クロスオーバー! フレッシュプリキュア! クロス†オーバー 最終話(その1)
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フレッシュプリキュア! クロス†オーバー 最終話(その1)




ほんのりと茜色を帯びた景色が、目の前を足早に通り過ぎていく。
乗客もまばらな車内に、窓を通して差し込む陽光が、色濃い陰影を作り出す。
あたたかな初春の午後。
しかし、見つめる者の心情を映し出すかのように、彼女にはその光が幾分寂しく、冷たいものに感じられていた。
――頼りない背丈に不釣合いな、大きなキャリーケースとパンパンに膨らんだリュックサック。
頭を覆う白くて大きな帽子が、その幼さ、体格の小ささをさらに引き立てている。
その左肩には、クマかパンダかと思しき、ピンク色のぬいぐるみがちょこんと乗っていた。
規則正しく刻まれる、車輪が枕木を噛む音。その残響に溶け入りそうな、かすかな小さなつぶやきを、彼女は漏らした。

「わたし、ひとりでやっていけるのかなあ……」

駆け抜けた震動が、左肩に鎮座する、物言わぬ相棒の頭を揺らす。

「……ご、ごめん! そうだよね、あなたも一緒だったよね!」

急に声のボリュームが上がったことで、同じ車両にいた数名の乗客が、彼女に目を向ける。
しかし、視線を集めている当人は、それにはまったく気づいていない様子だ。

「大葉ゆう、13歳! まだまだヒップは青いですが、あなたとふたりで輝きますよ~~~~っ!!」

右手の拳を天に突き上げ、ひとり、高らかに宣誓する少女。
いつしか乗客たちの視線は、彼女だけを避けるように、四方へ散開していた。
そんなことは露とも知らず――ポケットから取り出した白い手紙を、ゆうは確かめるように大きく広げた。
そこには短い手書きの文章に添えて、ある町の名前と地図がプリントされていた。
一枚の紙の上から下まで、隅々に目を走らせながら。今度は心の中で、あらためて彼女は誓いを立てた。


(お母さま……わたしはやってみます。お母さまに恥じない、わたしとして……!)


彼女の向かう場所。
四つ葉町、クローバータウンストリート。
――しあわせが見つかる町。




フレッシュプリキュア! クロス†オーバー
グランドフィナーレ『明日へのクロスオーバー!!!』




亡びの大地にそびえる黒十字。
その頂点に君臨するのは、今や全ての世界を統べる女王。
冥府が生んだ最強、最悪のプリキュア――キュアグレイブ。


「本気で私に反逆するというのですか? イニシャルX」
「今の私は超新星。……その輝きは暗黒の宇宙を越えて、未来を照らすためのもの」


グレイブタワーの最上階、処刑台に囚われた四人のフレッシュプリキュア。
彼女らの眼前で、女王と対峙するひとりの少女。
願いの超新星――キサナドゥ。


「キサナ、どうして……!?」
「みなさんのピンチを助けるのに、理由がいりますか?」
「いや、そーじゃなくてっ!」

一瞬だけ悪戯っぽい笑みを浮かべたあと、キサナは再びその表情を引き締めて、背中越しにラブの質問に答えた。

「単純なことですよ。プログラムの一部となってダークルンを管理する……その必要が、なくなったからです」
「なくなった、って……?」
「いま、全てのダークルンはクイーンが直に管理しています。メビウスのプログラムを利用することによって」

キサナの言葉に、キュアグレイブ・インフィニティ……クイーン・トワイライト13世は、憎しみと哀れみのない混ぜになったような、歪な笑みを浮かべた。

「しかし、思ってもみませんでしたよ。千年の眠りの間に、道具が主に反意を抱くなどとは」
「キサナは道具なんかじゃないわ!」
「わたしたちの、大切な友達!」
「かけがえのない仲間よ!」

美希達の叫びを一笑に伏して、クイーンは携えた大鎌を、天高く振り上げた。

「仲間、ですか。なら――同じ運命を、享受なさい」

大鎌が巻き起こす、風の凶刃。

「させません!」

キサナが両手をかざすと、彼女の周囲をドーム状の光壁が取り囲み、襲い来る衝撃波を散らした。
光の中に黒い鍵、ダークルンの幻体が浮かぶ。
イニシャルQと、Xを除いた24本。互いにエネルギーの命脈を張り巡らせたそれらは、虚空にトワイライトの秘法、生命樹の幻像を描き出している。

