クロスオーバー! フレッシュプリキュア! クロス†オーバー 第24話(前半)
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フレッシュプリキュア! クロス†オーバー 第24話(前半)




一面の焼け野原に、小さな小さな、ひとつの十字架が立っていた。
拾い上げた白い指が、煤で汚れた。


「……姉さま」

青白い月光に照らされ、冷たく輝く十字架を見つめながら……クイーン・トワイライト13世は、独り呟いた。

「私が守るべき、宵の王国――」

昨日までは、笑顔と希望が溢れていた都。
そこは今や、動くものひとつ無い、死と沈黙の廃墟群に変わり果てていた。

「いえ、その名ではもう、呼べませんね」

魔人達の総攻撃とマザーストーン破壊の衝撃は、トワイライトの地軸を完全に捻じ曲げてしまった。宵の王国は、今や一片の光も無い、永遠の夜に覆い尽くされていた。


(女王の名を持ちながら、私は国を守る力を、何ひとつ持っていなかった)


双子の姉は、最後の最後まで、命を賭して戦ったというのに。
授かったばかりの王の位は、自分から愛する姉を遠ざけ、むざむざ死地に送らせる役割しか果たさなかった。

(女王として守り通せたのは、己の命だけだった)

王国の中枢である首都を破壊し尽くされたのみならず、心臓とも言える夜鉱石と、最強の盾であったキュアグレープをいちどきに喪い、トワイライトはもはや再起不能の状況に見えた。
――だが、クイーンの心は沈むことなく、むしろ奮い立った。
掌の小さな十字架……リンクロスに刻まれた、グレープの最後の願いを受け取ったからだ。


<トワイライトを、頼みます>


キュアグレープ、クイーンの実の姉、キサナが遺した願い。

「姉さま。……私は、戦います。今度こそ、あなたと一緒に」

クイーンは、一滴の涙も流さなかった。……いや、流せなかった。
それを許せば、雫と共に、託された願いまでが零れ落ちてしまいそうだった。
握り締めた小さな十字架は、恐ろしく重かった。
少しでも自分の弱さに耳を貸せば、とても背負いきれないほどに。


「いつか必ず、この地に、光を取り戻す」


その日から、彼女の果てしない、孤独に満ちた戦いが始まった。


――そして。


千年の時が、すぎた。



フレッシュプリキュア! クロス†オーバー
第24話『復活! 闇の王国トワイライト!!』



管理国家ラビリンス。
昼も夜も、過去も未来も、幸福も自由も無く。
灰色の呪縛に塗り込められ、支配されていたこの国に。
今やその空に、大地に、新たな明日を照らす五つの太陽が、燦然と光輝いていた。
――フレッシュプリキュア!


「みんなの想い!」
「みんなのハート!」
「確かに受け取ったわ!」
「プリキュアは負けない。……みんなの力で、必ず勝つ!」
「私達が歩く道を、明日を、この手で切り拓いてみせる!!」


そして、彼女達と相対する存在。
整然と並ぶ、無機質なビル群の真ん中に、明らかに異質なモノがそびえていた。


『グゥゥオオオオオ―――――――――ンッ!!』



深緑色の、山のような巨体を震わせて、巨竜は咆哮した。
プリキュアに向けて開いたその巨大な口から、火の山から溢れるマグマの如き、赤黒く燃える炎の塊を吐き落とした。

「「「「はっ!」」」」

四人のキュアエンジェルが息を揃え、その片手をかざすと……眩い光を伴って、巨大な四つのハートが天に花開いた。
強固なバリアが巨竜の攻撃を正面から押しとどめ、無効化する。
同時に、地上のキュアグレイブが叫んだ。

「マニューバーI!」

頭上に掲げたその左掌から、蒼く燃える業火が放たれる。
エンジェル達が受け止めた火球を、蒼い炎が瞬く間に包み込むと……冥女王の力をもって、これを取り込んだ。
“イド”の錬成術。
舞を踊るような動きで、ビルの背丈ほどの長さもある“炎の大槍”を錬り上げると、グレイブはその尾部を蹴り込み、巨竜目がけて突き返した。
全長100メートルを悠に超える、竜の姿へと変化したクライン。その全身を覆う竜鱗鎧は、ソレワターセとの融合によって生体エネルギーを強化し、さらに数倍の……桁違いの硬度を手に入れていた。
――だが。

