クロスオーバー! フレッシュプリキュア! クロス†オーバー 最終話(その4)

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フレッシュプリキュア! クロス†オーバー 最終話(その4)



剥がれ落ちた白衣の下。入れ替わるようにして、黒いドレスが女王の身を護っていた。
ベリーに両断されたクイーンズジャッジは、柄に巻きついたタナトスのリボンによって、完全に接合されていた。
メイを貫いた大鎌を、タナトスはそのまま床面に突き立てた。
まるでそれが、即席の墓標だとでもいうように。
リングルンを介して繋がっていたキサナでなくとも、それが致命傷であることは一目でわかった。

「そんな……」
「メイ……さん……」

グランドフィナーレの瞬間、グレイブのエネルギーは尽きてしまっていた。結界の一点に、わずかな隙が生じていたのだ。
合体技に全力を注ぎ込んだプリキュア達は、もはや立ち尽くすばかりだった。
クローバーフィールドが、完全に消滅していく。
と同時に、タナトスはある種の波動を感じ取った。

「タワーの外から……この気配は……?」


トワイライトの大地が震撼していた。
グレイブタワーを中心に、地を割ってエメラルドの光流がいくつも噴き上げた。

「我がトワイライトに、まだこれだけの力が眠っていた……? いや、マザーストーンを失って以来、死に絶えていた夜鉱石の命脈が、息を吹き返したとでもいうのですか……」

タワーの最上階から見渡す限り、夜の王国の全土で、大地が光を放っているようだった。

「フフ……ハハハハハハ! なんと美しいことでしょう! 亡きトワイライトの民も、王国の復活を祝しているのです!!」

タナトスはその光景に狂喜し、ドレスの裾を翻して舞い踊った。

「……それは、違います」
「む?」

歓びに水を差されたタナトスは、不躾なその言葉の主を、キサナを鋭く睨みつけた。

「何が違うというのです?」
「かつて、魔人に悪用されることを防ぐため、全ての夜鉱石は力を失いました。……しかしそれは死ではなく、来たるべき日までの、大いなる眠りだったのです」

キサナが語る内容に耳を傾けながら、タナトスは口元を歪めた。
それは嘲笑だった。

「なるほど、それがまさに今日。蘇る王国を、迎えるために目覚めたと」

しかし、見つめ返すキサナの瞳には、強い確信の光が宿っていた。

「いいえ。この力が目覚めたのは、トワイライトの未来を拓く者……真のキュアグレイブに、力を与えるためです」
「フフッ。真の……キュアグレイブ、ですか」

笑いを堪え切れず、タナトスは口元を指で覆った。

「そしてクイーン、それは、今のあなたではない」
「何を馬鹿な。冥府の玉座につく資格を持つのは、この私のみ。紛い物の娘なら、たった今、息を引き取ったばかりではありませんか」

メイの無残な姿を指差し、タナトスは言った。
それでもキサナは涙一滴流さず、むしろ声を大きく、力強く張り上げた。

「キュアグレイブはもう一度、必ず立ち上がります」
「ほう?」

小さな胸いっぱいに空気を吸い込んで、キサナは力の限り叫んだ。


「だって、彼女は……黒須メイなのだから!!」


彼女の言霊に応えたのは、意外な存在だった。

「キュア・キュア・プリップ――――――ッ!!」
「シフォンちゃん!?」

唐突に響き渡った声に、パインは、ピーチ達は、背後を振り返った。

「どうやら、間に合ったみたいやな」
「タルトちゃん!」

神殿の入り口に、小さな影が立っていた。
シフォンを背負って駆けつけたタルトは、パインにVサインを送った。


「キュアァァアアア……プリップ――――――――――ッ!!!」


シフォンの額が閃光を放った。
大地に渦巻く光の全てが、グレイブタワーの根元に引き寄せられ、螺旋を描きながらその壁面を昇っていく。
崩れ落ちた天井を抜けて、光の流れがここ最上階に集束した。

「なに……!?」

タナトスの表情が凍りついた。
光が集まったのは、女王である己のもとではなく、キサナの掌の上だったからだ。

「そんな、馬鹿なことが……あるはずがないっ!!」

その叫びは光の奔流に呑み込まれ、空しく消えていった。

「これこそあの日、私が……いや、キュアグレープが、未来に託したもの。トワイライト、究極の遺産――」

光は渦を巻きながら密度を増し、何かの形を成そうとしているようだった。


「ミラクルトワイライト!!」


キサナが高らかに叫ぶとともに、全ての光がその手の中で結晶した。

「ミラクル……」
「トワイライト!?」

タナトスが、プリキュア達が、驚愕の表情を浮かべてその名を反芻する。
掌に収まるほど小さな円筒形のライトに、古代トワイライトを支えた夜鉱石の力が、余す所なく凝縮されているのだ。