「腐り果てても管理プログラム。ダークルンの力を束ね、操ることも造作ではない。……ですが」

弾き返されたエネルギーの余波を受け、クイーンが左右に従えた処刑用の砲門――ブレイクバズーカに酷似した等身大の黒い十字架――が、次々に塵芥へと還っていく。
だが、中心の彼女は眉一つ動かさなかった。

「所詮あなたは獅子身中の蟲。……女王に刃を向ける愚かさを今一度、思い知りなさい」

女王の息吹が審判の鎌を通して、死と制裁のメロディを奏でる。

「先程あなた自身が言ったように、もはやダークルンの管理にあなたの力は必要ありません。不要となった道具の行く末は――」

夜の王国、トワイライトが造り出した存在である以上。
その旋律が語る女王の威光には、決して抗えない。

「――消去」

結界を形作るダークルン達が水泡のように消え失せ、キサナは力なく膝を折った。

「あ……くぅ……っ」

震える指先、爪先が……糸の解けるように崩れ落ち、闇に還っていく。

「キサナちゃん……!」
「やめて、クイーン!」
「キサナ―――っ!!」

小柄な身体が石の床に転がる。
祈里達の悲鳴と絶叫が響くさなか、やがて光の防護壁は完全に消滅し、キサナをクイーンの鉄槌のもとに晒す。

「うっ……ああ……っ!!」

半身を失ってのたうつキサナを、クイーンは氷の眼差しで見下ろしながら、尚もクイーンズジャッジを吹き鳴らした。

「クイィ―――――――ンッ!!」

血を吐くようなせつなの叫びも、女王には届かない。
融ける肢体、霞む魂。
キサナの姿が消えていく。



『私に、“姿”をお与えください』



……キサナ。
複製ではなく。道具ではなく。
あなたがひとつの命として、その名前を呼んでくれた瞬間から。――私は、私になった。
あなたが与えてくれた姿。あなたが灯してくれた命。あなたとともに刻んだ記憶。
その全てを懸けて、いま私は。

『お願いです。この世界の人々の、幸せを守るために』

私はもう一度――あなたに、願う。



「メイ――――――――――――――っ!!!」



***



「…………」


優しく頬を撫で、草の薫りを残して吹き抜けていく風の中に。
一瞬、自分を呼ぶ誰かの声を聞いた気がして、メイは目を開いた。

「……誰か、私を……」

視界いっぱいに広がる、毒々しいまでに色づいた青空と、絵の具の塊を載せたような白い雲。
無遠慮な眩しさで照りつける、真夏の太陽。
しかし不思議なことに、降り注ぐ日差しに不快な暑さはなかった。


「どうしたの」

頭上から響いた声に反応して、メイの目がその主を追う。
日差しの眩しさに目を細めているため、顔は判然としないが……草原に横たわった自分の傍らに、腰を下ろしている女性がいる。
ああ……そうだった、とメイは思った。
どうして、こんな大事なことを忘れていたのだろう。

「夢を見たの?」

耳にかかる髪を弄りながら、少女はにこにこと笑った。
人と話をするときの、彼女の癖だ。

「……いや……」

長い前髪に遮られて、その両目は見えない。
だが自分は、隠された瞳の青く澄んだ美しさも……ワンピースの下にある素肌の白さ、柔らかさも……彼女のことはすべて、知っている。
なぜなら、恋人だから。

「……見てない、と思う」

寝ぼけてるでしょ、そう言って彼女はメイの頭を撫でた。
単純に、嬉しかった。


「忘れていいんだよ、夢なんて」
「……うん」


幸せだな、とメイは思った。
空は青く、雲は白く、大地は緑で、太陽は燦々と輝いている。
傍らには、何よりも大切な恋人がいる。
一切の翳りのない世界。
……ただ……たったひとつだけ、頭の一点に黒くわだかまったように、思い出せないことがあった。