『ソレワタァァアセェェェエエエエ!!?』

蒼い炎の槍に肩口を貫かれ、融合していたソレワターセの一体が、断末魔を残して消し飛んだ。
……違うのは、力の桁ではない。
次元が違うのだ。


「みんな、行くよ!!」

四人の天使が一斉に翼を翻すと、動作を鈍らせた巨竜の全身へと突撃した。
光を纏った彼女らの拳と脚は、各部に融合したソレワターセ四体を、一撃で消滅せしめた。

『グゥ……ウオオ……オオオオオ―――――――――ンッ!!』

苦しみ、周囲のビルを突き崩して暴れ回るクラインを、蒼い無数のエネルギー帯が拘束する。

「マニューバー……K」

“クラーケン”の力。
――生まれ変わったリングルンは、トワイライトのグレイブタワーと常にリンクしている。
鉱石回路の補助を受けられるだけでなく、封印されたダークルンの力のみをタワーから転送することで、マニューバー使用時のエネルギー効率、安定性が飛躍的に向上しているのだ。
もがく巨竜の全身から無数の鱗が剥離し、大地に突き刺さった。

『ナゼ……ダ……』

咆哮に混じって、クラインの思念の、その断片がプリキュア達のもとへ流れてくる。

『オマエタチノ……ソノチカラハ、ナンダ……? 神カ……悪魔カ……?』
「ぜんぜん違うよ」

巨大な顔に正面から向かい合って、キュアエンジェル・ピーチは言った。

「これは、ハートの力。誰もが持っている、どんなものより強くて優しい力だよ」
『……ハートノ、チカラ……ダト……ゥウ、ウオオオオオ――――――――――ッ!!!』

持てる力を振り絞り、クラインは絶叫した。
街ひとつを覆うほどの巨大な翼を開き、グレイブのエネルギー帯を引き千切った。


『プリキュアァァァアアアアアア――――――――――――ッ!!!』


その羽ばたきで竜巻を起こし、行く手を遮るビル群を薙ぎ倒しながら……クラインは、五人のプリキュアを目がけて猛突した。

「みんな!」

ピーチの合図で、キュアエンジェル達が再び手をかざす。
四枚のハートが一つに重なり、空中に巨大な幸福のクローバーを形作った。
溢れ出る輝きが、瞬く間にクラインの視界を奪い去る。

「「「「――想いよ届け!」」」」

今やラビリンスの全土を照らし出そうとする、その光は――それは、この世界に生きてきた人々の想いであった。
自由を、それぞれの幸福を掴み取ろうとする、命の輝き。管理という名の呪縛のもとで、眠り続けていた本当の想い。
……本当のハートを、プリキュア達がこの世界にもたらした、“愛”が呼び覚ましたのだ。


「「「「プリキュア・ラビング・トゥルーハート!!!!」」」」


『シュワァア……シュワァア……』

合体したソレワターセ達と共に、クラインの巨体は光に融け、浄化消滅していった。

「総統メビウス様に……栄光あれ……」


やがて光が消えると、天から落ちてきた小さな生き物を、グレイブの掌が受け止めた。
紫のグローブに包まれて、一匹のトカゲが静かに息をしていた。

「これが、クラインの“素体”……?」

グレイブが片膝をつき、小さな身体を地面に下ろしてやると、トカゲはするりと建物の隙間へ入り込んでいった。
去り際に一瞬だけ振り返り、グレイブの方を見上げたが……メビウスの忠実なしもべとしての意志は、もはや感じられなかった。
やがて周囲に四人のキュアエンジェルが舞い降りると、ラビリンスの国民達は一斉にプリキュアに駆け寄り、喝采を送った。

(あれは紛れもなく、魔人の力だった。――“キイマジン”。おそらくは、ノーザも。しかし、リングルンをもってしても、ダークルンの反応は捉えられなかった)