「それで、何を……するつもりですか」

タナトスの声が、初めて畏怖を帯びていた。

「言ったはず。トワイライトの、真の未来を拓く戦士に――」

指揮棒を振るかのように、キサナはライトで十字の軌跡を描いた。



「プリキュアに、力を――!!!」



キサナが天に掲げたライトの先端、虹色に輝くクリスタルから、無数の星々が、星雲が、銀河が、次々とほとばしった。
まるでここグレイブタワーの最上階に、ひとつの宇宙が誕生したかのようだ。
その光に包まれて、失われたプリキュア達の力が蘇っていく。

「これは……!」
「感じる。トワイライトの人達の想い……」
「温かい、みんなのハート……」
「力が、溢れてくる!!」

ピーチ達の装衣が、一斉に白くスパークした。

「「「「チェインジ・プリキュア!! ビート・ア―――――――ップ!!!」」」」

四人の鼓動が重なった時、白銀の翼が再び空に羽ばたく。


「「「「ホワイトハートはみんなの心!! はばたけフレッシュ、キュアエンジェル!!!!」」」」


伝説を超越した四人の天使が、ここに舞い戻った。
そして――。

「む……っ!?」

メイを貫いたクイーンズジャッジの刃が、小刻みに震え始めていた。
まるで、主をも超える大きな力を、畏れるかのように――。

「おのれ、まだ息が――」

タナトスが大鎌の柄に触れた瞬間、メイの胸からほとばしった血痕が、火に触れた油のように燃え上がった。

「くうっ!」

堪らずクイーンズジャッジを手放し、タナトスは後退った。
赤熱化した鎌は、メイの胸に突き刺さったまま断末魔のようにのたうつと、どろりと溶け落ち、一瞬の内に蒸発した。

「メイさん……!?」

タナトスが、キュアエンジェル達が、固唾を呑んで見守る中……メイの全身を包んだ炎が、次第に明確な形を備えて結晶化していく。
冷えた溶岩のように全身の紅が引くと、その下から傷一つ、煤一つない漆黒の装衣と、白く澄んだ肌が姿を見せた。
凝縮された炎は髪と一体になって伸び、さらに激しい輝きを伴って翻る。
胸に開いた十字の傷の奥は、地獄の窯のように燃え盛っていた。
光に向かう右目は現世を、闇に開いた左目は隠世を映す。
そこに在ったのは、黒須メイではなく……キュアグレイブでも、キュアブレイクでもない、未曾有の奇跡。
否、奇跡ではない。これは――必然なのだ。


「ブラックハートは命の絆!! とびたてフレッシュ、キュアルシフェル!!!」


ブラック……それは宇宙創世の暗黒にして、命を還す安らぎの闇。全てに打ち勝つ、永遠不滅の一色。
生の光、死の闇。どちらも世界を形作る、なくてはならないものだ。
冥府の力を振るい、命の未来を切り拓く存在。
冥と命、メイとメイ。
彼女には今こそ、自分の名に込められた想いがわかった気がした。

「姿が変わったところで!」

タナトスの両腕から、二本の鎖が稲妻のように伸びた。
しかし、ルシフェルの装衣に触れた途端、鎖は動きを止め、一握りの灰となって風に散った。

「何!? その力は……!!」

その身には、夜の女王の力ですら及ばない、地獄の最深部の死気が常に纏われているのだ。
幾度となく死の淵から蘇り、魂の園から生還した経験をも持つメイだからこそ、使いこなせる力だと言えた。
胸に燃える煉獄の心臓(インヘルハート)は、その証なのだ。

「私達に最後の力を与えてくれたのは、トワイライトの人達の願いだよ」
「そんなはずはない! トワイライトの民が、どうして私の邪魔をするというのだ!」

ルシフェルの言葉を、タナトスは真っ向から否定した。
だが、それに対する返答――古代から託された願いを、キサナが代弁する。

「みんなも私と同じように、選んだのです。因果を過去へ巻き戻すよりも、未来へ願いを繋いでいくことを」
「この千年は、ただの空白じゃない。人々の想いが積み上げた千年なんだ。……たとえ国は亡びても、生き残った人達、その子供達は、明日へと想いを繋いでいったはずだ。あなたはそれらが育んだ全てのものを、一瞬に消し去ろうとしているんだよ」