「どうしたの」

身を起こしたメイに、少女がつぶやいた。
先程と同じ言葉。
だがそれに答えることはせず、今度はメイが彼女に問いかけた。

「あなたの名前は、何」
「え?」
「あなたの、名前」

目の前には、見慣れた恋人の顔がある。
その表情が困惑の色に染まっていくのを、メイは黙って見つめていた。

「冗談言ってるの?」
「……私は真剣だよ」

苦笑いを浮かべながら、少女はメイの手を取った。

「そんなことより、これ。さっき見つけたんだよ」

メイの掌に乗せられたのは、四枚葉の白詰草……四つ葉のクローバー。

「四つ葉のクローバー、メイ好きだよね? 幸せになれるよ」
「…………」

メイはその一本をつまみ、青空にかざした。
風に煽られ、震える四枚の葉が、何かを訴えているように見えた。

「メイが欲しいなら、もう一つあげる!」

魔法のように、少女の手の中にもう一本、四つ葉のクローバーが現れる。
メイの表情がわずかに翳ると、彼女はその暗がりを打ち消すように、さらに明るく声を上げた。

「――もう一本!」

メイに差し出されたクローバーが、目の前で二本に変わる。

「――いくらでも!」

二つが四つに、四つが八つに、八つが十六に――。

「メイのためなら、もっともっと見つけてくるよ」

それらはやがて、花束のようになっていた。

「……もういいんだ、イーナ」

青空に顔を向けたまま、メイは言った。

「自分の幸せは自分で見つけなきゃ、意味がないんだ」
「…………」
「自分の道を歩いてさえいれば、道端にそっと咲いているものなんだ」


僅かな沈黙の後、一際強い風が草原を駆け抜けた。
厚い雲が太陽にかかり、周囲を薄闇が包んだ。
少女の手にあったクローバーの束は、風にさらわれたのか、気がつくと何処かに消えていた。


「私は見つけにいく。もう一度自分の足で」


一本だけ、自分の手に残った四つ葉のクローバーを、メイは少女の髪に飾りつけた。

「ありがとう」

きっと結んだ少女の口が再び開くと、そこから流れたのは悲しげな旋律だった。
日の光で溢れていた風景は消え、二人の姿だけを残して、世界は暗闇に塗り潰された。
メイの目の前にいた恋人は、半分ほどの背丈の、小さな魔人に変わっていた。


「イーナは、どうしてもあんたを行かせたく……死なせたくなかったらしい」

メイを囲むように、闇の中から新たに三人の魔人の姿が浮かび上がった。

「また会ったな、キュアグレイブ」
「ハーピー……バルキリー」
「何もかも忘れて、ずっと夢の中にいれば、幸せでしたのに」
「ウィッチ……」

バルキリー・ジュカ、ハーピー・ロメア、ウィッチ・ティノラ。
そしてセイキュバス・イーナを加えた、ダークルン四姉妹。

「夢に甘えるのもいいけど……どうやらまだ、私に願いを託してくれる人がいるみたいなんでね」

返答を聞いたジュカの、浮かべた笑みの穏やかさに、メイは驚いた。

「やはり、そう言うか」
「え……?」
「強き者は、より強き者の前に倒れる。それが戦士の定めであり、世界の掟」
「だからこそ、あたし達は魔人の力を欲した。……それを否定して見せたのが、あんた達だ」

呆れたような口調で、しかしどこか嬉しそうに、ロメアは言った。
かつてプリキュアを捨て、闇に堕した四人の戦士。
彼女達の心は新世代のプリキュアによって浄化され、魔人の力から解放されたのだ。

「勝て。勝ち取れ。……貴様達が信じる力で、世界を救え。かつて我らが絶望に負け、棄てた想いを、貴様達に託す」
「……ジュカ……」
「感謝なさい? イーナが夢にコンタクトしていなかったら、たとえ身体は無事でも、あなたの精神はこの闇に喰われていたかもしれないですわよ」

そう言うと、ティノラは誇らしげに妹の頭を撫でた。

「……ありがとう、イーナ」

メイが腰を折り、うつむいたイーナの顔を覗き込む。
イーナはその両肩に手をかけ、小さな身体を持ち上げるようにして、メイの頬にそっと口づけた。

「おねがい。パインを……助けて」
「まかしときな」

白い歯を見せて笑顔を作ると、メイはわざと大袈裟な手振りでガッツポーズを決めた。
見上げるイーナの顔にもその笑みは伝わり、彼女の長い前髪の合間から、潤んだ瞳がかすかに覗いた。

「あの星を目指しなさい。きっとあそこにも、あなたを待っている者がいるはずですわ」

ティノラが指差した遥か頭上……闇の中に、一点の光があった。
それを認識すると同時に、メイの身体がふわりと浮かび上がった。
見上げる四姉妹との距離が、どんどん開いていく。