「……やつらの、正体は……」
「全ての答えは、あそこにあるわ」

グレイブが漏らした呟きに、パッションはメビウスの城を見上げながら答えた。

「私達は、メビウスのもとへ行きます」

ラビリンスの人々の方を振り向くと、ピーチは言った。

「彼の野望を止めるために」
「……真実を、確かめるために」

ベリーとパインも、彼女の言葉に続けた。

「ならば俺達も行こう!」

群衆を掻き分け、サウラーとウエスターが姿を見せた。
だが、パッションは二人に向けて、ゆっくりと首を横に振った。

「二人はここに残って」
「なぜだ? 戦力は多い方が――」
「手、出して」

サウラーの言葉を遮り、グレイブが言った。

「……キュアグレイブ?」
「ほら、早く。二人とも」

催促され、半信半疑で差し出されたサウラーとウエスターの手を、グレイブはそっと握った。

「あたたかい……」
「身体に残っていた痛みが、消えてゆく……?」
「マニューバーU、“ユニコーン”の力で治癒を施した。……けど、魔人の力は、他者を癒すには向いていない。これは応急処置みたいなものだよ。あなた達はさっき、デリートホールから人々を守るために、相当なダメージを負っているはず」
「それに、追い詰められたメビウスがどんな手段に出るかわからないわ。……だから、二人はここにいて。そして何かあったら、みんなのことをお願い」

グレイブとパッションの言葉を受けて、サウラーとウエスターは静かに頷いた。

「……わかった。総統メビウスのことは君達に任せよう」
「だが絶対に帰ってこいよ。そして、一緒にドーナツを腹いっぱい食べよう!」
「ええ……私も、とっても楽しみだわ」

サウラーとウエスター、二人と笑顔を交わすと、パッション達は一斉にその翼を広げた。

「……マニューバーR!」

グレイブの声に応え、何処からとも無く、バイクの排気音に似た唸りが街並に轟いた。

「マシンクロスオーバー!」

次の瞬間、次元の壁をガラスのように打ち破って、黒い二輪兵器が現れた。
群衆の頭上を軽々と飛び越え、グレイブのもとへ一直線に走り込んでくる。
……乗り手はいない。リングルンによって、主の意思に従うよう遠隔操縦されているのだ。
その名は<マシンクロスオーバー>。
漆黒の車体の顔にあたる鋭角的なフロントカウルには、白い十字架が大きく刻まれ、その両脇では紫のライトが睨みを効かせている。後部に取り付けられた六本のエネルギーマフラーが燃え盛り、赤い流星のように尾を引いた。
ジャンプの一閃でそのシートに飛び乗ると、一切スピードを緩めず、グレイブはメビウスの城に向けて直進した。

「――いけっ!」

リングルンを通じて意識をリンクすることで、マシンはグレイブと完全に一体化する。
一陣の炎の風となったグレイブは、門に続く橋をひと飛びで越え、城壁に車輪を這わせると、同時にアクセルを全開にした。
ボディに埋め込まれた次元流エンジンが、猛獣のように吼えた。マフラーがさらに激しく燃え上がり、余剰エネルギーを噴き上げる。
急加速したマシンは壁面を垂直に駆け上り、一瞬で地上の人々の目から消え去った。


「おまたせ!」

壁に沿って上昇するキュアエンジェル達の後方から、マシンを駆るグレイブが追いつくと、五人は並んで城の頂点を目指した。
――フレッシュプリキュアと管理国家ラビリンスとの、長い戦いが、いよいよ本当の終局を迎えつつあった。


***


「来るか……」


広大な部屋の中空に浮かんだ、超大型の次元球。その内部には、ラビリンス全体を管理する、一台のスーパーコンピューターが収められている。
球体の真下に築かれた玉座に、彼はひとり腰掛けていた。
クラインからの報告が途絶えた後も、彼には下界で起きている事象が、全て、余す所無く把握できていた。
何故ならこの国自体が、彼の目であり、耳であり、身体そのものでもあるからだ。
……彼女達が間も無くここへやってくることも、彼にはわかりきっていた。
彼の中に入り込んできた、忌まわしい異物。伝説の名を持った戦士達。