命あるものは過去を想いながら、未来を生きる。死したものは過去に生きながら、未来に想いを託す。
クイーンの行いは、その両方の想いを滅ぼすことになるのだ。

「私達とともに、新しい明日を生きましょう! キュアグレープも、それを望んでいるはずです!」
「……黙れっ!!」

それでも、その全てをタナトスは否定した。
いや、否定するしかなかったのだ。
彼女の求める未来――それは、最愛の姉と共に過ごした、あの過去の時間に他ならないのだから。

「私が求めるのは――昨日だ」


その時。
タナトスとプリキュア達の合間に、雪のような白い花吹雪が舞い落ちた。
それは、サーペンタインの円環の向こうから降り注いでいた。

「今度は何が起こったというのです?」
「これは……この花びらは」

視界を遮るそれをタナトスは煩わしそうに払い除けたが、ルシフェルは掌に降りた一枚をそっと握り締めた。

「思い出は、過去を振り返るためにあるんじゃない。前に進んでいくためにあるんだ」
「また、お得意の持論ですか」
「これは、私の言葉じゃない。……かつてトワイライトに生きたひとつの命が、私に教えてくれたことだ」

その少女は、幼くして母親を失いながらも、願いを受け継いで生きるということをメイに教えてくれた。

「その言葉を信じて、私は明日を生きた……そして、キサナともう一度、出会うことができた」
「だから、どうだというのです」

掌にあったはずの花びらは、幻のように消えていた。
それでもルシフェルの胸には、あの少女の笑顔がはっきりと蘇っていた。

「あなたも出会えるはずだよ」
「な……」
「たとえどんな形でも……未来に向かって歩んでいる限り、大切な人はきっと、あなたの前に現れる」

ルシフェルは笑っていた。
敵意の欠片もない――穏やかで、温かな微笑みだった。
それは、今までに受けたどの拳よりも深く、強く、タナトスの胸を打った。

「……ぐっ」

崩れそうになる両脚に力を加えて、タナトスは堪えた。
自分の歩む道は、千年前から決まっていたはずだ――。
今さらこの者達の言葉に、わずかでも耳を貸すようなことがあってどうする。

「ここでやめてしまったら、私が今までやってきたことはどうなります。……必ずやり遂げてみせる、トワイライトの、クイーンとして!!」

傷の疼く痛みに耐えながら、タナトスはひび割れた∞リングルンを頭上にかざした。

「まさか……クイーン、あなたは……」

キサナの震えるつぶやきを掻き消すように、天空の一角から、不気味な大気の震動が伝わってきた。
雷鳴。……というよりも、それは悲鳴に近い。
悲しみと苦しみに満ちた、その音の源は――サーペンタインの輪。

「制御の核を失ったとて、力の矛先を操る程度は造作無いこと」

空一面が軋むような金属音とともに、直径数十キロの円環が、ゆっくりと解けていく。
黄金の蛇龍へと姿を変えたそれは、この世の全てを喰らい尽くさんばかりの大口を広げ、プリキュア達目がけて天下った!

「無限の力、その身で直に享受するがいい!!」

魔獣に化身した途方もない“力”そのものが牙を剥き、グレイブタワーの最上階へ猛然と迫り来る。

「宇宙創造のエネルギーを、そのままぶつけるつもりです……!!」
「恐れることなんかない」

頭上の巨大な影を見据えて、ルシフェルはキサナに答えた。

「明日を創るのは、私達の願い。みんなのハートなのだから」

ルシフェルが、その身体を覆う漆黒の冥衣(シュラウド)を脱ぎ捨てた。
わずかな銀のプロテクターのみを纏った上半身が露になり、激しく燃えたぎっていた炎髪が、透き通るような美しい金髪に変化した。
黄金の冠が頭を離れ、エネルギーに分解したのち、光のリングへと再構成する。
天使の輪、命の円環――それは、粒子化によって形成された新生リングルン“リングレイブン”であった。
地獄に住まう堕天使の背に、十二のエッジを備えた光翼が開く。
その隣に白銀の翼が、エンジェル・ピーチが並び立った。

「あたし達も、クイーンを助けるために戦うよ」
「独りっきりで、何でも完璧に背負おうとする……そーいうムチャな子を止めるのは、慣れっこだしね?」

意地悪っぽい笑みを浮かべ、ルシフェルの腕を肘でつつきながら、ベリーもその横に続いた。

「メビウスとも、私達はわかり合えた。だから、きっと――」
「きっと絆は繋がるって、わたし信じてる!」

パッションも、パインも、笑顔で肩を並べた。

「そうでなきゃ……本当の、本気の幸せは、ゲットできないと思うから」

五人の視線がひとつにクロスする。
世界を……いや、泣き叫ぶ一つのこころを救うために。
今こそ聖なる五つの翼が、冥府の空に羽ばたいた!