「さらばだ、キュアグレイブ」
「勝ちなよ……いや、勝つさ。あんたならね」
「まぐれの一回だけとはいえ、わたくしに勝ったくらいですもの。当然ですわ♪」
「……バイバイ。メイに会えて、うれしかったよ」

光に向かうほど薄まる、背後の闇とともに……四人の気配もまた次第に遠ざかり、消えていくのを、メイは感じ取っていた。
なぜか目頭が熱くなり、頭上の光がわずかに滲んだ。
それでも決して振り向かず、メイは天を目指した。そうすることが彼女達に対する、最大の手向けだと思えたから。


「ありがとう、ダークルン四姉妹。……いや、プリキュアの先輩たち」


近づくにつれ、小さな一番星が巨大な星雲に変わり、無数の光がメイを迎える。
……やがて視界の全てが、白い輝きに包まれた。



***



光の中、探るように伸ばしたメイの両腕を掴み、引き寄せる者達がいた。
一方は細く柔らかな、また一方は力強くしなやかな指の感触。
メイは驚いたが、抗いはしなかった。どちらの手からも、心を落ち着かせる温もりと、メイに対する優しさがはっきりと感じ取れたからだ。
やがて周囲の眩しさに目が慣れると、メイは二人の女性と再会した。


「そんな……でもっ!?」
「どうして私達が生きているのかと、訊きたいんだろう?」


紫藤ナラカ、そして黒須ヨミ――。
世界と共に消えたはずの、メイの肉親。

「姉さん、母さん……無事だったの……!?」
「……いや、無事ってわけじゃないわ」

悲しみの入り混じった笑みを浮かべながら、ヨミは首を横に振った。
その本意を補うように、ナラカが言葉を続ける。

「私達の身体は、確かにエネルギーへと変換されてしまった。それだけではない。大地も、海も、空も……世界の全てが。今は辛うじて、意識だけが形を保っているが……それも時間の問題だ」
「こうしてメイに触れることができるのも、ここが万物の渾然一体となった空間……物質と非物質の境界が曖昧な、一種の混沌の中……だから、なのよ」
「そんな……それじゃ、やっぱり……」

メイの語尾が震え、両手に力がこもる。

「みんなは……もう……」

ヨミとナラカを交互に見つめる瞳が、大粒の雫を湛えていた。
肉親に触れた安堵と、それらを奪われた実感とが相まって、メイの緊張の糸を解いてしまったようだった。
支えを失った感情が、一気に溢れ出そうとしていた。

「あたしが……あたしが、ちゃんとやってたら。みんなのこと、守れたのに……! ごめんね……ナラカお姉ちゃん。ごめんね、お母さん……ごめん……ごめん……!!」

止め処ない涙とともに、次々と零れ落ちる言葉が、嗚咽の中に埋まるように消えていく。

「あたし……プリキュアだったのに……」
「聞いて。メイ」

メイの手を握ったまま、ヨミは穏やかな声で語りかけた。

「私達は確かに、身体も世界も失ったけど……一番大事なものは、しっかり残ってる」
「メイ、周りをよく見てみな」
「……え……?」

二人の言葉に促され、メイは顔を上げた。

「これ……は……」


ヨミとナラカのもう一方の手は、それぞれ桃園ラブの両親、あゆみと圭一郎へ繋がれていた。
さらに桃園夫妻の手は、蒼乃レミや一条和希、山吹夫妻の手に繋がり、またその先には、タルトの両親――スウィーツ王国の王と妃、そして長老らの姿が見える。
また、サウラーとウエスターをはじめとする、ラビリンスの国民達の姿もあった。
クローバータウンストリートだけでなく、全世界、いや、全パラレルワールドの人々が、互いの手を繋ぎ、ひとつの輪を形作っていた。
その巨大な円環の中に、メイも加わった。
周囲には動物や虫達、草木、空と海と大地、そこに宿る精霊達、ありとあらゆる生命の気配が満ちている。
まさしく、現世の全てが一体と集まった空間。それは、サーペンタインの輪(リング)の内部だった。


「ギリギリ最後の瞬間、キサナが私達を繋いでくれたんだ」
「キサナ……が……」
「そう。私達一人ひとりが持っている、一番強い力……願いを、ひとつにね」

万物を喰らう闇の力をもってしても、決して奪えないもの。
全ての世界から、全ての命の願いが、ここに集っているのだ。

「プリキュアの勝利を願う、全ての世界のハートだよ」

手を繋いだ人々の胸に、小さなハート型の光が灯る。
やがて輪の中心へと集まったそれらは、一つの輝きを成し……その中から、一体の妖精の姿が現れた。
願いをのせて明日への扉を開く、最後の鍵――。