「プリキュア……ついに、ここまで」

呟きながら玉座を半回転させると、背後に立っていた五人の姿が彼を迎えた。
通常なら侵入者に反応し、自律的に作動するはずの防衛システムは、沈黙を保っている。
彼がそうさせた……無意味だと、わかっていたからだ。


「我が名はメビウス。管理国家ラビリンスの統治者なり」


五人のプリキュアに向かって、彼はそう名乗った。

「あれが……」
「総統メビウス……!」

ラビリンスの中枢に辿り着いたプリキュア達を待っていたのは、白い法衣を纏った、ひとりの壮年の男だった。
禿頭に生気の感じられない白い顔が、人の姿をしながら機械そのもののような無機質さを感じさせる。
しばし五人の姿を見つめた後、彼はゆっくりと玉座から立ち上がった。

「お前達のために、私の計画は大きく狂わされた。だが、私自らの手でお前達を始末すれば、修正はいくらでも利く」
「……メビウス様」

身構える四人を制すと、パッションはメビウスの前に歩み出た。
かつて従い、崇めていた存在と正面から向かい合って、彼女は語りかけた。

「私は、ラビリンスを出て学びました。さまざまな人々が手を取り合い、支え合って、共に生きるということ。笑顔の輪、命の環。そこから生まれる、幸せという感情。……それは、このラビリンスにはなかったもの。人が生きていくために、本当に大切なものです」

パッションが懸命に紡ぐ言葉に、メビウスはただ静かに耳を傾けているようだった。

「私は、ラブ達とわかり合えました。だから、メビウス様も……」

差し伸べられた手を、彼はじっと見つめていた。
僅かな沈黙の後、メビウスの手が、パッションに向けてゆっくりと伸びた。

「メビウス様……!」

その掌に、激しい閃光が宿った。

「パッション!!」


メビウスが放った光線は、パッションの頬を掠め、背後の壁を粉砕した。
危険を察知してピーチが叫んだのとほぼ同時に、メビウスの側面の城壁を突き破って、黒いマシンが彼に躍りかかったのだ。
――マシンクロスオーバー。
グレイブの意思によって遠隔操作された無人のマシンは、メビウスの脇腹にフロントカウルをぶち当てると、そのまま反対側の壁面に突っ込んだ。


「メビウス様!!」

パッションが悲鳴に似た声を上げたが、グレイブはマシンの勢いを微塵も緩めなかった。

「グレイブ、やめて!」
「パッション……見な」

壁と車輪に挟まれ、メビウスの身体は無残に四散した。
しかし、それらは一滴の血も流すことなく、鉛色の部品と鈍い金属音のみを撒き散らして、床面に転がった。

「え……!?」

グレイブ以外の四人のプリキュアが、それぞれ驚愕の表情を浮かべた。
パッションの足元に落ちた物体。それは、先程まで総統メビウスの頭部だったもの。
捲れ上がった表皮の下に、冷たい金属の光沢が覗き……埋め込まれた赤い眼は、レンズのようにひび割れていた。