「喰らい尽くせ!! サーペンタインッ!!!」


血を吐くような声で、タナトスは絶唱した。
蛇龍が持つ黄金の牙に触れれば、プリキュアとて、原子の一片すら残らないだろう。

「過去という十字架から、あなたを救う……いや、あなたと一緒に、その願いを背負う」

ルシフェルを中心に、四人のエンジェルが十字の陣形を組み上げる。
天使と魔王が、一斉にその両手を広げた。振り下ろされた拳を、受け止める……いや、受け入れるように。


「「「「「想いよ届け!!!」」」」」


愛、希望、祈り、幸せ、命。
それぞれの胸から生まれた五色のハートが、五人の中心でひとつに重なる。


「「「「「明日へと越えろ!!!!」」」」」


願いをのせた“クローバー”は、全てを超越する“クロスオーバー”へと進化した。
それは過去の十字架を背に、新しい未来を導く光――。



「「「「「「プリキュア・クロスオーバー・フレェェエエエ―――――――――――――――――――ッシュッ!!!!!」」」」」



魂を謳った言霊と共に、プリキュア達が掲げたハートの内から、無限の星々が溢れた。
いや、それは星ではない。――ハートだ。全ての世界から、千年の過去から、明日を拓くために集結した、命の煌めきだ。
ひとつひとつが異なる輝きを宿した、“想い”が大河となって天に架かる。
やがてそれは空を覆い尽くすほどの、巨大な一個のハートに姿を変え、サーペンタインを包み込んだ。

「な、何だ……リングルンから逆流する、この熱は……!?」

∞リングルンを通じて、サーペンタインに向けた五人の想いが流れ込んでくる。
何よりもクイーンのために、彼女達はその命を懸けようとしていた。
その光に晒されたタナトスの胸に、小さなハートが灯る。

「ううっ……こんな……こんなことが……!!」

己の両肩を抱き、開いていく“本当のこころ”を、彼女は懸命に封じ込めた。


「全ての世界を、次元を越えて、愛を届けてみせる。本気の幸せを、みんなでゲットするために」
「今日は完璧じゃなくたって、自分自身を越えていける。希望を捨てない限り」
「越えられるって信じてる。その祈りを、明日に託すの」
「たとえ迷宮に惑わされても、何度でもやり直して、精一杯越えていく。自分の道を」
「見せてあげるよ、クイーン。これが私達の、新しい日々を築く力。――私達の、」


「「「「「フレッシュプリキュア!!!!!」」」」」


光の中で蛇龍はその動きを止めた。
己の尾を食み、再び円環となって、天空に静止した。

「あり得ない………無限を超越する力など……」
「あるんだよ、私達には。……クイーン、あなたの胸にも」

プリキュア達は、決してその圧倒的な力を振るったわけではない。
誰しもが成し得ることをした。……想いを、伝えただけだ。
だがそれは、どんな力も超越する、必然の奇跡なのだ。


「「「「「――ロックブレイク」」」」」


明日への扉を、心の鎖を――解き放つその言霊は、クイーンの胸いっぱいに響き渡った。


「私のハートが、プリキュア達の声に、溶かされていく……」


(ああ、私は……私は……)



幸せだ……。



***



トワイライトを再生するシステムは、その動きを止めた。
今はただ太陽のように、この冥府に黄金の光を照らし続けている。
朝日に霞むように、闇のドレスが消え去った。
膝を折り、へたり込んだクイーンの周囲に、五人のプリキュアが舞い降りた。

「……っ」

怯えた表情のクイーンの前に、黒須メイはゆっくりとしゃがみ込み、その手を差し出した。
プリキュア達もまた変身を解き、少女の姿に戻っていた。

「……ど……どうして私を、助けるのです」

クイーンの問いに、手を差し伸べたまま少し考え込んで、それからメイは口を開いた。

「うーん……もっと、幸せゲットしたいから……かな」
「え……?」

ラブの受け売りのその言葉を、メイはやや照れ臭そうにささやいた。

「あなたの悲しみ、苦しみの全てを理解することはできない。……私は、あなたとは違う存在だから。けど、だからこそ、支え合っていっしょに未来を生きていく意味があるんだと思う」