『私はパープルン。願いを司る、紫の鍵だキィ』

メイの声を借りて語りかける、失われし伝説の妖精。

「パープルン!? でも、あなたは古代トワイライトの戦いで……」
『確かにあの時、私はキュアグレープと共に消滅した……しかし今、人々の願いが私を蘇らせたキィ。クイーンの仕組んだ、記憶再生の環を逆利用することで』

軽やかに宙を舞い、パープルンはメイの左腕――破壊されたリングルンの中枢へと吸い込まれていった。

『今日を明日に繋げる力。“願い”の力を、あなたに託すキィ』
「リングルンが……復活する……!?」

パープルンが自身の複製であるイニシャルGに、そして失われた夜鉱石に代わって宿ることで、黄金の腕輪が輝きを取り戻す。
願いの円環が、リングルンに新たな命を灯したのだ。

「でも……たとえプリキュアが勝っても、みんなは、もう……」
「メイ、それは違う」
「誰だって死ぬのは嫌よ。けど、それ以上に――」

輪を繋いだ数多の人々を見渡して、ヨミは言葉を続けた。

「私達が願うのは、メイ。あなたと友達が、私達の分まで、明日を切り拓いてくれること」

その意志を裏づけるように、誰もがメイに向かって深くうなずいていた。

「前に進みなさい。失ったものにすがるのは簡単だけど。新しい世界を作るのはいつも、前に進もうと足掻く、命の力なのだから。……もしも道に迷ったら、そんな時だけは、目を閉じて“思い出し”なさい。……私達は、いつも一緒だから」
「……うん」

メイもまた、ヨミの手を強く握って、深くうなずいた。
涙は既に乾いた。いや、昨日に置いてきた。
今、メイの目が映すのは明日の夜明けだ。


「メイの手、あったかいよ」
「母さんの手も……」
「こうして手を繋ぐなんて、どれくらいぶりだったろうね?」

メイの右手を、ヨミは噛み締めるように握っていた。
その反対側では……ナラカが、左手に頬擦りをしている所だった。

「本当に、いつ以来だろうか……すべすべの手……しっとり伝わる体温……アア!」
「離せ。今すぐ離せっ!!」

繋いだ左腕を肩ごとぶんぶん振り回すメイと、必死に食らいつくナラカ。

「……メイ」
「母さんからも何か言ってよ! この変態……」
「私は、心のどこかでずっと、あなた達を避けてた」
「……え……」

予想もしなかった告白に、メイは驚きの表情を浮かべた。
一方でナラカは、なぜか、我が意を得たりといった顔でほくそ笑んでいた。

「今まで親の勝手で、あなた達には迷惑をかけてばかりで……だから、素直に言えなかった。……大好きだよ、メイ」

娘と向き合いながら、恥ずかしそうに……しかし確かな声で、ヨミは言った。
今までに、一度も見せたことのない表情だった。

「……まったく……何、言ってるんだか」

大きく溜め息をつきながら、メイは熱く潤んだ瞳で、ヨミを真っ直ぐに見つめ返した。

「……そんなの知ってるよ。自分の……大好きな母親の、ことなんだから」

数万キロを隔てて生きていた二人の、その距離以上に縮まらなかった、心の微妙なわだかまりが今、朝日に打たれた雪のように消えていった。

「母さんもメイも、素直さが足りなかったのさ。私くらい正直になった方が、いいと思うがな~~」
「「あんたは正直過ぎるっ!」」

母娘同時の突っ込みが綺麗に決まると、笑いの後に訪れたわずかな沈黙が、三人を促した。

「さ、そろそろ行かなきゃね。友達が待ってるんだから」

あれほど感じていた温もりが、いつの間にかメイの両手から消えかけていた。
ずっと保っていた願いをパープルンに、メイに託して……ヨミ達の意識は、ついに消失しつつあった。