<ワガナハ……メビウス……ワガナハ……>

壊れたカセットテープのような音声が、その口から流れて続けている。


「ロボッ……ト……!?」
「やっぱり、クイーンの推測は正しかったようだ」
「そんな……そんなことが」

愕然とするパッションの頭上から、プリキュア達へ向けて、メビウスの笑い声が降り注いだ。

『人形遊びは気に入らなかったか、プリキュア』
「メビウス、どこにいるの!?」

天を仰いだピーチの叫びに、再び嘲るような声が答えた。

『私は、逃げも隠れもしない。お前達の、目の前にいる』

その声は、五人のプリキュアの頭上……巨大な次元球の内部から響いていた。

「そんな、まさか!?」
「じゃあ、メビウスの正体って……」
「ラビリンスを管理する巨大コンピューター……それが、メビウスの本当の姿……」
『そうだ』

人間そっくりの合成音声が、プリキュア達の言葉に応じた。

「人が造ったものが、人を支配していたというの……?」

動揺するパッションの目の前で、球体の表面に、巨大な裂け目が生じた。
こことは別の、特殊空間に直結するゲートだ。
それは、人々を嘲笑う口に見えた。


『来るがいい。真実を知り、この国をお前達の手に取り戻したいと思うならばな』


メビウスの言葉が終わると、五人のプリキュアは互いの顔を見合わせ、頷き合った。

「行こう……これがあたし達の、フレッシュプリキュアの、最後の戦いだよ」

ピーチを先頭に、プリキュア達はメビウスとの決戦の舞台へと、果敢に飛び込んでいった。


***


五人を待ち受けていたのは、濃い霧のようなものに包まれた空間だった。


「真っ白……」
「まるで、霧の迷宮だわ」

視界を遮られ、どれだけの広さがあるのかもわからない。

「みんな、注意して!」

五人はひとまず地上に降り立ち、周囲の様子を伺った。
……やがて、霧の中から滲み出すように、彼女達の前方に五つの影が現れた。
その姿を目の当たりにして、プリキュア達はまたも驚愕した。


「イース……!?」
「それだけじゃないわよ……あれ……あたしじゃない!」
「わたしもいる……」

イースに並んで歩いてきたのは、桃園ラブ、蒼乃美希、山吹祈里、そして黒須メイの四人だった。
彼女らも先頭のイースと瓜二つの、黒い装衣を纏っている。

「これも、メビウスが造ったロボットなのか……?」

イースの口を借りて、メビウスの声が響いた。

『人形でも、幻でもない。これが答えだ』
「なに……?」
『管理を願ったのは、お前達。私を造り出した、お前達自身だ。私は、その役割を果たしているに過ぎない』
「どういうこと!?」

イースが発した言葉を引き継ぐように、黒衣のラブ達も順々に口を開いた。

『かつて、この国の人間達は統治者を求めていた』
『度重なる戦火に疲弊し切った民衆を導き、国を再興するための、完全なる統治を』
『だから、私が生まれたのだ』
『国家管理用のメインコンピューター、メビウスがな』
「……違う!」

堪えきれなくなったようにピーチが叫んだ。

「確かに、あなたを生み出したのは人間の意志だったのかもしれない。でも、人々から幸せを奪うことなんて、誰も望んでなかったはずだよ。あなたのやり方は、絶対に間違ってる!」
『何を言っている。私が築き上げたラビリンスは着実に成長し、幾つもの世界を支配下に置くほどに勢力を拡大した。国家として、これ以上に幸福なことはあるまい』
「なんですって!?」
『人間達にしてもそうだ。私の完璧な命令に従ってさえいれば、誰も苦しまず、迷わず、損をすることもない。お前たちが求めた、幸福な世界ではないか』
「違う。本当の幸せとは、人々が自分の意志で、自分自身の歩く道を決められる世界のことだ。お前の作る世界に不幸はないかもしれないが、同時に幸福も存在しえない」

グレイブに続けてベリーが、さらにパイン、パッション、そしてピーチが。
それぞれが自分の影と対峙し、言った。

「たとえ、完璧になれなくても……自分の幸せは、自分自身で見つけてこそ意味があるのよ」
「そのためには苦しんだり、迷ったりすることも必要なの!」
「失敗したって、何度でもやり直せばいい」
「そして最後には、本当の幸せをゲットしてみせる!!」
『……やはり、対話など時間の無駄であったな』

イース達は一斉に大地を蹴り、プリキュアに襲いかかった。

『プリキュア、ここで朽ち果てるがいい!』
「――そうは、いかない!」


ピーチと黒ラブ、二つの拳が正面からぶつかり合い、火花を散らした。
後方に弾かれ、体勢を崩した黒ラブの胸に、すかさずピーチの肘が打ち込まれる。

『むぅ!』
「はああっ!」

地面すれすれに飛翔し、大きく吹き飛ばされた黒ラブに追いつくと、ピーチはその肩口に手刀を振り下ろした。

「ふぅああああああっ!!」

二連の追撃を喰らった影は大地に叩きつけられ、爆煙を上げた。


『――ちょこまかと!』

黒美希が次々と投げるカードを、ベリーは流麗な身のこなしでかわし、舞うような蹴撃で打ち返した。
頬を掠めたカードに黒美希が怯んだ瞬間、ベリーは一気に距離を詰めた。

「やあっ!」
『ぐおおっ!!』

すれ違いざま、刃のように硬化した白銀の翼が、敵の胴を一文字に切り裂いた。


「きゃああああっ!?」

パインの腕を掴んだ黒祈里が、彼女の体をハンマー投げのように振り回した。
翼を広げて体勢を立て直し、地面に足を着けると、パインは逆に相手の体を持ち上げ、勢い良く投げ飛ばした。