クイーンの心をなぞるように、メイは彼女の頬にそっと手を添えた。
その指の上を、小さく熱い雫が伝い落ちていく。

「私も、生きたい……あなたたちといっしょに、生きていきたい……」

千年の間……いや、あの日、亡びた都で誓った瞬間から、ずっと流していなかった涙が。
いま、クイーンの双眸から溢れた。

「それが、あなたの本当の心だったんだね」

もらい泣きの涙を瞳に溜めながら、ラブは微笑んだ。

「きっと、あなたの本当の願いが、私達の勝利を呼んだのね。女王の使命から解放されることを、ずっと願っていた心が」

せつなもまた、目元から零れる雫を指先で拭いながら言った。

「眠りから覚醒した時。私には、トワイライトを蘇らせることができると、“わかってしまった”。……だから、逃げるわけにはいかなかった」

クイーンの左腕に落ちた雫が、∞リングルンの上で弾けた。

「女王として、たったひとりで生き残らされた意味を、考えた。姉さまとの約束のために、自分自身の立てた誓いのために……つらさを、罪の意識を、心の奥底に閉じ込めた」
「それでも、あなたの優しさの全てを消し去ることはできなかった。プリキュアのことを……姉と同じ力を持った戦士達のことを、心のどこかで信じていたのですね」

キサナの言葉にクイーンがうなずく。
美希やタルト達も、彼女の葛藤を思いやった。

「やろうと思えば、いつでもあたし達にトドメはさせたものね」
「わいの命も、取ろうとはせんかったしなぁ」
「キュア!」
「本当はわかっていました。こんなことをしても、姉さまは喜ばないと。全てを犠牲にして姉さまに会えたとしても、自分の心が満たされることはないと――」

涙とともに心の嗚咽を流し切ると、クイーンは今一度立ち上がった。

「でも、プリキュアが私の心を救ってくれました。かけがえのない想いで、この胸を満たしてくれた。だから、私もあなたたちのために、出来ることをしたい」

天空に静止したサーペンタインの輪を見上げ、そして祈里に視線を移した。

「祈里、あなたのフルートを貸してください」
「クイーン……?」
「お願いします。もう一度だけ……私を信じてはいただけませんか」

思いがけない言葉に、一瞬驚いた顔を見せたものの――すぐに、彼女の優しい笑顔がクイーンに応えた。

「もちろん、信じてるよ。わたしたち、友達だもの」

喚び出したキルンを、リンクルンに挿し込む。

「キルン、お願い」

光の中に生まれたキュアスティックを、クイーンの手が掴み取った。

「ありがとう……祈里」

パインフルートを携えながら、次に彼女はシフォンに語りかけた。

「シフォン。私のしたことを、許してもらおうなどとは思いません。ですが、全ての世界のために、もう一度だけあなたの力を貸してください」

クイーンとシフォンの瞳が、しばしの間見つめ合う。
そしてその果てに、シフォンは言った。

「みんな、ちから、あわせる!」
「私達も……?」
「やろうよ! みんなで、クイーンといっしょに!!」

そう言うなり、ラブは両隣のメイとせつなの手を取った。

「そうね。……ブッキー!」
「うん!」

美希と祈里も、互いの手を重ねる。

「私もやります!」
「もちろん、わいもや!!」

キサナもタルトを抱え上げ、手を取り合った。

「女王の名において――時の円環よ、その戒めを解け」

クイーンが吹き奏でたのは、クローバーボックスのオルゴール――シフォンの子守唄の旋律だった。
優しく、美しく、温かな音色。千年の間封じ込めてきた、これが本当の彼女の音楽なのだろう。
そしてそのメロディと共に、プリキュア達が、キサナが、タルトが。
手を繋ぎ、シフォンと声を合わせて唱える。



<<キュア・キュア・プリップ――――――――――――ッ!!!!>>



シフォンの額が金色に輝いた。
そこに蓄積されたメモリーが、サーペンタインから解き放たれたエネルギーの流れとともに、全ての次元へと飛んでいく。
いや、帰っていく、と言った方が正しいだろう。
役目を終えたパインフルートもまた、クイーンの手の中で光に還っていった。


「トワイライトの再生のために集められたエネルギーは、いま、全て元通りに還元されました」
「それって、つまり……」
「あなたたちの……全てのパラレルワールドは、救われたのです」

メイ達は、歓声を上げて抱き合った。
長い、長い戦いの果てに。――ついに少女達は、世界を救ったのだ。

「でも、まさか一瞬で元通りになるなんて……ちょっと信じられないかも」
「千年遡るのとは、わけが違います。ほんの数時間、巻き戻しただけですから」

歓びながらも驚きを隠せない祈里に、クイーンは微笑みかけた。
彼女もまた世界の修復を心から歓び、安堵しているようだった。
空を占有していた巨大なリングの、そのほとんどがエネルギーに変換されて全ての世界に散らばっていった。
グレイブ・インフィニティが使ってしまった分を、構造物そのもので補ったのだろう。
残った断片は、黄金色の慈雨となってトワイライトに降り注いでいた。