「母さん……姉さん」
「見せて。あなたが歩いてきた道を、これから歩いていく道を」
「見せてくれ、メイ。私達が生きてきた、その証」
「……わかったよ……」

メイが答えた時、母と姉の姿はもうなかった。
彼女達を取り巻き、無数にいた人々の姿も。
だがその存在は、その想いは、メイとともにあった。

「お見せしましょう」

菱十字の鍵が、再びメイの指先に宿る。
明日の扉をこじ開ける。昨日に捧げる、墓碑の名を刻む。
今こそ叫べ、黒須メイ。
――全てを越える、命の誓いを。



「チェインジ・プリキュア……クロス・オーバー!!!」



***



「なに……!?」
「今の、声って……」
「メイ……さん……!?」

天の一角から響いたその声を、クイーンも、ラブ達も、確かに聞いた。
見上げた先に……崩れた天井の向こうにあるのは、ゆっくりと回転を続ける黄金の輪。
古代トワイライトの記憶を映し出していた、その巨大な円環の中に、波紋のような歪みが集束していく。

「まさか――」

輪の中心で歪みが弾け、溢れた極彩色の輝きがクイーンの目を眩ませる。
崩れ落ちた天蓋から差し込んだ光条は、キサナ達を守るかのように、ただ一点を目指して――クイーンの眼前を遮る、光柱となって収束する。

「馬鹿な、あなたは……!」

その輝きの中から、銀にたなびく髪が浮かび上がった。
棺の蓋を内からこじ開けるように、漆黒の両腕が光柱を左右に分かつ。砕け散った光の欠片が、虚空に無数の星々を生んだ。
現れたのは、黒衣の死神の姿。
だがその双眸は、黒く穿たれた亡者のものではなく――白金の瞳が映すのは、命輝く不朽の未来。
常夜の冥府に、太陽のように燃え上がる紅蓮を纏って、彼女はそこに立っていた。


「冥府を望む玉座! キュアグレイブ!!」


それは戦いの終焉を告げる夕陽か、新たな未来の到来を示す朝陽か。
発せられた言霊が、神殿の青白いかがり火を紅蓮に染め変える。

「メイさん!!」
「メイ!!」
「……メイさん……!」
「本当に……よかった……」

歓びに声を震わせ、涙の雫を弾かせて、ラブ達がメイを迎える。

「……メイ……」

求めるように伸びた小さな手を、赤いグローブが握り締める。
メイの、キュアグレイブの手に触れると同時に……その記憶の持つ力か、キサナの“姿”が元通りに修復されていく。

「ごめん。遅くなったね」
「……許します。チャーハン一皿分で」

キサナを抱き起こしながら、グレイブは再びクイーンと対峙した。

「哀れな……死に損ないましたか。ならば再び、葬送の曲を享受なさい」

クイーンズジャッジがリングルン凍結のコードを奏でる。
だがグレイブはその洗礼を受けることなく、炎に照らされた道を一歩一歩、クイーンに向かって踏みしめていく。

「む……!?」
「無駄だよ、クイーン」

魔笛の調べはグレイブに届かず、彼女の身に纏う紅蓮の闘気の前に、炙られるように消滅していく。

「今の私に力を与えているのは、全ての世界の人々の願い。そして、それが喚び出したオリジナルのパープルン。もはや、あなたの支配は受けない」
「……いいでしょう。ならば、力をもって退けるのみです」

クイーンは蒼炎のマントを翻し、大鎌の切っ先をグレイブに向けた。

「あなたもプリキュアを名乗るのならば、故郷を取り戻すために、今度こそ全力で戦ってみせなさい。……決着をつけましょう。どちらが真の冥府の女王となり、願いを叶えるか」

