで。

ただ殴り合うのもアレなので、西南戦はちょっと工夫したつもりです。機械文明の脅威と脆さが描ければと…ベタですけどw
漂白は…するタイミングが無かったので、エンジェルの不思議パワーで片付けちゃいましたね。

クイーンとラビリンスの関係は、最終回に向けて重要になってきます。24話も気長にお待ちくださいw

No title

更新お疲れさまっす!今回も大ボリュームでとても楽しめました!最初から最後まで盛り上がりっぱなしで語りたい部分は山ほどあるけどなにより最後のクイーンが!?まさか!!!!!!まさかの!大どんでん返し!一体!どうなってしまうのかぁっー!!!!!!!! あ あとダークルン4姉妹残り三人も描けしだいアップしときますんでよかったら自由に使ってくださるとありがたいです!というか僕が描いたクロス†オーバー関連の絵は全部自由にしてもらってOKですので。

No title

今回も楽しませていただきました!!

リングルンが再び使える・・・!?・・・もしかして・・・もしかして・・・キ(ry!かとも思いましたが、それはおあずけ?になるのでしょうかw
新たにパワーアップしたグレイブという、燃える展開でしたねぇ・・・もともと強かったグレイブが、どれほどの力を秘めているのか!?エンジェルとグレイブの神々しい姿が目に浮かぶような描写に、思わずうっとりでした☆☆

そしてそして、なんとクイーン様が!?・・・なるほど、なるほど・・・感じていた違和感はコレでしたか・・・! ということは、トワが(ry!

ともあれ、次回も楽しみにしております♪

僕も頑張ってスクハイ書きたいと思います!

コメントありがとうございます

>ももたまちゃんさん

どんでん返しが、ちゃんと機能していれば幸いですw
あまりバレバレでも仕方ないし、かといって唐突過ぎてもダメですよね、こういうのは…
基本的には完全な協力者として描きながら、細かい部分でクイーンの危険さを出していたつもりなのですが、どうでしょう。

ダークルン四姉妹のイラスト、めちゃめちゃ嬉しいです!!
ヤネの元デザインが描きにくかったりするかもしれませんが、残るメンバーも楽しみにしてます!
とりあえず、以前に描いていただいたイラストから、ブログでも紹介させていただこうかと思います。

コメントありがとうございます

>我さん

楽しんでいただけて何よりです!

キのつくあの子のことは、まだ何とも言えませんが…フレクロのクライマックスとくればやはり、無視するわけにはいかないでしょう…!!
とだけw

あと3話残ってるわけですが、グレイブもピーチ達も大幅パワーアップして、力のインフレでちょっと頭が痛いですねw
どう描写したらいいのやら…

クイーンに微妙な違和感を感じていただけてたなら、非常に嬉しいです。
けっこう気を遣った部分なので。
タナトスのデザインだけ見ると、そもそも悪役にしか見えないんですけどねw

次回もお楽しみに!
お互い頑張りましょう!!

No title

描かせていただいたクロスオーバーの絵についてなんですが・・・・・PIXIV以外にPIXAにも置いてもいいでしょうか?

>空魔神さん

それはどうぞご自由に!
うちの絵もぼちぼちPIXAに上げてこうかなーと……
プロフィール

ヤネ

Author:ヤネ
フレクロF、今度はイニシャルWW編です。

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