「よかった……本当に、良かった」

メイが、そしてラブ達が、取り戻した未来を噛み締めている中――。
キサナの頭に、あるメッセージが届いた。

「……それは……本当ですね?」
「キサナ?」

振り返ったメイ達に向けて、キサナは口を開いた。

「メビウスに任せていたデータの解析が、完了したみたいです」
「データって、何の?」

メイの質問に対する答えは、意外なものだった。

「かつて抹消されたラビリンスの国民番号、ES-4039781――イースのDNAデータです」
「東さんの……?」
「私のDNAがどうかしたの?」

当のせつなも、キサナの真意を測りかねている。
そして続く言葉に、全員が驚愕した。


「トワイライトがよみがえりました。たったいま、この瞬間に」


クイーンが息を呑む音が、傍らにいたメイにも聞こえた。

「トワイライトが……!!?」
「それを立証するデータが、ようやく手に入ったのです」

信じ難い報告に戸惑いながら、クイーンがキサナに問いかける。

「しかし、サーペンタインが再生した世界の中にトワイライトは含まれていないはずです! 第一、ここは死に絶えた冥府のまま……」
「ここではない、別の世界に、です」

キサナの声はやはり確信を宿している。

「別の、世界……?」
「それは、どこなの!?」
「パッションさん、あなたの祖国です」

予想だにしない言葉に、先程にも増してせつなは当惑した。

「どういうこと!? ラビリンスの地に、トワイライトが再生されたというの?」
「それじゃ、ラビリンスはどうなってしまったの……?」

今まで黙って話を聞いていた美希や、祈里からも疑問が噴出する。
ラビリンスもまた、プリキュア達が死闘の末に解放したかけがえのない国だ。
何かあったとすれば、心配でないわけがない。

「ラビリンスのある世界に、トワイライトが再建されたのは事実です。しかし、もちろんラビリンスもまた、無事に再生されています」
「二つの世界が混じっちゃったの?」
「そんなわけないでしょ」

ラブに冷静なツッコミを見舞う美希だが、彼女自身も正解を知っているわけではない。
キサナの言葉に全員が意識を注いだ。

「ラビリンスが再生されたのは、一瞬のうちの出来事。しかしトワイライトは、千年の時をかけることで今、ついに再建されたのです」
「! ……まさか!?」

メイには思い当たる節があるようだった。

「……けど、それなら説明がつく」
「メイ、どういうことなの!?」

キサナの側に立って、メイも美希達の問いに答えた。

「クラインが魔人ドラゴンの力を持っていたこと……それから、ノーザがユグドラシルの力を操れたことも」
「ラビリンスに保存されていた魔人のDNA情報から、メビウスは彼女達を造り出したのでしょうね。……さらに言えば、クロスオーバーとスイッチオーバーの技術的な共通点についても、それで説明ができます」

淡々と並べられていく事象に、堪らずせつなは割って入った。

「私には、なにがなんだか……」
「回りくどい言い方をしてしまってすみません」

少し反省したように、キサナはゆっくり語り出した。

「メビウスが厳重に封印していたデータの中に、ラビリンス建国にまつわる内容が記されていたのです。ラビリンスは、総統メビウスによって作られた国だと……」
「それなら、あたし達も聞いたよね」

ラブの言葉に、プリキュア達は皆うなずいた。
ラビリンスでの決戦において、端的にだがメビウスから聞かされている。

「そうね。たしか、荒廃した国を復興するために作られたコンピューターが、暴走して……あっ!?」

そこまで言いかけて、美希は感嘆の声を上げた。

「ウソ……本当に!?」
「……そうです」

キサナの言わんとすることを、せつなもクイーンも、朧気ながら予感していた。
しかしそれは、あまりにも信じ難いことだった。

「ラビリンスこそ、巨大コンピューター・メビウスによって再建された、古代トワイライトに他ならないのです。……プリキュアによるラビリンスの解放。クイーンによる破壊と再生。そして歴史の封印の解除をもって、今ここに……本当の意味で」