クイーンの言葉に、グレイブはゆっくりとかぶりを振った。

「私が帰ってきたのは、故郷を取り戻すためでも、みんなの仇を討つためでもない」
「……ならば、何のために?」
「明日を生きるために」

両者の視線が、真正面からぶつかり合う。
静かに燃えたぎる炎のように、確かな口調でグレイブはそう言った。

「ともに今を生きる、大切な仲間を助けること。過去に巻き戻ろうとする世界を、私達の明日へと導くこと」

クイーンが漏らしたのは嘲笑だった。

「表向きの言葉をすげ替えたところで、あなたと私の目的は同じです。敵を倒し、自分の願望を達成するしかない」
「違う。クイーン、私はあなたを倒さない」
「……は?」

主の困惑を代弁するかのように、クイーンズジャッジの先端に宿る煌めきが、わずかに鈍って見えた。

「あなたも、明日をともに生きる仲間だから」

対するグレイブの瞳に、一点も曇りはなかった。

「私は、あなたも助けてみせる」
「助ける、ですか。私を、何から?」
「過去の十字架から」

冥府にそびえる、この巨大なグレイブタワーそのもの……いや、それよりも遥かに大きな、女王に課せられた、使命という名の十字架から。

「あなたと明日を築くために。それが私の決めた幸せ。母さんたちと約束した、私の道だから」
「……あなたという方は」

心底、呆れ果てたという様子で、クイーンは大きく溜め息を吐いた。

「これ以上、あなたと会話を重ねても無駄です。……戦いましょう。どちらにせよ、結末は決まっているのだから」

左腕……黄金の腕輪を掲げて、クイーンはつぶやいた。

「大気反転」

虚空の処刑場へ通じる、光のゲートが広がっていく。
グレイブは微動だにせず、その招きを正面から受けて立った。


「メイさん!!」


ラブの叫びにも、グレイブは振り返らなかった。
ただ、光に消える前の一瞬、その右手を仲間達に示した。

『幸せゲットだよ!』

握り拳の親指のみを開いた形。
サムズアップはあの日、ラブがメイに贈ったのと同じ“しるし”だ。


「メイ……さん……」

輝きの去った薄暗い神殿で、残された仲間達は虚空を仰いだ。
頭上で輪舞する巨大な円環、その内側に再生されつつある“過去”は、今この瞬間を押し潰さんというばかりに、地上すれすれに圧しかかっていた。
――最後の戦いが、始まろうとしている。



***



鮮血を吸い上げたような、赤い銀河が見下ろす決戦の地。
過去の再生を、未来の奪還を賭けて、二人のキュアグレイブが対峙する。
黒いキュアグレイブ――メイの背後には、トワイライトの紋章を刻んだ、漆黒の十字架がそびえていた。

「プリキュアの力の源、ピックルンは、五体までこのグレイブ・インフィニティが取り込みました。その十字架にかけるのは、あなたで最後です。……ただし」

長大な鎌を指先で軽々と回転させ、白いキュアグレイブ――クイーンは、己の傍らにそれを突き立てた。

「息絶えた後で、ということになりますが」

紅い両目がさらに紅く、殺意を孕んでぎらりと輝く。


「いくらメイでも、一人で勝てるような相手じゃないわ」

美希の言葉はもっともだった。

「そうね……あらゆるエネルギーを吸収する真・グレイブフィールド、そしてプリキュアの力を奪うロックブレイク……あの力がある限り」

グレイブ・インフィニティの圧倒的な力を思い返し、せつなは身震いした。

「はい。その二つの力がある限り、グレイブ・インフィニティに勝てる存在はありません。……ですが」

その絶望に光明を差したのは、またもキサナだった。

「この世に一人だけ」
「えっ!?」
「……もう一人だけ存在する、キュアグレイブであれば」

冥府の女王に立ち向かえる者は、冥府の女王を置いて他にない。
――だが。


「確かに、同じリングルンに護られたあなたにだけは、真・グレイブフィールドも、真・イングレイブスターのプリキュアブレイクも、唯一効力を持たない……。しかし、それこそがあなたにとっては最大の不幸」

最大の武器を封じられてなお、クイーンの微笑には絶対的な余裕が宿っていた。

「死神に看取られての、安らかな最期ではなく。……地獄の業火に苛まれ、もがき苦しみのうちで死に至る道を、選ぶほかないのだから」


一方のラブ達にとっては、それがわずかながら唯一の希望だった。

「メイさんなら……同じキュアグレイブの力なら、クイーンに勝てる!?」
「――いえ」

喜び勇んだラブの声を、キサナが冷静に否定する。

「敵方に23のマニューバーモードがある限り、焼け石に水です。メイの敗北は時間の問題でしょう」
「じゃあ、どうしたらいいの……!?」

祈里の問いに答えるより先に、キサナは神殿中央の壁面――鉱石回路に向かって、一直線に走り出していた。

「キサナちゃん!?」

壁画のような無数の幾何学模様の最下部、掌を象った二つの窪みに、その両手をはめ込む。
エメラルドに輝く回路の中枢に向かって、キサナの手から発せられた紫色の光路が何本も走っていく。

「力を借ります。今やプログラムとして、クイーンに利用されている……“彼”の自我を、呼び起こして」
「……まさか!?」

驚愕に目を見開いたせつなの口から、二度と呼ぶこともないはずだった、その名前が零れていた。


「総統……メビウス」





<その2につづく>





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テーマ : プリキュア
ジャンル : アニメ・コミック

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