『おお!?』
「はっ!!」

広げた翼から発せられた黄色い衝撃波が、頭上の影を薙ぎ払った。


「お望みなら本物の強さ、お見せしましょうか?」
『ほざけ!』

拳を構えた黒メイの目の前で、正面から迫る白い姿が三つに分裂した。

『何!?』

マニューバーZ、“ゾディアック”の力を用いた質量分身。
右から、左から、頭上から、三人のグレイブの拳が同時に黒メイの体を捉えた。


『おのれ、プリキュアどもめ!』

イースが打ち込んだ拳を、パッションは両掌を広げ、正面から受け止めた。
振り下ろした右脚で相手の首を挟み込むと、さらに掴んだ腕を捻り上げた。

「メビウス様!」

イースを地面に組み伏せながら、パッションは叫んだ。

「たとえ機械でも、あなたには意志がある。だから、きっとわかり合えます。私は、あなたを倒したくない!」
『思い上がるな!』

パッションの拘束を振りほどき、イース=メビウスは拳を繰り出した。

『それぞれ世界の命が身勝手に生きることを許せば、そこには必ず争いが起こる。真の平和と幸福をもたらすには、全ての世界を管理するしかないのだ。そして私こそが、それを成すことが出来る、唯一絶対の存在なのだ!』

黒い弾丸のような突きを紙一重でかわすと、パッションはリンクルンを構え、アカルンを喚んだ。

「私はラブや美希、ブッキー、メイ、そしてたくさんの人達に教えられた。……たとえ平和や幸福が遠く儚くても、いくつもの苦しみや悲しみを経験しても、手を取り合って、精一杯生きていくこと。それが人間の本当の強さ、素晴らしさだということを」

その瞳に、決意の色が燃えた。
同時に、携えたハープに、真紅の光が灯る。

「歌え、幸せのラプソディ。……パッションハープ!」

正面のイース、そして本物に敗れた黒ラブ達を射程に捉えて、パッションはハープを天に掲げた。


「吹き荒れよ、幸せの嵐! プリキュア・ハピネス・ハリケ―――――――ン!!」


渦巻くエネルギーが周囲の空間を捻り寄せ、瞬時に浄化する。

「はああああああああっ!!」
『うおおおおおおおおっ!?』

五つの黒い影を巻き込み、消滅させると、渦は収束していった。
後には無数の白い羽根だけが、雪のように舞い散っていた。


「メビウス様……」
「パッション……」

俯き、地面に降り積もった羽根を見つめるパッションに、ピーチ達が駆け寄ろうとした……その時。

『フハハハハハハハ……それで勝ったつもりか? 愚か者どもめ!』
「メビウス!?」

天の一角から、再びメビウスの声が木霊した。
ハピネスハリケーンによって晴らされた霧の向こうに、無数の数値情報が滝のように宙を流れる、黒い空間が広がっていた。
そしてその中に、緑がかった巨大な男の顔が浮かび上がった。

『プリキュア! いよいよお前達の最期の時だ!』

それは、可視化されたメビウスのプログラムの本体だった。

「ついに本当の姿を見せたわね!」
「最期を迎えるのはお前の方だ。今こそ、全ての決着をつける!」

頭上に現れたメビウスの顔に向かって、五人のプリキュアは一斉に飛びかかった。
だが次の瞬間、メビウスの眼が赤く光ると、プリキュア達は真っ逆様に地面へと叩きつけられた。