最後の言葉はクイーンを見つめて、大きな瞳いっぱいに涙を溜めて、キサナは語った。


「トワイライトは、よみがえったんです」


しばしの間、そこにいた誰もが言葉を失った。
沈黙を破ったのは、鉱石回路から出力された音声だった。

『私からも、真実を語ろう』
「メビウス……様……」
『よく聞くのだ、東せつな。そして、クイーン・トワイライト13世よ』

放心した表情のままに、クイーンは小さくうなずいた。

『もう数百年前のことになろうか。大地を戦火で灼かれ、女王という指導者をも失ったトワイライトの民は、新天地を求めて旅立った。そして長き放浪の果て、別の次元にその場所を見つけた』
「それが、今のラビリンスがある世界……」

ラビリンスの国民として、総統メビウスに仕える幹部として生きてきたせつなとっても、それは初めて聞かされる事実だった。

『そうだ。そして国家再建の目的で、メビウスというプログラムが、この私が作られた。後は知っての通り――』
「暴走したメビウスによって国は支配され、再建に至る過去の歴史も封印されてしまった……」

やっとのことで、クイーンは言葉を搾り出した。

『だがクイーンよ、トワイライトを蘇らせ、また私の意志を変えたのは、プリキュアの力だけではない。貴女の行動があってのことだ』
「しかし、それは結果として……」
『プリキュアも貴女も、“願い”を叶えるべく奔走したことに、何の違いも無い。そして、クイーン……貴女より全てを奪おうとした私から、せめての贖罪として、“彼ら”の言葉を伝えたい』

神殿の中空に、巨大なスクリーンが開いた。
そこに映し出された古代トワイライト語を目の当たりにして、クイーンは涙を流し、大きな嗚咽を漏らした。

「キサナ、これは……」

メイの呼びかけにうなずき、キサナがその一文を読み上げる。


<国を守るために深い傷を負い、眠り続けるあなたを置いて、母なるトワイライトの地を離れたことをお許しください。
しかし、いつの日にかあなたが目覚めた時、この一文を携えた私達の末裔が、必ずやお迎えに参じることでしょう。
そしてその日までに、いかなる困難があろうとも、トワイライトの再建を成し遂げることを誓います。
あなたの明日に、幸あらんことを。……全国民の願いを込めて、親愛なるクイーンへ>


『私のプログラムの最深部に、このメッセージは刻まれていた。いずれ目を覚ます女王に、想いを届けるために。千年の時を越えて、貴女を迎えるために――』

今ここに、全ての想いが繋がったのだ。

「……よかったですね、クイーン」

涙を流しているのは、クイーンだけではなかった。
メイも、ラブ達も。
タルトも、キサナも――。
全員が涙して、心からクイーンの願いが叶ったことを祝福していた。

(……私は、ひとりではなかった)

永い時を越えて、クイーンの胸に温かい何かが蘇っていた。
千年の間に失われたものなど、本当は何もなかったのだ。
ルシフェル達に向かって、クイーンも笑顔を返した。それも千年の時を越えて蘇った、彼女の本当の笑顔だった。


「それから、もうひとつ」

笑顔に涙を光らせながら、キサナはクイーンとせつなに語りかけた。

「トワイライトとラビリンスを繋ぐ、最後の証拠……パッションさんのDNAデータについて」
「そういえば、最初に言ってたわね」
「解析した結果、古代トワイライト王族のデータと一致したのです」

クイーンとせつなは、思わず互いの顔を見合わせた。

「パッションさんの、ラビリンスでの姿。銀の髪と紅い瞳は、他でもないトワイライト王族の証です。……もしやとは思っていましたが、今まで確認する機会がありませんでしたから」

つまりイースは、せつなは、王族の血を持つ、クイーンの末裔だということになる。

「私が、クイーンの……」
「せつなが、私の子孫……」

千年の時を越えて、同じトワイライトの血を持つ者同士が、心を通わすことができたという事実。
運命、奇跡。
いや、これも強い“想い”が生んだ、必然だったのかもしれない。


「……あ……れ?」

微笑むクイーンの姿が二つにぶれて見え、せつなは目をこすった。
涙のせいか、激戦の疲れによるものだろうか。
しかし、その周囲ではメイ達も同じように驚き、自身の目を疑っていた。
彼女達の前には、まったく同じ姿をしたクイーンが二人立っている。
――いや、よく見ると、片方のクイーンには実体がなかった。
背後の壁や、足の下の床がうっすらと透けている。