「これは……!?」
「体が重くて、動けない……!」
「私達の体にかかる重力を……管理、しているのか……!?」
『フフフ……それだけと思うか?』

身動きを封じられた五人の全身に、地面から伸びた無数のケーブルが絡みついていく。
同時に、浮遊するメビウスの周囲に、ラブ達の顔を映した五つのウィンドウが開いた。


<桃園ラブ、14歳。血液型、AB型。身長、159センチメートル、……>
<黒須メイ、14歳。血液型、B型。身長、168センチメートル、……>


それぞれのウィンドウをスクロールする膨大なデータを、電子音声が淡々と読み上げていく。

「わたし達を……管理するつもりなの……!?」

大地に磔にされたプリキュア達を見下ろしながら、メビウスは勝ち誇ったように笑みを浮かべた。

『お前達が私の誘いに乗ってこの空間に入ってきた時、全ては決着していた。……先程の戦いの間に、お前達の存在は数値化が完了している』
「なん……ですって!?」
『私が支配するこの電脳空間で、管理できないものは無い。後は記憶と人格を消去すれば、お前達は私の支配下に置かれるのだ』
「そんなこと……!」
『もはや抵抗は不可能だ。お前達プリキュアは、私の新たなる忠実なしもべとして、ラビリンスのために働いてもらう!』

プリキュア達は力を振り絞り、懸命に立ち上がろうとした。
だが、その体の殆どは既に管理され、思うように動かなかった。


(消去される……? 記憶と、人格を……? 思い出と、想いを……?)

“自分”の消滅を意識した時、グレイブの、メイの目は自然のうちに、彼女を求めていた。

「ピー……チ……」
「グレイブ……」

ピーチがグレイブを見つめるのと、それはほぼ同時だった。
二人の視線は、示し合わせることなく交わっていた。
まだ自由に動く左手を、グレイブは愛する人に向けて、必死に伸ばした。
ピーチもまた、その想いに応えるように、自由になる右手を懸命に動かした。
霞みゆく視界の中で、指と指が互いを求め、触れ合おうとした。

「メイ……!」
「……ラブ……!」


『終わりだ』


体内に入り込んだ管理システムのメスによって、プリキュア達の記憶と人格は、粉々に切り刻まれた。
五人の心は、ゴミのように、瞬く間に消去されていった。


***


<データ管理、100パーセント完了>


五つのウィンドウの全てに、同じ表示が映し出された。
それを見て、メビウスは満足そうな笑みを浮かべた。

『立て。我が忠実なるしもべ、プリキュアよ』

メビウスの言葉に従うように、五人のプリキュアはゆっくりと身体を起こし、立ち上がった。
――だが。

『……何!?』

スーパーコンピューター・メビウスの内に、受け入れ難い事実が、データが、流れ込んできた。
五人のプリキュアは、互いの手と手を、しっかりと握り締めていた。
彼女達の瞳には、先程までと全く変わらない、強い心の光が宿っていた。


「お前の負けだ、メビウス」

グレイブの左手は、ピーチの右手に。

「あたし達の心は、こんなことで消されたりしない」

ピーチの左手は、ベリーの右手に。

「こうして互いの手を取り合い、助け合える限り」

ベリーの左手は、パインの右手に。

「わたし達は絶対に、挫けない!」

パインの左手は、パッションの右手に。

「これが……これこそが、人間の力。命を持って生きる意味よ!!」

そしてパッションの左手は、グレイブの右手に。
――互いを繋ぎ、絆の円環を作り出していた。


『何故だ!!』


メビウスは叫んだ。
彼の頭脳をもってしても、計算できない結末。奇跡としか言い様の無い結果を、次々と導き出すプリキュア達に向けて……苛立ちと、畏れとがない交ぜになった“感情”を、彼はぶつけた。

「ああ、もうひとつだけ教えといてあげるよ。……これが、勝利の鍵さ」

グレイブの左腕に嵌められたリングルンが発光し、小さな緑色の妖精が姿を現した。
記憶を司る、“絆の緑の鍵”。
――ミドルン。

「リングルンに宿ったこの子の力が、あたし達のデータを、あなたの管理から守ってくれたのよ」

そう言ったピーチの手を、強く握り締めながら……グレイブは彼女と見つめ合い、頷き合った。

「互いの手を取り、輪を作ることで、五人全員にミドルンの力を繋げたのさ」
『おのれ……おのれ……プリキュアァァアアアアアアアッ!!!』

電脳空間を揺るがす叫びと共に、無数のウィンドウが宙に開いた。
その中から数十、数百に及ぶ、メビウスの姿を象ったエネルギー体が飛び出し、プリキュア達へ向けて殺到した。

『消え去れぇぇえええええええええええっ!!!』

管理に要するエネルギーとシステムを全てデリートに転用した、メビウス最後の攻撃。

「みんな!」

ピーチの声に合わせ、五人のプリキュアはグレイブを中心にして散開した。


「「「「はああああっ!!」」」」


四人のキュアエンジェルが白銀の翼を広げ、かざした掌の先にクローバーの魔方陣を形作る。
その中心で、グレイブは手にしたトンファーを振りかぶった。


「プリキュア・クライング・ダークネス!!」


闇を宿した漆黒の鉄棍に、蒼いエネルギーマフラーが龍のように巻きついていく。
螺旋を描き、燃え盛る、冥府の業火。


「「「「「……フレ―――――――――――ッシュッ!!!」」」」」


トンファーが魔方陣の中央を貫くと、穿たれた穴から白い凶光が氾濫し、周囲の空間全てに破壊の咆哮を轟かせた。

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!?』

プリキュアの放つ光と、冥女王の司る闇と。果てしない量の相反するエネルギーを、一点でぶつけ合い、爆発させる。
それは、恐るべき破壊力を持った奥義だった。
五人の攻撃は、メビウスが放ったエネルギー体のみならず、彼が管理する電脳空間のデータを、完膚無きまでに打ち壊した。


『消える……消去されていく……この私が……』

プログラムの殆どを失い、メビウス自身の存在ももはや、風前の灯だった。

「総統メビウス。お前の考えていたこと、全てが間違っていたとは思わない。……でも」
「私は、私達はあなたを乗り越えて、明日に進みます。……生きているから」

グレイブと、彼女に続けてパッションが言った。
宙に浮かんだメビウスの顔が、ノイズの混じった映像のように乱れ、歪んだ。

『私は消える。……だが、独りではない』
「!?」

プリキュア達を取り巻く周囲の空間に亀裂が走り、砕けるように消滅し始めた。

『私の支配するこの空間と共に、お前達も消えるのだ!!』
「メビウス様……!」

虚無に侵食されていく世界。離れ小島のように残された空間に、プリキュア達は身を寄せ合うしかなかった。

『さらばだ、プリキュア!!』

その本体を闇に喰われながら、メビウスは歓喜の声を上げた。


『……残念ですが、そうはいきません』


次の瞬間、メビウスともプリキュアとも違う、第三者の声が電脳空間に木霊した。
それは、プリキュア達にとっては聞き覚えのある響きだった。

「この声って……」
『まさか……お前は……お前が……!』

全天を覆うスクリーンに、巨大なクインシィタナトスの姿が映し出された。

『余は冥府の女王、クイーン・トワイライト13世。……総統メビウス。女王の名において、あなたを裁きます』

タナトスがその指を打ち鳴らすと、電脳空間を包む次元球が水風船のように割れ、プリキュア達を通常空間へと復帰させた。

「もとの空間に……戻った!?」
『馬鹿な……何故、こんなことができる!?』

ラビリンスの中枢、その広大な空間に、ぽつんと浮かんだ小さなウィンドウ。
その枠の内側に閉じ込められたメビウスに、天を覆い尽くしたタナトスが語りかける。

『あなたがプリキュアと戦っている間に、ラビリンスのシステムは完全に掌握しました。リングルンと直結した、グレイブタワーの鉱石回路の働きによって』
『おの……れ……クイ……ン……』
『私達の、勝利です』


小さな囲いの中で、メビウスは最期の言葉を叫んでいたが……その声はもはや、プリキュア達の所まで届くことは無かった。
タナトスはその光景を、凍れる月のような眼差しで見下ろしていた。


<冥府に、沈む……。世界の……全てが>


ウィンドウが閉じると共に、メビウスの存在はラビリンスから、永遠に消え去った。





<後半へ>




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