「これは……」

一方、実体を持った方のクイーンは、ゆっくりとその目を閉じていった。

「……メ……イ……」

儚げに澄み渡った、水晶細工のような独特の声音が響いた。

「トワ……トワなのか!?」

メイの言葉に、“トワ”は小さくうなずいた。

「それじゃ、こっちは……」

実体を持たないクイーンの胸には、黒い鍵の妖精の姿が、核として浮かび上がっていた。
――ダークルン・イニシャルQ。

「クイーンの魂がダークルンとともに、肉体を離れたのですね」
『ええ。……もう、思い残すことはありません』
「待って! その言い方じゃ、まるで――」

せつなが言いかけて呑み込んだ言葉を、クイーンはゆっくりうなずいて肯定した。

『もともとの私の命は、千年前に尽きていました。ダークルンの力で無理矢理、魂を現世にくくりつけていたのです。元の身体に戻っていられる時間はわずかしかない。……だから、王国の再建は急がなければならなかった……』

目的が成し遂げられた今、彼女の魂は昇天の時を迎えようとしていた。

『ここに残って罪を償うことができないのは、辛いですが』
「……安心してください」

地を離れようとするクイーンに向かって、メイは言った。

「クイーン、あなたがしたこと、私達は絶対に許しません!」

――笑顔で。

「私達がそっちに行ったら、ひとりひとり文句を言います。納得いくまで謝ってもらいます。だからそれまで、元気でいてくださいよ!」
「メイ、元気でって……ちょっとおかしくないですか?」
「いーんだよっ!」

キサナのツッコミに口を尖らせて反論するメイ、その光景を見ながら、クイーンの姿はゆっくりと昇り始めていた。

『……ありがとう、メイ』

そんなクイーンを見て、何かを決意したように、トワが歩み出た。

「クイー……ン……!」
『トワ……?』
「わたしが……継ぎます……!」
『!』

彼女が今まで見せたことのない、強い意志を感じさせる表情で。

「トワ……イライトを……。あなたの……代わりに……」
『トワ……』
「私“達”よ、トワ」

トワの肩に手を乗せて、せつなも去りゆくクイーンに呼びかけた。

「ラビリンスの、トワイライトの未来は、私達の手で築いていくわ。だから……だからどうか、見守っていて!」

それはクイーンにとって、これ以上ない手向けだった。

『不思議なものですね。私の魂は、常世の園に還る。……でも最後にこうして、私自身の姿が、新たな仲間と共に、未来へ歩き出す光景を見ている』

メイ達の目からではもう、クイーンの姿は見えなくなりつつある。

「あなたのこと、絶っっ対に忘れないわ!!」
「わたしたち、いつまでも友達だよ!!」

美希も、祈里も、声の限りに叫んだ。

「達者でな~~~~!!」
「キュア~~~~!!」
「クイーン、幸せゲットだよ――――っ!!!」

タルトの、シフォンの、ラブの声も、しっかりと彼女のもとまで届いていた。


(クイーン……私は……)

その中で唯一、キサナだけが無言のままうつむいていた。

『顔を上げてください、キサナドゥ』

クイーンの声が、天空から彼女の心に語りかけた。

(私は、キュアグレープではないけれど。でも、あなたを想う気持ちは、彼女と同じだったから……だから……)

拳を握り締め、唇を噛み締めて、キサナは空を仰いだ。
涙にぼやけたその瞳には、もうクイーンの姿は見えない。

『あなたは本当の姉さまではない。でも、あなたが私を想ってくれた、その想いは本物です』
(アルカ……)
『ありがとう、キサナドゥ。……私の、もうひとりの姉さま』


「アルカ―――――――――――ッ!!!」


溢れる涙を拭おうともせずに、キサナは叫んでいた。
千年の間、ずっと呼ぶことを願い続けた、最愛の妹の名を。


『ありがとう、みんな。ありがとう、フレッシュプリキュア――』


気がつくと、王国の跡を見下ろす丘に、クイーンは腰かけていた。
その手を握っているのは、紅いマフラーをなびかせた一人の少女だ。

『……見えますか? 私達の街』

空から散ったサーペンタインの欠片が、見渡す限りの大地に輝きを灯していた。
それはまるで、かつての光溢れるトワイライトが蘇ったかのようだった。


『……ただいま……』


現世に別れを告げる瞬間、クイーンの魂は、あの約束の丘にいた。
――もっとも大切な人とともに。



『トワイライトよ、永遠(とわ)に――』



クイーンの後を追うように、無数の光が天に昇っていくのを、メイ達は見た。
数え切れない魂が、女王とともに昇天していく。

「みんな、クイーンを待っていたんだ」
「きっと、キュアグレープもいっしょです」

全ての光が消えた時、暗闇と静寂が支配する冥府の空に、小さなひとつの星が生まれていた。
明日の光に導かれ、過去の闇に支えられながら……世界はまた、ゆっくりと廻り始めていた。





<エピローグにつづく>





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